ブランドエディターとして生きる
これまでやってきた仕事でかつ、仕事の軸となっているのは、3つの経験です。1つは、IT系ウェブメディアの編集記者。2つ目はインターネットサービスのマーケティングコミュニケーション、3つ目は、企業のブランディングです。ウェブメディア、インターネットサービス、企業と、対象こそ異なりますが、それらの対象をより良い形で、必要な人に届ける。そのためのコミュニケーション施策を考え、実行してきました。仕事の軸にあるのは「伝えること」です。
振り返ると、私がやってきたことは「本当にいいと思う価値観やプロダクト、会社を、自分自身が真剣に楽しみながら、その良さをまだ体験していない人に伝えていく」ということです。最初は、その理想を実現するために、メディアのコンテンツを企画・編集しながら。次は、記事コンテンツ以外の様々なアウトプットに挑戦しながら。今は、企業全体のコミュニケーションを常に考えながら。
こういった役割を「ブランドエディター」ととらえています。ブランドとは、企業や組織、チームが持つ資産価値。エディターとは、その価値を正しく集めて、編み、伝えていく人。この考え方は、企業規模や対象を問わず、様々な場面で生かせるのではないかと思っています。
思い返せば、自分が伝えたいと思ったものは、自分にとって価値があると確信しているものであり、自分以外の誰かにとっても、絶対に役に立つものだと思っています。そういった対象は決して多くはありませんが、心の底から心酔したものは、やっぱり伝えていきたいと思いますし、自分自身が媒介となって伝達していきたいと感じます。
ただし、伝えたいものとをそのまま伝えたとしても、伝わらないのです。伝える仕事は、それを受け取る人があって初めて成立するもの。受けとっていただく人の気持ちと常に向き合いながら、「どうやったら伝わるか」を常に自問自答しながら、ブランドエディターの仕事をしていきたいと、常に気持ちを新たにしています。
自分自身で人生の経験を積めば積むほど、行動すればするほど、そういった「心の底から伝えたいと思える対象」との出会いは増えていきます。そんな時に、自分自身が媒介となって、価値を伝えられるように。ブランドエディターとしての仕事を徹底していきたいと考えています。(2018/10/08)
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2016年9月に下書きしたまま、公開できていなかった記事も残しておきます。
日本の会社から、ブランドエディターは育つか?
自社メディアの編集長をしているが、この仕事を狭義の「メディアの編集長」ととらえることに違和感を感じている。
メディアは「媒介」であり、何かと何かをつなぐことで価値を発揮するもの。「何か」とは人であり、ものであり、情報であり、感情であり、場所である。それ以外の項目も当然入りうる。逆に、メディアは「媒介」でしかない。
昨今、コンテンツマーケティングという1つのブームが起こっている。企業×マーケティングという文脈で、製品やサービスの売上につながるコンテンツを作っていくというのが王道である。もちろん、「欲しい人」と「求めるサービス」をコンテンツという「情報」でつなぐことは、媒介の役割を果たしている。
ただ、それだけだとあまりにも狭義すぎると感じているのも確かだ。Web編集者や自社メディアの編集長という役割ができていることもあるが、自分のやっている「メディアの編集長」という仕事の範疇は、それだけにとどまっていない。
Forbesの記事「「全ての企業はメディア化する」 コンテンツマーケティングの大潮流」を読んでいて、少しヒントが見えてきた。編集長と並んで「ブランドエディター」という役割への言及があり、これがしっくりきたのだ。
コンテンツに対する注目はここ5年で高まり、今ではコンテンツを作るチームを社内に設置して統括するブランド・エディターや編集長を置く企業も出てきた。企業の価値やミッションを伝えるためにジャーナリストを採用して、消費者を引き込むようなストーリーを描かせているのだ。パブリッシャーや従来のメディアだけでなく、コカ・コーラやIBMなどの大企業からスタートアップまで、パブリッシング専門チームを設けている企業は多い。
ニュース編集室のように、チーム内ではライティングスタイルやトーン(論調)、フォーマットを統一し、ウェブサイトやマガジンなどの媒体も管理する。コンテンツマーケティング企業Contentlyの編集長であるJoe Lazauskasは「本格的なコンテンツ専門チームを立ち上げる企業は5倍に増える」とみている
「企業の価値やミッションを伝えるために、消費者を引きこむようなストーリーを描かせている」。今の自分の仕事を端的に表すとこれである。編集というポータブルスキルを使って、企業が本来持っている考えやミッション、哲学、姿勢をひもとき、自分たちの伝えたい情報ではなく、生活者が知りたい情報にして、ストーリーを語るといったものだ。
企業が本来持っているものを編集する。これがブランドエディターの役割だと理解した。オウンドメディア運営というのはあくまで、ブランドを伝える手段の1つにすぎない。生活者と企業の間に、ブランドという文脈の架け橋を作るためのコミュニケーションをする。これがお題目であれば、手段はメディア以外にいっぱいある。
「編集」の対象を、メディアのコンテンツ企画以外に拡張させること。端的に言うと、これがブランドエディターが求められるアウトプットである。
いくら企業側があるべきブランドを生活者に伝えても、ブランディングはできない。ブランドは、生活者の心の中にあり、企業側がそれを都合の良いように書き換えることはできないからだ。
ブランドは、生活者と企業のコミュニケーションによって芽生え、生活者でその文脈が形成されることによってできあがる。企業側ができるのは、ブランドそのものを伝えることではなく、ブランドのストーリーを伝え、生活者にブランドについて考えてもらうのを支援することのみだ。
これは、Web編集者やWebコンテンツ企画担当者、といった役職からはなかなか見えてこない。逆に、ブランドエディターという役割が明確化されていれば、その人の仕事のミッションがはっきりと伝わってくる。
ブランドエディターという単語を検索しても、今書いた内容の情報にはあまり出会えない。ブランドエディターという職業自体が、まだ日本企業では定義されていない状態なのかもしれない。ブランドエディターという仕事を定義し、市場価値が備わる状態にできないか。最近はそんなことを考えている。