『こころまであと半歩』
初出: 2025-10-05(文学フリマ福岡11)
2024年11月〜2025年9月の日記をまとめて加筆した日記本
新書判178ページ
オンデマンド印刷
本文モノクロ
フルカラーカバー付
本分サンプル: 『こころまであと半歩』#68d4076900000000005852b9
ISDN: 278-4-885618-05-2
書影
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サンプル(「はじめに」より)
一貫性のある人に憧れがあった。ぶれない価値判断の基準を持っていて、何事も迷いなく論じることのできる人に。憧れのあまり付け焼き刃で真似ようとして、ずいぶんと愚かな言動をとってきた自覚もある。
少しばかり年を重ね、落ち着いて考えることを知った今、よくよく掘り下げてみればその憧れは、一貫した考えを持たない自分のコンプレックスの表れだと分かった。そしてさらに気付いたのは、一貫した考えなど持てなくていいということだった。
人間は生きていて、世界は常に変化している。ものをひとつ学べば見方は変わるし、何気ない一言で物事の意味も左右される。ひとりの人間に徹頭徹尾の一貫性なんて望めない。だって、〝一貫した人生〟なんてたぶん存在しないからだ。
一つひとつの出来事に繋がりはなくとも、日々は連綿と続く。
わたしの毎日にオチはつかない。ただ生活が続くだけ。それをただ記録してるだけ。
今日が始まり、そして終わる。夜が明ければ明日が始まる——それはただの言葉の綾だ。人々が寝ている間も地球は回り続け、時計の針は律儀に文字盤を周回していて、そこに明確なゴールラインなど存在しない。けれどわたしは布団にもぐりこんで目を閉じることで、足掻くように線を引く。うまくいかなかった《今日》というそれを終わらせるために眠りにつき、まるで新しく訪れる何かを祈るように背伸びをして、起き上がる。それは小さな店を営むのに似て、確かな責任と、ささやかな楽しさをともなう。わたしに自信なんてないけれど、これまでの日々で受け取った言葉を支えに心ばかりの看板を掲げて、そろりそろりと店を開けるように足を踏み出す。そういえば「営み」とは、生計を立てるための仕事だけではなく、日常や、暮らしについてをも指すのではなかったか。
一日は始まった。シャッターは上げた。看板も出した。
わたしの今日が開店する。