行動経済学とは
心理学と経済学を合わせた学問です。利益を目の前にしたときの人の行動が主な研究対象で、マーケティングなどの分野にその知見が活かされています。
行動経済学では「コンピューターのように合理的ではない、リアルな人間の心理や考え方」を踏まえて経済理論を展開します。ここが従来の経済学と大きく異なるポイントです。
・損失回避の法則
損失回避の法則とは、人は得をすることよりも損をすることの方をより重大視する傾向がある、という法則です。1979年に「プロスペクト理論」という論文の中で発表された、行動経済学の基板となる理論でもあります。
たとえば、「A:無条件で2万円もらう」「B:5万円を50%の確率でもらえるが、失敗すれば何ももらえないというゲームをする」という2つの選択肢を用意した場合、多くの人はAを選ぶという傾向があります。
計算上ではBの方が期待値が高い、つまりお得ではあるのですが、多くの人は「確実にもらえる2万円を失うかもしれない損失」に引っ張られて、確実に利益が出るAを選んでしまうのです。
一方、「A:無条件で借金10万円が2倍になる」「B:50%の確率で借金10万円をゼロにできるが、失敗すれば借金が5倍になるというゲームをする」という選択肢を用意すると、今度はよりリスクの高いBを選ぶ人が多くなります。
これは、リスクを負ってでも「借金をゼロにできるかもしれないチャンスを失う損失」を回避したいという気持ちが働くために起こる現象です。
このように、人の意思決定には確率や期待値といった計算以上に、損得に対する感情が大きく影響します。そして「得をしたい」よりも「損をしたくない」という気持ちの方が影響度が大きいというのが損失回避の法則です。
確実性効果
確実性効果とは、人は「確実なもの」を好むという現象です。
たとえば「100%成功します」という表現と「99%成功します」という表現では、受け取る印象が全く違うのではないでしょうか。実際にはたった1%のごくわずかな差でしかないのに、心理的にはそこに1%以上の大きな隔たりがあるように感じてしまうのです。
また、「絶対に起こりえない事故」と「1%の確率でしか起こらない事故」という表現についても同じです。計算上の起こりやすさにはほぼ差がないのにもかかわらず、1%でもあるといわれただけで本当に起こってしまいそうな気がしてしまいます。
実は保険という商品は、こういった人の心理を上手く利用したものです。「起こる可能性はほとんどないが、ゼロとはいい切れないもの」を過大評価してしまう心理は、保険に加入しようという動機を大きくする効果があります。
サンクコスト効果(コンコルド効果)
サンクコスト効果とは、今までに費やしてきた費用や時間を「もったいない」と感じる気持ちが、意思決定に影響を与えることをいいます。
皆さんは「これだけの労力を費やしてきたのに、いまさら諦めるなんてできない」と思った経験はないでしょうか。これから費やす投資よりも過去に続けてきた投資の方が、人にとってはより重要に感じられるからです。
そのため、なんとかして今までの投資分を取り戻そうという心理が働きやすくなり、冷静で合理的な判断ができなくなってしまう場合があります。
たとえば、ギャンブルで負けが続いているにもかかわらず「次こそは当たるかもしれないから」という心理から投資を続けてしまい、余計に損失を大きくしてしまったという話はサンクコスト効果が働いた典型的な例です。
ちなみにサンクコストとは直訳すれば「沈んだ費用」、つまり投資したにもかかわらず回収が不可能になってしまった資金や労力のことを意味します。