000.水の音(前編)
高校生
墓参りの帰りはいつも、緊張が解けてどっと疲れが出る。いつだって電車は満員。中途乗車の客に慈悲はない。けたたましい音が鳴って、体のすぐ横でドアが閉まる。目を閉じる。
再生ボタンを、押そう。
『沈丁花』は、爽快感溢れる音色が特徴の曲だ。摩擦音の混じるスネアを含んだフィルインからスタートする。伸びやかで水気のあるギターのストローク。埋没するハイハット。間を置いて、ぽろぽろと踊るようなピアノの音色が降ってくる。耳の端を掠めるような打鍵音。エフェクトの中で反復されるコードが体に染み込む。
歌声のない曲をバックに、窓の向こうの灯りが鮮やかに軌跡を描く。焦燥感を煽るようなスネアのロールと、それさえも飲み込むリバーブ。
後ろむきに引っ張られる感覚と空気の音がして、ドアが開く。外気が吹き込み、数人の入れ替えがあってから、またドアが閉まる。乗り物は、特別な箱だ。その中でも、電車はもっと特別だ。車とは違って、多数の他人と空間を共有するのに、外とは隔絶されている。飛行機とは違ってすぐ窓の外に人が見えているのに、彼の人生には触れないまま俺たちは走り去る。
こうやって思考を巡らせてはいるけれども、耳を埋めるのは好きな音だ。そこだけは間違えない。何より、今肩から提げている鞄の中にはCD屋の棚から迎えた新しいアルバムが入っている。興味のないふりを装いつつ、実は少し緊張している。
微かなブラウンノイズを残して曲が終わった。リピート再生で、また同じスネアが鳴りだすのを感じながら、ホームに足を踏み出す。夜の駅は良い。週末の夜は好きだ。
浮ついた週末の雰囲気を存分に感じていたかったが、今日はそれより優先すべきことがある。上滑りしがちな感覚を抑えようとするものの、待っているのは俺の好きな音を鳴らしてくれるバンドの、それもアルバム。メジャーデビュー後初のアルバムだ。
開封する前からもうこんなに心が満たされている。古くなったアスファルトを叩く感触にも、鈍い明滅を漏らす自動販売機にも気分が弾む。単純だな、と思う。その方が燃費も良くて、ちょうど良いんだ、とも思う。
家に誰もいないのはいつも通り。鍵を机に放って、電気をつける間も惜しんで鞄からタオルの塊を掴む。ビニールの包装を丁寧に剥ぎ取り、ジャケットに見入る。それから、慎重にディスクを取り上げ、
機器の中へ滑り込ませた。
aqua ball———アクアボール。東京都出身、現在は北海道に拠点を置くスリーピースバンド。メンバーは、主にボーカル・キーボード系・作詞・作曲を担当するフロントマンのサキ。ギターやベース担当のユキ。ドラムス、パーカッションを担当するレン。この三人。よく見るバンドみたいに、かっちりポジションが決まっているわけではないみたいだ。アルバムの歌詞カードの後ろの方を見ると、サキがギターを弾いていたり、レンがシンセを弾いていたりする。本名は非公開。
ロックバンドと言われてはいるけれど、出すCDごとに曲調・ジャンルが変わっていくから断言するのは難しいような気がする。ロックも、ニカも、ジャズも、フュージョンも、ドラムンベースも、ハウスも、アンビエントも作る。ハイファイもローファイもやる。インディーズで一枚アルバムを出してから、北海道に自宅兼スタジオを構え、そこで二枚のシングル、それから一昨日俺が買ったアルバムをリリースした。ボーカル曲とインスト曲は、CDになっていないものを含めると五対五の割合。円盤として売り出されている曲の他にも、そこそこの数のカバーやオリジナルインストなんかが動画投稿サイトに放流されている。ファーストシングルの表題曲なんかは、ストレートなポップスだったから、有名だと思う。
そこまで語ってから俺はスプライトを飲む。
「一緒じゃん。名前」
向かいで弁当を広げる久人は卵焼きと一緒に俺の話を咀嚼した。昼休みの調和は、さざ波のように心地よい音量で保たれている。
「まあ、だから聴き始めたっていうのもある」
「雪がそんなに推すならいいバンドなんだろうね。僕も『echo』は聴いたことあるよ」
「そっか」
机の上に散らばるパンの袋を集めてくしゃくしゃにする。ポケットの中にはウォークマンとイヤホンが入っている。今日はアルバムの中の『Wataridori』を聴いてきた。過剰に悲しすぎないが、切なさのあるエレクトロな四つ打ちロックだ。
ゴミを捨てに行くために立ち上がろうとして、久人が息を吸ったのに気づく。
「貸してくれるわけじゃないんだ?」
「……お前、好きかなあ?」
人に何かを勧めるというのは、生きていく上で難しいことの一つだと思う。不動の二大巨塔は、悩んでいる人の心を救うこと。それから、いつまでも覚えておくこと。
もちろんaqua ballのCDはインディーズ盤から全部所有している。貸すことに躊躇いはない。彼らの曲に自信がないわけでもない。でも、どんなに優れた曲だって、一定数の人はそれを不快に思う。現に俺にとって好ましい曲も多いけれど、その逆、一秒で切り捨てる曲だってゴミのようにある。
久人の感覚を信頼していないわけではないが、それとこれとは別問題。俺の好きなもの全部が、他人と完全に一致するわけじゃない。好みではないものを押しつけてしまうのだとしたら、それは気が引ける。
「兄さんがいろいろ貸してくるから、ステレオタイプな曲しか聴かないわけじゃないよ。っていうか、聴かなきゃわからないじゃん」
さすがに正論だった。幼馴染だから、遠慮がない。
「お前、人生で一番好きな曲は?」
「迷うね。ああでも、『波のゆくさき』かな。ドラマのオープニングだった」
出だしのわりにタイトルはあっさりと告げられた。静寂の中のアルペジオと揺蕩う音色を思い出す。
「ああ、二番Aメロのベース好き」
途端に頭の中で流れ出す原曲に聴き入りながら言うと、目を丸くして久人はため息をついた。
「本当、すごい聴き方するよね」
指摘されるほど特異な聴き方はしていないと思う。自分ではそう思うのだけど、なんとなく久人と話しているとそうではないのかもしれないと感じられる。
どのパートのどの音も聴き逃したくなかった。刹那の感触、残響まで余すところなく頭に刻み付けておきたかった。そうするに値する曲しか懐に入れない主義だ。最高に自分勝手な趣味だ。誰に何を言われようと俺はいい加減で薄っぺらい音楽は聴きたくない。もっと考えてくれ。もっと自分たちで音楽を聴いてくれ。吸収して、それから、自分たちの主張を音に刻み付けてくれ。声にだけじゃなくて、言葉じゃなくて、あんたたちが鳴らすその音にこそ。どんな音を奏でたいのか、もっと聴かせてくれ。もっと鳴らしてくれ。傲慢にもそう思っている。
そうじゃないと、世界を移れないから。
「中学の頃の、吹奏楽の顧問がさ、『どのパートのどの音にも無駄な音なんてない。どれも欠けてはいけない』って」
「うんうん」
久人はきちんと話をきいてくれている。
「部員の意識向上のために言ったんだろうけど、あの言葉がずっと残っていて。層に埋もれたその一つ一つを捕まえることが義務みたいな感じが、する。聴こえづらくても、存在していたら、その音は俺が聴かないと消えるんだ」
「意外に真面目な聴き方じゃん」
「意外ってなんだよ」
「楽しみ方としてありだとは思うけど、僕はそこまで向きあってないなぁ。もっと気楽に流してる。日々のバックグラウンドミュージックとして」
感覚を共有できない悲しさはなかった。自分でもうまく言い表せないことについて真剣に言葉を返してくれる存在は貴重だ。その誠実さに、俺はいくらか報いた方がいいような気がする。けれど、俺にうまくできることなんて、多くはないんだ。
だから約束する。
「今度、貸すよ」
「楽しみにしてる」
新しいアルバムは、それはもう良い曲ばかりだった。百回逆立ちしても、このアルバムの良さを語りつくすことはできないだろう。歌詞カードを片手に極めて誠実にディスクを再生した結果、最後の音の余韻が消え去ってからしばらくの間縫い付けられたように動けなかった。一枚のCDとして、初めから終わりまで完成されていた。圧倒的な数の選択の末、出来のいい実が均等に美しく幾何的に並んで、それで空間が埋められていた。聴いても聴いても、飽きることがなかった。ひっかき絵のように、釘を当てたところから新しい色が現れた。その全てが、涼しく心を洗う。よくある曲に抱く「こう動いてほしいのに」というもどかしさを、彼らは知らずに叶えていくのだ。
全部で十三曲。浮遊感と潤いに満ちた音で綴られた、青色の冷たい世界たち。ぽつりぽつりと沁みるような電子音で織られたインストから始まり、アコースティックギターとグラニュラーシンセシスで配置される音の群れが幽遠なエレクトロニカで幕を下ろす。
久人にあんなことを聴いておきながら俺は“一番”を選ぶことができなかった。このアルバムの中でさえ。その時々の気分で曲に対する評価が変わる(といってもSからS++で変動するようなものだが)のだから仕方がない。今この瞬間において一番を選ぶなら『みずしぶき』だと思う。水気をたっぷり含んだ音色のピアノが溢れるポストロック。十分に計算された間が、緊迫感を生む。ちょうどよく濁ったベースがうねり、ギターがその波に乗ってふわりと残響を残す。効果的に挟まれるリムショットが絶妙で、独特なリズム感を作り出している。
そもそも、一番を選ぶというのが間違っているのかもしれない。アルバムは全体で一つの大きな流れを持っている。それを構成するシーンが曲の一つ一つなのだろう。場面が移り変わるには確かなリレーがある。曲が終わった瞬間の無音、脳に響く銀世界の沈黙を無視したところで、作品全ての素晴らしさを語れるはずがない。
ガタリと音がしてピアノの蓋が開く。溢れんばかりのこの感動を、どうにかして吐き出したかった。彼らの鳴らす音を自分でも鳴らしてみたかった。聴いたばかりの旋律をひとつひとつ形作っていく。三日前に初めて聴いた音だというのに、アルバム曲のメロディーが自分の中からするすると出てくることへ驚きが隠せなかった。それだけキャッチーで、でも俺の心をしっかり捕らえて離さないということか。音を捕まえることに対する義務感について語ったが、正確には音の持つ魔力と目が合って、それらが向かってくるところから動けないだけかもしれない。
気づくともう遅い時間だった。水を取りに行くため、部屋を出た。ダイニングに置かれたCDラックには、俺のものではないディスクが並んでいる。この家で俺のものではないということはすなわち、父のものだということだ。坂本龍一、松岡直也、グレン・グールド、矢野顕子、パット・メセニー、一枚だけのビートルズ。フュージョンとピアノ曲が中心。俺が聴いたことのあるものもあれば、手を出したことのないものもある。なんとなく気が引けて、ここに自分のCDを立てたことはない。父のCDが共用として誰でも鑑賞できるのに、これでは不公平ではないかと考えたこともあったが、自分の好きな曲を父が好むとも思えなかったのでそのままにしてある。
俺のウォークマンにも坂本龍一のピアノアルバムが入っている。楽譜を購入したときに、一緒についてきた模範演奏だ。『戦場のメリークリスマス』も好きだが、『Aqua』もシンプルかつ美しい上昇の旋律で、とても良いと思う。
彼は娘のためにこの曲を作ったそうだ。
物音で目を覚ました。スリッパをつっかけて部屋から出ると、ダイニングの光が目に刺さって、少し痛かった。
「おかえり」
「ただいま」
なんてことのない挨拶が、ひどく懐かしく思われた。疲労の色を滲ませた出張帰りの家長は鞄の中から土産を取り出す。
「何か作ろうか?」
「お前こそ、晩御飯は?」
「いや、早めに寝たから。腹はへってるから付き合うよ」
ただ単に眠気が強かったからそれに任せて寝てしまっただけだ。父はネクタイを緩めながら思案する。シャツを開襟にしてから、鞄の中の財布とキーホルダーを手に取り、ポケットに詰め込んだ。
「うどんでも食べに行くか」
「いいけど。運転するならそっちは酒飲めないんじゃねえの?」
「別にいいさ」
施錠とエレベーターの呼び出し。電源を落としていた箱が浮き上がってくる。廊下の外側から吹き付ける風が、夜の匂いをまとって俺たちの体にまとわりつく。静寂を吸ったアスファルトはしんみりと足音を返す。どこからか花の香りが漂ってくる。駐車場では音もなく車たちが蹲っていた。マンションの中で、誰かが起きているのだろうか。誰かが目を覚まして活動しているならいいと思う。なぜかはわからないけれど。その方が安心する。
バタンとドアががなって、そこは閉鎖空間。車は滑らかに動き出す。助手席に座ることは許されていない。誰に何を言われたわけでもないけれど、俺の乗る場所は、いつまでも後部座席だ。多分、前置きなしに左前側のドアを開けても、父は気にしないのだろうとは思うが、進んで均衡を壊そうとするほどの勇気は持ち合わせていない。
俺は違う生き物だ。
車内にまで響く音で、高架の上を貨物列車が走っていく。日中、ここを身一つで通ると、どれだけ大音量で曲を聴いていても、電車が頭上を過ぎる瞬間は轟音に体を支配される。
「何か流すか」
「なんでもいいよ」
踏み切り待ちの間に行われる選曲。松岡直也の『9月の風 1985』。俺の好みの音圧には少し及ばないが、1サビ後のキーボードのモントゥーノと、それに被さるストリングスが好きだった。
勝手に父のCDを借りた手前あまり感想を伝えることはない。ああでも、そういえば、ピアノでカバーしようと苦心していたときに聞かれてしまったことはある。ありがたいことに嬉しそうな顔をしてくれたので、そこで初めて、人に聴かせるという点において、ピアノを習っていてよかったなと思ったのだった。
完全な暗闇をこの街で観測することは非常に難しい。ぼんやりと沈むビルに、住宅の群れ。曇り空の遠く下に、管制塔の灯りが見えている。人の気配はしないはず。だというのに、突如として大型のトラックとすれ違い、薄い窓がビリビリと震える。確かにまちは呼吸している。
年中無休二十四時間営業ののぼりが立ったチェーン店の駐車場で車は停まった。店内には、煌々とした電球の下で熟睡する中年の男と、若い作業着姿の二人連れ。どちらからも遠くなるようなテーブルに腰を下ろす。夜中とも早朝とも言い難い時間にこうして何かを食べに出るのは初めてじゃない。親父も俺も、このあとどうせひと眠りするんだから健康にはよくないんだろうけれど、カップラーメンを部屋で啜るよりかは心身に優しいはず。今日が祝日で何よりだ。
「今日はどこか行くのか?」
「特に予定はないよ。そっちは? 今日は休める?」
「ゆっくりするよ。帰りにこっちの工場にも顔を出したから遅くなったけどな」
会話の裏で、日の暮れたあとの工場の敷地に立つところを幻想する。砂煙の向こうにそびえ立つ鉄の塊。稼働し続ける大きな機械。一つ間違えれば人を殺す。そんな化け物を制御するために今も誰かが目を凝らしている。
どちらが操られているのかわからなくなってくる。俺もそういったものを扱っている。それに感情を叩きつけているようで、実質振り回されている。音楽とうまく付き合えている自信はない。
熱い茶を啜りながら、親父は何か言葉を探しているようだった。考え直せば、一緒にいられる時間は少ない。でも、黙っている時間だって悪くはないはずだ。
「まあ、まずは何か頼もう」
俺はいつもきつねうどんを頼む。毎回変わることはない。優柔不断なのは父だった。多分、俺のこれは母譲りなんだろう。昔、決断の遅さでよく母にむくれられたと、彼はそう話していた。
結局、父は塩鮭定食を注文した。さほど時間が経たないうちに、続けて食事が運ばれてきた。きつね揚げの甘さが口に広がる。熱い飯は格別だった。エネルギーがなきゃやっていけない。親父も、うまいなぁと言いながら顔を綻ばせて食っている。
何気ない幸せだった。家族との食事は、俺にとって希少な機会だった。
俺は、幸せが奪われる光景が、それこそ吐くほど嫌いだ。目の前の人がこれまで得てきた幸せ。その中でもう奪われてしまったものについて考えると、やっぱり居た堪れない。幸せなままで居てほしかった。いろいろなことに目が向く年齢になって、息を落ち着けて考えると、そういう結論に達する。俺は。
俺は、償うことはできないんだろうか。
答えはわかりきっている。
「お茶、汲んでくるな」
「ああ、ありがとう」
子供にできることなんて、何もないんだ。
目を覚ますと九時前だった。諸々の順序を経て、玄関で靴を履き、イヤホンを耳に当てる。aqua ballの、円盤として売り出されていない音源。シンセパッドをグラニュラーで調整した、浸食のインストゥルメンタル。アンビエントとエレクトロニカの合いの子のような、主旋律の存在しないBGM。時報のようなチャイムが不規則に乱立する。脳にひたひたと沁み込んでいく。
家の中にいるのがもったいなく思えるような陽気だった。トラックはやがて次へと移る。いつもより乾きの多いギターの仕上げ方。ただの電気信号とは思えないほどに意思を持って蠢いているベース。音色と入り組んだ旋律に反して、総合的な雰囲気は平穏に退屈。スネアドラムの功労は偉大だ。
料理のレパートリーが貧しいので、逆に買うものに迷わない。
次の曲はaqua ballから離れた。The Album Leafに移った。平淡に音が鳴って、増えて、空間に世界を描いていく。低いピアノと、線の張った電子音。つつましいパーカッションが小節を区切っている。ひんやりしたまま、変化はない。ないように見える。でも知らない間に背景が塗られている。単音のギターが物寂しく左側を支える。だんだんとリズミカルになっていく。おだやかな夜明けだ。確かに視界が開けたのを感じる。朝日が昇る。劇的ではない感動が波のように足を弾き、ひそやかに去っていく。
『Into the Blue Again』だったか『In a Safe Place』だったか。どちらのアルバムかは忘れてしまったが、とにかく、それは廃市民プールを改造したスタジオで録音されたらしい。天井の高いがらんどうの入れ物。端の方は光が差し込み、染みついた塩素の匂いが鼻をつく。正常に使われていたときは、楽器を持ち込むなんて到底考えもつかなかっただろう場所が、今ではカラカラに乾き、以前と別の波を反射する。録音に立ち会ってみたかった。
父はぐっすり眠っているようで、ビニール袋の音がしても部屋の扉は開かなかった。買ってきた炭酸水を一息に煽って、机の上に放りっぱなしにしていた携帯を手に取る。
“十一時、駅の改札。来れる?”
メッセージが一件入っている。久人からだった。せっかくだから、今日は家にいるべきじゃないかと思って、だからこう返す。
“親父が帰ってきたし、飯はこっちで食いたい”
“ご飯食べてからでいいからだめ? 本屋に行きたいんだ”
迷った挙句に、どちらともとれない文しか送れない。幼い頃からの付き合いだが、こいつもふてぶてしく育ったなと思う。
“考えとく”
“待ちぼうけは勘弁ね”
“わかってる”
曲は変わっていた。終わりかけていた。“ああもう駄目なんだって”と追いかけてアウトロに入った。またaqua ballに戻って、1st アルバムの『Wataridori』。
その曲の歌詞は一篇の物語だった。話の中にいた彼は、死にきれたのだろうか。それとも、“君”の終わりを目に焼き付けたまま、渡り鳥をやめられなかったのだろうか。曲の終わりはフェードアウトではなく、全パートの手によってはっきりと句点がついていた。いつかは忘れてしまって、一区切りがつくのだろうか。シンセサイザーも、ギターも、ドラムも、ベースも、言葉では語ってくれない。だからこの問答は繰り返される。自分の中でも答えは変わっていく。十年後、この曲を聴いた俺はどう思うのか。今、それを知りたい。
「なんだ、起きてたのか」
のっそりと父がドアを開けた。朝の光も和らぎ、祝日に街は浮足立つ。昼はどうする? また外に食べに行ってもいいぞ。じゃあ、和食のファミレス、あそこの角にあっただろ。なんだ、和食でいいのか。ちょっとでも健康に気を付けよう。それもそうだな。
素直に公共の交通機関を使う。運よくバス停についたところで、向こうから車両が近づいているのが見えた。
「せっかくいい天気なのに、遊びに行かないのか」
「そっちは?」
「ちょうど見たい映画があるから、見に行こうかどうしようか迷ってる」
「じゃあ俺も出かける」
バスがずしりと大儀そうに止まる。休日だが、満員というほどではなかった。整理券を手に、一番後ろの席を悠々と占領することができた。
「久人から誘いが来てたんだ。夕飯は作るから、そのぐらいの時間には戻る」
「おお、助かる。じゃあ、昼を食べたら解散にするか」
頷いたら、ひとまず会話は終わる。建物に遮られた日光が顔を出して、それからまた影に隠れて、視界がちかちかと瞬く。すれ違う家族連れが楽しそうに笑っていて嬉しくなる。
悲しい曲を聴いているからといって、当の本人が悲しいとは限らない。今の俺は、そんなにつらくはない。もし本当につらいときは、淡々とした良い音の曲を、ただひたすらに綺麗な音の曲を聴きたくなるんじゃないかと思う。今のところ、そんな曲に世話になることはなさそうだ。
腹を膨らませて、父と別れ、駅に向かった。バスの方が早いだろうが、今度は乗り遅れてしまった。十五分待つより歩く方がよっぽどいい。音楽を聴いていればすぐだ。久人と連絡を取ると、向こうも昼を食べ終わって店から出たところらしく、駅前広場ですぐに会えた。
「昼ごはん何食べたの?」
「エビフライ」
「お子様ランチ?」
「いや、違うって。お前は何を食ったんだよ」
「カレー」
「甘口?」
すぐやり返すところが子供なんだと、自分でも思う。
「違いますー」
歩き出す。テンポが整っていく。互いに全く別のことに注意を向けているが、会話は成立する。青い世界が視界を掠める。日の光で背中が暖かい。いい天気だ。
「何買うんだよ」
「参考書? ああ、あと、買うかどうかはわからないけど、一個専門書見ておきたいなって」
「ほんと勉強家な」
俺とは違う人間だ。
「まあ、好きだし、将来やりたいことが決まってるからね。みんなが思うより息抜きもしてるけど」
「知ってる。で、本屋に行くだけじゃないんだろ」
「コーヒーのおいしい喫茶店見つけた。行こうよ」
「買ったばっかの本読むだけなら俺は帰るからな」
「なんでよ、本なんて一人で読めるじゃない。ちゃんとお話ししてあげるよ」
「なんだこいつ」
自分に酔うタイプの久人だけど、そういうところは俺にしか見せないから、周りには良い印象を持たれているみたいだ。霜坂くん、好きな人いると思う? なんて、何回訊かれたか。俺じゃないのは確かだ。
生憎と我らが地元駅は規模が小さい。俺達は改札を抜けてプラットホームへ向かう。
電車の運行に問題はない。何事もなく目的地へと着いた。休日はいやになるぐらいの人出だ。ホームから本屋まで、三回は肩がぶつかった。
「僕、三階行ってから五階行くけど、雪はどうする? 何か見たいものある?」
「ない。着いてくよ」
一階と二階は混雑していたが、階層が上がるにつれ扱う書籍の専門性が増すのもあって、人は見当たらなくなっていった。ポケットの中のウォークマンを取り出そうか迷って、やっぱりやめた。久人は物理の問題集をぱらぱらとやっている。俺の成績は可もなく不可もない。将来に特別な願望を持っているわけでもなかったから、教師に叱られない程度の点数を取れれば良いという具合だった。
「なんでそんなに勉強するんだ? おばさんに言われてるとか?」
「いや? うちは放任だよ。雪のとこと一緒」
俺のところは“あえて”ではなく、多忙を極めた結果口を出す頻度も減ったという流れだと思う。関係は悪くないはずだが、相手のためという言い訳で、俺も父も上手く話ができない。
「いくつかあるけど、まず、知らないことを知るのは面白いよ。僕、けっこう本も読むけど、そうやって知識を増やすのはゲームのレベリングに似てて楽しい。ゲームと違っていくらやっても怒られないしね。
あとは、高校生活において、試験のときのピンチってかなり切羽詰まったもんじゃない? クラスメートに泣きつかれてもちゃちゃっと教えられるの、かっこいいじゃん?」
やっぱりナルシストだ。
「だから雪も困ったらいつでもどうぞ」
「必要にせまられたらな」
「いや、勉強に限らずね」
どうして喋りながら問題集を選定できるのかわからないが、久人は本を見たままそう言った。
「は?」
「話したいことがあったらいつでも言いなよ」
「なんだよそれ。そもそも、いつも喋ってるじゃねえか」
「なんていうのかな。もっと大事なこと?」
「例えば?」
「うーん、秘密の告白とか?」
「俺、別に人殺しなんてしたことないぞ」
言ってから気づいた。ないことに、なるんだろうか。
「そっち? まぁ、今のはたとえなんだけど。ため込んでいいのはお金とおいしいものだけだからね」
「……気をつける」
ここで久人が困ったような顔をするのが、俺にはよくわからない。
「思い出はほどほどにね」
「なんだそれ」
五階に上がって棚の間をうろつき、久人は二冊、俺も流れで一冊本を買った。がやがやしていない紙面の、遠い町のガイドブックだ。乗っていた景色がきれいだったんだ。
久人おすすめの喫茶店に向かうと、古いが落ち着いた内装のその店は、裏路地にあるせいか客が少なく、休憩にはいいように思われた。俺はコーヒーを頼む。久人はキャラメルラテにケーキまで頼んだ。
「口の中が砂糖まみれになるぞ」
「本望だよ」
自分であんなことを言った手前、本を取り出せずにいた。視線を窓の外に逃がす。手を繋いで歩く親子。仲睦まじく寄り添う老夫婦。中学生らしい容姿の女子が、集団で笑い合っている。
「平和だね」
俺の視線の先を追った久人が、ぽつりとそう言った。注文した飲み物とケーキが、おそらく店主らしき女性の手で運ばれてくる。俺は何も入れずにコップを持ち上げる。コーヒーは目の覚めるような香りで、酸味はそれほど強くない。日替わりメニューは、紅茶のシフォンケーキだ。
「何にも追われていない時間っていいね」
「お前、今どきの高校生にしては予定ガラガラな方だろ。部活もしてないし」
「それ、雪が言う?」
フォークに乗ったケーキの欠片で押し問答が繰り広げられたが、結局こちらが観念することになった。淡い甘さで、なかなかうまい。うまかったが、その強引さから、素直に言うのは憚られた。
「ねぇ、昨日サイト見てたんだけどさ」
俺は目だけで続きを促す。
「その、aqua ballのライブとかには、行かないの?」
なんとなく今まで、頭の中に、ライブに行くという選択肢がなかった。ライブの存在は知っていたし、金銭的に不可能なわけでもなかったけれど、でも自分があの熱狂の中にいるところを想像できなかった。
もちろんアルバムリリース記念ツアーの詳細を調べなかったわけではない。だが、激戦区東京は日程が迫っているのもあってすでにソールドアウト。遠征を考慮に入れても、学校との兼ね合いで、参加はほぼ不可能に思えた。
「無理だ。東京はもう満員」
「他は?」
「九州まで下ってから北上ルート。基本平日。ファイナルが北海道で、それだけ土曜だけど、さすがに遠い」
「ふーん」
ケーキはなくなる。コーヒーも冷める前に。また窓の外を見る。考える。なかなか遠出はしたことがない。本当は、どこへでも行けて、なんでもできるはずだ。掘り起こしてみるとなるほど、長い距離を移動するビジョンが浮かばないのも不思議ではない。修学旅行で長野と京都・奈良に行ったことしかない。新幹線。中学のときは、帰りたくて仕方がなかった。
ふと顔を上げると、久人はこちらを見ている。退屈させたかもしれない。
「なんだよ」
「いーや」
「ならいいけど」
どこかに行けなくたって、こいつのいるこの街なら、安心するし、いいけど。
久人の家にいた。CDを貸すついでに寄ると、おばさんが夕飯を食べて行けと言うので、部屋で待っていた。気にかけられている自覚はある。今日も父は会社に泊まり込みだ。プロジェクトが大詰めだと聞いた。気にしないでくれと言った。
俺は音楽を聴きながら携帯を触っていて、久人はさらさらと勉強している。人がいるのに集中できるのかと訊くと、余裕と返ってきた。そういえば前にもこういう会話をした気がする。
「もう終わりにするし、なにか喋ってもいいよ」
まさか言葉が続くと思っていなかった。イヤホンを片方外す。
「この前買った本、どうだったんだ」
「よかったよ」
どうせ説明されてもわからないので返答はそれでも良い。
「もう読んだのか」
「二つぐらい、前から疑問だったシステムの解を得たよ。おかげで寝不足」
一段落ついたのか、久人は椅子を回してこちらへ向いた。大きなあくびもおまけでついている。平日の夕方だが一軒家はやっぱり静かだ。俺も、持て余した退屈を吐息に混ぜ込んでさらに片方のイヤホンを机に落とす。
「あのさ」
にやけた顔で楽しそうに話を切り出そうとする久人を見ていると、昔のこいつが嘘のようだと感じる。言いたいことも言い出せずに泣きながら縮こまっていたガキはあっという間に一丁前の男に成長して、対する俺は何も変わらない。曇天のような憂鬱を飲みこめずに、かといって棄ててしまうことも壊すことも出来ず、机の上に置いては眺めてばかりいる。取り出すたびにそれは暗くなっていく。
「やっぱりライブ行こうよ」
「……お前、まだ曲聴いてすらいないくせに」
「コアなファンだけがライブに参加できるなんて決まりはないよ。初心者にだって門戸は開かれているべきだ。それに、Youtubeで一通り聴いたよ」
実は久人がそこまですると思っていなかったのでひそかに驚いた。
「で、感想は?」
「いいじゃん。僕は好きだよ、ああいう曲。音づくりが丁寧だからハイテンポでも気分が落ち着きやすいね。ボーカルの人の声も柔らかくて良い」
ひとまず安堵する。鞄の中に束で持ってきたアルバムやシングルは無駄にはならなさそうだ。そして疑問は解決されていない。
「で、なに。札幌ラーメンでも食べたくなった?」
「それもいいね。ついでに食べよう」
久人は足を組んでその上にパソコンを乗せた。
「雪にはさ、楽しい思いをする機会が少ないと思うんだ」
「はぁ」
どうやら説教が始まるらしい。大人しく聞くことにする。途中で腹が鳴らないかだけが心配だ。
「いいじゃん、もう高校生なんだし、遊ぼうよ」
「その接続詞はおかしいだろ。それにお前が言うか?」
「あのね、僕なんか全然ガリ勉のうちに入らないからね。世間には予備校で缶詰になってる子もいるの。僕は十分遊んでるよ」
「なら、俺だって……」
「雪、僕がいないとバイトか家事か音楽鑑賞ぐらいしかしないじゃん。もう部活やってないんだし」
高校生となればいろいろ余計な部分に気が回るし些細な部分がままならない。北海道ともなると金銭的にも負担が大きいし、どうでもいいと思っていた学業にも目が向く。娯楽のためだけに家を空けるのもどうなんだろうと思う。
生演奏の力を測りかねてもいる。精緻に組み上げられた録音データで十分に満足できているのだから、こんなに悩んでまで踏み出さなくてもいいんじゃないか。
「と、悩む雪に朗報です」
久人が手招く。指されるままパソコンの画面を見ると、aqua ballの公式ツイッターアカウントページが表示されていた。今晩、九時からライブ配信をやります。そう書かれてある。つい数分前のものだ。ドラマーのレンが書いたらしい。
「曲聴いてたりPV見てるだけじゃわからないじゃん? 観てみようよ」
何か言おうと息を吸ったところで階段下からおばさんに呼ばれる。言葉は、透明でつかみどころのないものになって消えた。まるで音みたいだ。
お手製の春巻きと肉じゃが、薄揚げと大根と菜っ葉の味噌汁を頂いて部屋に戻った。今度久人と北海道に行くって聞いたよ? と言われて、そんな予定はありませんと答えなかった俺を心底褒めたい。外堀から埋めていくのは心臓に悪いからやめてくれ。
兄の部屋からヘッドフォンを持ち帰った久人が俺にそいつを寄越す。
「そっちでいいのか」
ごく普通そうに見えるイヤホンを指すが、こだわりがないからと断られた。
予定開始時刻五分前、画面には俯いて座る一人の人間が写し出されている。彼女はチューニングを済ませたであろう水色のギターで何かを爪弾いている。よく聞いているとそれが、インディーズのころに発表されたアルバムの収録曲『狙撃手と泥のコーヒー』のアレンジであることがわかる。すぐに眼鏡をかけた男がフレームインして、ドラムセットに座る。スティックは握らず、かたわらに置いてあるノートパソコンを操作している。
不意に零れる声。
『ユキ、もうちょっとボリューム下げて』
ユキは返事をしない。黙ってツマミを小さく動かす。オッケー。返した男———ドラマーのレンは一つキーを叩いたあと、またカメラの方に向き直って、今度はマイクの位置を調節する。ユキは先ほどまで弾いていたギターを下ろして、木目の綺麗に出たベースに持ち替えた。軽いグリッサンド。それからレガートのE。アンダンテで確かめるように四拍。
レンが顔を上げてわけのわからない方向に微笑む。と同時に三人目の登場人物がカメラに映った。黒髪の男が少しこっちを見て手を振る。部屋の右奥にあるキーボードとシンセサイザーの要塞に体を滑り込ませた彼は、スタンドに固定されているマイクに手を添える。
挨拶はない。ただ、座っていた二人も立ち上がって、一斉に礼をした。ユキとレンはそれぞれ座って、楽器を手に取る。いくつかボタンを操作したのち、最後のメンバーであるサキは鍵盤に手をかざす。
それはふいに現れた。体を掬い上げるようなトーンチャイムの音。シンプルなメロディーと和音の構成。どこかで聞いたことがある。ああ、そう。The Album Leafの『asleep』。その冒頭のアレンジだ。旋律は徐々に暗がりへ落ちていく。この雰囲気、このコード。となると一番最初の曲はこれしかない。
「『call into the sea』……」
ライブだということもあって突出しやすいドラムの調整に気を遣っているのがわかる。生クリームに模様をつける菓子職人のような手つきで丁寧に撫でられるスネア。原曲と違ってギターがない分、ベースが不穏に動き、夜の海の得体のしれない深さを滲ませている。絡みつくキーボード。時折挟まれる鈴の音色が、観客を夢から揺り起こす。
この音楽は生きている。奏でられている。俺が生きているこの時間、今この瞬間に、この世界のどこかで。
トップバッターを飾る曲にしてはいささか暗鬱だった。だが現実とのギャップで、俺も、おそらく久人も、彼らの世界へ一気に引きずり込まれた。サキがキーボードから手を離すと同時に、どちらともなく大きく息をついた。
『改めまして、こんばんは。aqua ball。僕はサキ、彼女はユキ、後ろの眼鏡の彼はレンです』
『予想の倍ぐらいの人が見てくれていて、今けっこう緊張しています。こういうネット配信は初めてじゃないんだけど、最近アルバム制作で忙しくてご無沙汰していたんですよね。
今日は自作もカバーも混ぜこぜでやっていけたらなと思っています。僕らの雰囲気を掴んでくれたら嬉しい。あと、ツアー来てね。東名阪のソールドアウト、ありがとう』
さらさらと流れるような低音でレンが話す。ユキは気ままな猫のように、水を飲んだりピックの摩耗具合を確認している。視線が絶対に合わないのをいいことに観察する。人工の色をした髪は白い肌によく合っていた。そっけないグレーのトレーナーに黒のスキニー。エフェクターを踏む足はボーダーの靴下で包まれていた。ユキという名前は本名なのかそうでないのかわからない。同じ名前を冠する者として、密かに同族意識を持っていることを自覚する。あなたは溶けるのか、そうでないのか。
『じゃあ、次の曲』
先程とは違い、サキとユキはレンの方を注視している。アイコンタクトのち、カウントで導かれるのはキラキラときついシンセサイザー、細かく弾むギター、安定感のある四つ打ちのドラムで構成されるイントロ。『Wataridori』だ。ベースを弾いている人がいないのに聞こえるのは録音だろうかと思っていたら、サキが足鍵盤を操って演奏していた。本物のベースとは違いやや平坦な音色は、原曲より耳をつくシンセによく合う。
そして歌が始まった。完全には調整し切れない揺れが、かえってライブのリアリティを出す。耳に沁みる声は、ただ物語を綴っているだけであるかのように凪いでいたが、波の間に引き絞られた感情が見えた途端、喉の辺りを射止められたような気がした。サビではコーラスにユキが加わり、透けるような高音がどこまでも伸びていく。
曲が終わって、忘れていたように息を吐いた。
突然頬をつつかれて驚いた。久人がにやにやと笑っている。
「顔。キラキラしてるね」
とっさに顔へ手を当てた時点で認めているのと同じだった。魔法にかけられたようだ。
「その様子じゃ、堪能したみたいだね。どうする? ライブ行きたい?」
さしづめこいつは悪い魔法使いといったところだろうか。あやつられるように答える。
「ああ、目の前で聴きたい。行こう。……一緒に行こう」
つづく