九鬼周造
フランス哲学・ドイツ哲学を日本に体系的に紹介・批判
東洋思想と西洋哲学両方を踏まえた独自の思索の「試み」
時間:「形而上学的時間」「永遠の現在」
『時間の観念と常における時間の反複』(1928)、『形而上学的時間』(1931)
『偶然性の問題』『驚きの情と偶然性』(1939)cf. 講演、講義、博士論文他 『いきの構造』(1930)『風流に関する一考察』(1937)『日本詩の押韻』
儒教の話は殆どせず「仏教思想」を多く含むが、禅と浄土真宗の話が主
偶然論の概論
偶然性とは必然性の否定である。必然とは必ず然が有ることを意味している。すなわち、存在が何らかの意味で自己のうちに根拠を有っていることである。偶然とは個々然か有るので、存在が自己のうちに十分の根拠を有っていないことである、すなわち、否定を含んだ在在、無いことのできる存在である。換言すれば、偶然性とは存在にあって非存在との不離の内的関係が目撃されているときに成立するものである。有と無との接触面に介在する極限的存在である。有が無に根ざしている状態、無が有を侵している形象である。
偶然=無いことのできる在在
有と無の両面が存在する状態
無かった・無くなる可能性もありながら現に存在する事物
偶然への「驚き」と偶然への「果てなさ」
偶然の三区分
1. 定言的偶然=一般概念に対する(現実の)「個物および個々の事象」
定言的(kategorisch)=概念と属性の関係
蛇の一般概念に現実の蛇が持つ「頭が二つある」という属性は含まれない
ex. 蛇の一般「概念」に対する現実における二頭一身の蛇
この蛇は一般概念の蛇と比べれば偶然の産物
⇔生物学的には必然性をもつのでは?(仮説的偶然が説明)
補足:現実にいる頭が一つの蛇も定言的偶然といえる
現実の個物は一般概念には含まれない諸属性も有するから(ex.頭の形、大きさ)
2. 仮説的偶然
仮説的(hypothetisch)
経験的次元における因果関係
[広義]前者による後者の規定/[狭義]物理的因果性(厳格な規定)
様々な因果関係(理由・目的・因果)の間に見いだされる必然
諸原因(遺伝的・環境的etc...)の結果(「邂逅」の産物)としての蛇
原因の複数性・独立性・同時性の整理
Step1. まず原因の複数性を顧慮する
Step2. そこに諸原因間の独立性「も」考える(※not 因果関係の「完金」否定)
Step2-2. 独立した諸原因は「揃わない」(同時には起こらない)こともあり得た偶然
ex. 遺伝的要因の因果系列と、環境的要因の因果系列の間、さらに無数の因果系列間、それらを同時に満たす共通原因は考えにくい
因果関係の諸相(仮説的価然の三区分と二股)
1. [広義]理由-帰結(理由的[積極的/極的]偶然)
2. [広義]目的-手段(目的的[積極的/極的]偶然)
3. [狭義]原因-結果(因果的[積極的/消極的]偶然)
(例)菌類や虫(原因[物理的作用])-八重咲の花(結果)
定言的偶然と仮説的偶然の関係
定言的偶然:蛇の一般概念-二頭一身
↓<存在原因の特定>
仮説的必然:遺伝子等(原因)-二頭一身(結果)
この結果を生み出す原因は複数かつそれぞれ独立して、同時に発現しなければならない
=存在原因[因果系列]の複数性と独立性
↓<「一の系列と他の系列との邂逅」>
仮説的偶然:諸原因の同時成立(邂逅)-二頭一身(結果)
偶然=すれ違いもありえた出会いの産物
独立した因果系列の(「も」)承認
(各事象における)共通原因の部分否定
共通原因・諸原因の成立と邂逅を規定するより根本的な原因
(全事象を貫く)究極原因の完全否定
究極原因・全原因の成立と邂逅を規定する最も根本的な原因
cf. 必然性の認識の限界(原因の無際限性(列挙/連鎖))
主観論者への反駁
ポアンカレが「原因の複雑」を偶然の主要な意味と考えるのは、輻輳する因果系列によって交叉点を完全に釈明し得ることを仮定するからである。スピノザが「物は我々の認識の不完全なるがためにのみと呼ばれるので、他のいかなる理由からでもない」といっているのも、ヒュームが偶然を「或る事象の真の原因に関する我々の無智(our lgnorance) 」 に掲しているのも、ラプラスが話を「真の原因を我々が知らない無智の変更 (Foxpreasion de lignoranee)」と見ているのも、いずれもみな、交叉点がその実、無関心と無関心との交叉点でなく、関心によって齎された交叉点であることと、その交叉点に関する十全なる知識とを前提しているのである。かくして偶然とは単に主観的のものにすぎない、認識不足の告白にほかならない、という理論を産むに至った。
主観論者の二前提
1. 偶然の奥には真の原因(共通/根本原因)がある
⇒諸因果系列の邂逅を決定するような[より/最も]根本的な北道原因がある
2. 真の原因は解明可能である
邂する全因果系列を列挙した上で、それらを貫く共通原因を突き止めうる
九鬼の反駁
1. 共通(真の)原因がいつもあるとは限らない
性急な一般化批判
「ある」因果系列間に共通原因があることから、「全」因果系列に共通原因があると(少なくともすぐに)結論づけることは出来ない
2. 1から独立した因果系列「も」承認する
根本原因(「全」因果系列の源となる共通原因)の否定=主観論者の主要な前提の否定
3. 共通原因(真の原因)を知的に認識する限界
原因探求における二重の無限性(きりのなさ)
①各因果系列:無限背進
②因果列間:組み合わせ無限大
人間程度の知性では無理
=人間以上の知性も因果系列間の関係(共通因を有する因果列か独立した因果系列か)を完璧に区別できるだけ