線形代数から入る加群
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線形代数の多くの領域において、ベクトル空間の構成に要請した体の逆元を必要としない。
逆元を仮定しない環上の加群について考えてみよう。
代数構造
(マグマ): 集合$ Mとそれに関して閉じた二項演算$ \circ:M\times M\to Mからなる代数構造$ (M,\circ)を、あるいは単に$ Mをマグマと呼ぶ。
(半群): 結合律を満たすマグマを疑群と呼ぶ。
任意の$ a,b,c\in Rについて
(結合律): $ (a\cdot b)\cdot c=a\cdot(b\cdot c)=a\cdot b\cdot c
(可換): 交換則を満たす代数構造$ (A,\circ)を、あるいは単に$ Aを可換〇〇と呼ぶことがある。
任意の$ a,b\in Aについて
(交換則): $ a\circ b=b\circ a
(モノイド): 単位元を持つ疑群$ (M,\circ)を、あるいは単に$ Mをモノイドと呼ぶ。
(単位元): $ a\cdot1=1\cdot a=aを満たす元$ 1が$ Gに存在
問題: 自然数とそれらの積は可換モノイドを成すか?
(群): 逆元を持つモノイド$ (G,\cdot)を、あるいは単に$ Gを群(Group)と呼ぶ。
任意の$ a,b\in Rについて
(逆元): $ a\cdot a^{-1}=1を満たす元$ a^{-1}が$ Gに存在
この時に$ \cdotを積と呼ぶことがある。
問題: 逆元の逆元$ (a^{-1})^{-1}を求めよ。(その正当性を証明せよ)
(可換群): 可換群$ (G,+)について、$ +を和と呼ぶことがある。また、単位元を$ 0で、逆元を$ -aで表すことがある。
問題: 整数とそれらの和は可換群を成すか?
問題: 有理数とそれらの積は可換群を成すか?
(半環): 分配律を満たす、モノイド$ (R,\cdot)と可換モノイド$ (R,+)からなる代数構造$ (R,\cdot,+)を、あるいは単に$ Rを半環と呼ぶ。
任意の$ k,a,b\in Gについて
(左分配律): $ k\cdot(a+b)=k\cdot a+k\cdot b
(右分配律): $ (a+b)\cdot k=a\cdot k+b\cdot k
積が可換な半環を可換半環と呼ぶことがある。
問題: 半環$ Rについて、以下の法則を示せ。
(吸収律): $ 0\cdot a=0
(環): 分配律を満たす、モノイド$ (R,\cdot)と可換群$ (R,+)をからなる代数構造$ (R,\cdot,+)を、あるいは単に$ Rを環と呼ぶ。
(体): 環$ (K,\cdot,+)の積$ \cdotが($ 0以外に関して)逆元を持つ時$ (K,\cdot,+)を、あるいは単に$ Kを体(Körper)と呼ぶ。
問題: 環$ Rについて、以下の法則を示せ。
(加法逆元の積): $ (-1)\cdot(-1)=1
積が可換な体を可換体と呼ぶことがある。
ベクトルと加群
問題: (矢印の和): 平面上の矢印の集合を$ Vとする。平面上で矢印$ \bm aの終点を矢印$ \bm bの始点として矢印$ \bm bを描くとき、
矢印$ \bm aの始点から矢印$ \bm bの終点までを結ぶ新たな矢印を和$ \bm a+\bm bと考えることができるか?(可換群を成すか?)
問題: (矢印の定数倍): 平面上で矢印$ \bm a,\bm bの長さを$ s,t\in\R倍した長さの矢印について、以下の式は成立するか?
(結合律): $ (st)\bm a\overset?=s(t\bm a)
(分配律1): $ (s+t)\bm a\overset?=s\bm a+t\bm a
(分配律2): $ s(\bm a+\bm b)\overset?=s\bm a+s\bm b
問題: (数列の和): 長さ$ nの数列$ \bm a=\{a_i\}_iと$ \bm b=\{b_i\}_iの各項の和$ \{a_i+b_i\}_iを求める計算を和$ \bm a+\bm bと考えることができるか?
問題: (数列の定数倍): 長さ$ nの数列$ \bm a=\{a_i\}_iと$ \bm b=\{b_i\}_iの各項を定数$ s,t\in\R倍する計算$ s\bm a=\{sa_i\}_iについて、以下の分配律は成立するか?
(結合律): $ (st)\bm a\overset?=s(t\bm a)
(分配律1): $ (s+t)\bm a\overset?=s\bm a+t\bm a
(分配律2): $ s(\bm a+\bm b)\overset?=s\bm a+s\bm b
(ベクトル): 体$ Kと集合$ Vについて、和$ +:V\times V\to Vとスカラー倍$ \cdot: K\times V\to Vが定義され、以下の式を満たす時、$ (V,K,+,\cdot)を、あるいは単に$ Vを体$ K上のベクトル空間と呼ぶ。
任意の$ s,t\in K,$ \bm a,\bm b\in Vについて、
(スカラー倍の結合律): $ s(t\bm a)=(st)\bm a=st\bm a
(スカラー和の分配律): $ (s+t)\bm a=s\bm a+t\bm a
(和の分配律): $ s(\bm a+\bm b)=s\bm a+s\bm b
$ Kが可換体のとき、右スカラー倍$ \cdot:V\times K\to Vを定義して以下の式を要請すると計算が楽になる
(可換律): $ s\bm a=\bm a s
(加群): 結合的多元環$ Rと集合$ Vについて、和$ +: V\times V\to Vとスカラー倍$ R\times V\to Vが定義され、以下の式を満たす時、$ (V,R,+,\cdot)を、あるいは単に$ Vを環$ R上の加群と呼ぶ。
任意の$ s,t\in R,$ \bm a,\bm b\in Vについて、
(スカラー倍の結合律): $ s(t\bm a)=(st)\bm a=st\bm a
(スカラー和の分配律): $ (s+t)\bm a=s\bm a+t\bm a
(和の分配律): $ s(\bm a+\bm b)=s\bm a+s\bm b
$ Rが可換環のとき、右スカラー倍$ \cdot:V\times R\to Vを定義して以下の式を要請すると計算が楽になる
(可換律): $ s\bm a=\bm a s
問題: (環上の加群とベクトル空間の違い): 加群とベクトル空間の違いは何か?また、いかなる場合に加群ではなくベクトル空間を必要とするか?
問題: (右スカラー倍): 可換環$ R上の加群$ Vが可換律$ s\bm a=\bm a sを満たす時、以下の式は成立するか?
(右スカラー倍の結合律): $ (\bm as)t=\bm a(st)=\bm ast
(スカラー和の右分配律): $ \bm a(s+t)=\bm as+\bm at
(和の右分配律): $ (\bm a+\bm b)s=\bm as+\bm bs
(体はベクトルか): 体$ K自身がベクトルを成すか?
(環は加群か): 環$ R自身が加群を成すか?
(終域が加群の関数は加群か): 終域が加群の関数$ f:S\to Vと$ g:S\to Vの和とスカラー倍を以下のように定めるとき、関数$ S\to V全体の集合は加群を成すか?
(和): $ (f+g)(x)=f(x)+g(x)
(スカラー倍): $ (k f)(x)=k\{f(x)\}
問題: (一次従属): 平面上の平行な矢印$ \bm a_1,\bm a_2について、$ \bm 0=s\bm a_1+t\bm a_2を満たす$ s,tを求めよ。
問題: (一次独立): 平面上の平行ではない矢印$ \bm a,\bm bについて$ \bm 0=s\bm a+t\bm bを満たす$ s,tを求めよ。
(一次独立): 加群空間$ Vの部分集合$ \{\bm x_1,\cdots,\bm x_n\}が以下の式を満たす時、一次独立という。満たされない場合は一次従属という。
$ \bm 0=\sum_{k=1}^n a_k\bm x_k\Rightarrow ^{\forall k}\lbrack a_k=0\rbrack
なお、$ \Leftarrowはいつでも成立する。
問題: 長さが$ 4の数列が加群を成すことと、4つの長さが4の数列を集めた集合$ \{\bm a_1,\bm a_2,\bm a_3,\bm a_4\}が一次独立を成す条件を調べよ。
(基底): 任意の加群$ \bm x\in Vを一次独立な加群の集合$ E=\{\bm e_1,\cdots,\bm e_n\}とスカラー$ a_1,\cdots,a_nを用いて以下の式で表せる時、$ Eを$ Vの基底と呼ぶ。
(線形結合): $ \bm x=\sum_{k=1}^na_n\bm e_k
(次元): 加群$ Vの基底$ Eの大きさを次元と呼ぶ。
$ \dim V=|B|
問題: (次元の一意性): 基底に加群の元を加えたり、加群の元を取り除いたりしても基底の性質は保たれるか?
(加群の型): 環$ R上の加群の次元が$ nのとき、$ R^nと書く。
問題: 有理数$ \mathbb Q、実数$ \R、複素数$ \mathbb Cを体とする次元が$ nの加群の型を書け。
行列
(線形写像): 環$ R上の加群$ R^mの元を定義域に取り、環$ R上の加群$ R^nの元を返す関数$ f:R^m\to R^nが以下の性質を満たす時、$ fを線型写像という。
$ f(k\bm x+\bm y)=kf(\bm x)+f(\bm y)
問題: 加群$ \mathbb C^mの元を定義域に取り、加群$ \mathbb Q^nの元を返す関数$ f:\mathbb C^m\to\mathbb Q^nを線形写像として構成できるか?
(線形写像と基底): 線形写像に基底$ \bm e_jを代入した結果は加群$ V_2の元なので、基底の線形和$ f(\bm e_j)=\sum_{i=1}^na_{i,j}\bm e_jで表せる。
(行列): 線形写像に基底を代入した時に得られる基底の線形和の係数を並べたものを行列と呼ぶ。
$ A=\begin{bmatrix}a_{1,1}&\cdots&a_{m,1}\\\vdots&\ddots&\vdots\\a_{1,n}&\cdots&a_{m,n}\end{bmatrix}=\lbrack a_{i,j}\rbrack_{i,j}
線形写像の適用を行列を用いて以下のように表す
$ f(\bm x)=A\bm x
(線形写像の和とスカラー倍): 線形写像の値域は加群なので以下のように写像そのものの計算を定義できる。
$ k\in K,\ \bm x\in V_1,\ f,g\in V_1\to V_2のとき、
$ (f+g)(\bm x)=f(\bm x)+g(\bm x)
$ (kf)(\bm x)=k\{f(\bm x)\}
問題 (行列の和とスカラー倍): 行列の和とスカラー倍を求めよ。
問題: (行列も加群?): 線形写像$ f:K^m\to K^nから構成される行列全体は体$ K上の加群か?
(行列の型): 線形写像$ f:K^m\to K^nから構成される行列を$ K^{m\times n}と書く。
問題: 有理数$ \mathbb Q、実数$ \R、複素数$ \mathbb Cを環とする次元が$ m\times nの行列の型を書け。
(像): 一般に、定義域全体を動く値から写像により写された値全体の集合$ {\rm Im}(f)=\{v_2\in V_2|v_2=f(v_1)\}像と呼ぶ。
(核): 値域に零元$ 0が存在する時、定義域の元のうち$ 0に写す元全体の集合$ {\rm Ker}(f)=\{v_1\in V_1|0=f(v_1)\}を核と呼ぶ。
問題: (像と核の次元): 線形写像の像と核の次元と定義域の加群の次元の関係を求めよ。
(行列のランク): 線形写像の像の次元をランクと呼ぶ。
問題: (行列積): 線形写像$ Bを適用した加群$ B\bm xに線形写像$ Aを適用した加群$ AB\bm xの成分を求めよ。
問題: (行列積の計算可能性): 行列の積$ ABを計算する時に行列$ A,Bが満たすべき条件を求めよ。
問題: (分配律): 行列積は分配律を満たすか?
問題: (可換性): 行列$ A,B\in K^{n\times n}の行列積は可換か?
問題: (複素数): 複素数$ a+ibと$ c+idの和と積を求めよ。
問題: (行列と複素数): 行列$ \begin{bmatrix}a&-b\\b&a\end{bmatrix}と$ \begin{bmatrix}c&-d\\d&c\end{bmatrix}の和と積を求めよ。
(転置): 行列$ A=\lbrack a_{i,j}\rbrack_{i,j}の行成分と列成分を入れ替えた行列$ A^\top=\lbrack a_{j,i}\rbrack_{i,j}を転置行列という。
(エルミート共役): 転置して各成分の複素共役をとった行列$ A^\dag=\lbrack \overline{a_{j,i}}\rbrack_{i,j}をエルミート共役や随伴という。
問題: (エルミート共役): 複素行列から実行列を得る操作$ r:\mathbb C^{m\times n}\to\R^{2m\times2n}を(1)で定めるとき、以下の問いに答えよ。
$ r(\lbrack a_{i,j}+b_{i,j}\rbrack_{i,j})=\left\lbrack\begin{bmatrix}a&-b\\b&a\end{bmatrix}\right\rbrack_{i,j}\qquad\cdots(1)
$ C\in\mathbb C^{m\times n}とするとき、$ r(C^\dag)と$ \{r(C)\}^\topを求めよ。
問題: (転置): $ (A+B)^\topや$ (AB)^\topを$ A^\topや$ B^\topを用いて表せ。また、エルミート共役について同様に計算せよ。
問題: (加群も行列): 環$ Kを定義域として加群$ Vをかえす線形写像$ f:K\to Vを行列で表せ。 ただし、$ f(1)=x_1\bm e_1+\cdots x_n\bm e_nとする。
(行と列): 行方向に成分を並べたベクトルを行ベクトル、列方向に成分を並べたベクトルを列ベクトルという。
ベクトル$ \bm xを列ベクトルとして扱う流派と行ベクトルとして扱う流派がある。ここでは列ベクトルとして扱う。
行加群、列加群と言う語はあまり見ないが、この用語の定義には本質的にベクトルの性質を必要としない。
行加群、列加群と呼ぶとなんだか気持ちが悪いので、ベクトルを仮定しない場合は単に「行」と「列」と呼ぶことにする。
(豆知識): 転置は本質的な意味とは異なり、縦ベクトルの成分を記す時に紙面を節約するために用いられることが多い。
例えば、$ \bm x=\lbrack x_1\ \cdots\ x_n\rbrack^\topのように記される。
問題: (ドット積): 行$ \bm x^\topと列$ \bm yの積$ \bm x\cdot\bm y=\bm x^\top\bm yを成分に分解して計算せよ。また、複素ベクトルに関して転置の代わりにエルミート共役を用いて計算せよ。
問題: (テンソル積): 列$ \bm xと行$ \bm y^\topの積$ \bm x\otimes\bm y=\bm x\bm y^\topを成分に分解して計算せよ。
(行列の分解): 行列$ A=\lbrack a_{i,j}\rbrack_{i,j}を以下のように表すことがある。
(列の行): $ A=\begin{bmatrix}\bm r_1\cdots\bm r_n\end{bmatrix}
(行の列): $ A=\begin{bmatrix}\bm c^\top_1\\\vdots\\\bm c_m^\top\end{bmatrix}
問題: (行列積・ドット積風): 行列$ A=\lbrack\bm a_1^\top\cdots\bm a_n^\top\rbrack^\top,\ B=\lbrack\bm b_1\cdots\bm b_n\rbrackの積を求めよ。
問題: (行列積・テンソル積風): 行列$ A=\lbrack\bm a_1\cdots\bm a_n\rbrack,\ B=\lbrack\bm b_1^\top\cdots\bm b_n^\top\rbrack^\topの積を求めよ。
問題 (線形連立方程式): 以下の連立方程式の変数$ x_1,x_2,x_3をベクトル$ x_1\bm e_1+x_2\bm e_2+x_3\bm e_3で表した時、連立方程式を行列を用いて表せ。(その式の正当性を証明せよ)
$ \left\{\begin{matrix}a_{1,1}x_1+a_{1,2}x_2+a_{1,3}x_3=b_1\\a_{2,1}x_1+a_{2,2}x_2+a_{2,3}x_3=b_2\\a_{3,1}x_1+a_{3,2}x_2+a_{3,3}x_3=b_3\end{matrix}\right.
問題: (線形連立方程式と加群): 線形連立方程式について考える時、加群を用いるべきか?ベクトルを用いるべきか?
問題: (線形方程式の可解性): 線形連立方程式の解について
不定解を持つのはどのような場合か?
一意解を持つのはどのような場合か?
解を持たないのはどのような場合か?
(正方行列): 形状が$ n\times nの行列を正方行列という。
(単位行列): 対角成分が1, それ以外の要素が0の正方行列を単位行列といい、$ Eで表す。
$ 4\times 4の場合: $ E=\begin{bmatrix}1&0&0&0\\0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&1\\\end{bmatrix}
問題: (正方行列の代数構造): 正方行列とその積と和はどのような代数構造(疑環/半環/環/体/etc)を成すか?
(逆行列): 正方行列$ Aに対して$ AA^{-1}=A^{-1}A=Eを満たす正方行列$ A^{-1}を逆行列と呼ぶ。
問題: (逆行列と加群): 逆行列を考える際に線形写像の始域と終域は加群で良いか?それともベクトルを用いるべきか?
(ガウスの消去法): 行列$ Aと単位行列$ Eに以下に列挙する操作の同時適用を繰り返して$ Aが$ Eになる時に$ Eが$ A^{-1}になる。
(行の入れ替え): 行$ r_iと行$ r_jを入れ替える。$ (r_i,r_j):=(r_j,r_j)
(行の定数倍): 行$ r_iを定数$ k倍する。$ r_i:=kr_i
(行の和): 行$ r_iに行$ r_jを足す$ r_i:=r_i+r_j
(列の入れ替え): 列$ c_iと列$ c_jを入れ替える。$ (c_i,c_j):=(c_j,c_j)
(列の定数倍): 列$ c_iを定数$ k倍する。$ c_i:=kc_i
(列の和): 列$ c_iに列$ c_jを足す$ c_i:=c_i+c_j
問題: ガウスの消去法により$ 2\times 2行列と$ 3\times3行列と$ 4\times 4行列の逆行列を求めよ。
(豆知識): ガウスの消去法による$ n\times n行列の逆行列の計算量は$ O(n^3)である。
(正則行列): 逆行列を持つ正方行列を正則行列と呼ぶ。
問題: (逆行列の性質): $ (AB)^{-1}を$ A^{-1}と$ B^{-1}で表せ。また、$ (A^\top)^{-1}を$ A^{-1}で表せ。
問題: (正則行列の代数構造): 正則行列とその積と和はどのような代数構造を成すか?
行列式
(行列式): 連立方程式が一意解を持つ条件を調べるために正方行列からスカラーへの写像$ \det:R^{n\times n}\to Rを考える。
このとき、引数を$ n個の加群の元と考えると、多変数関数$ \det:\underbrace{R^n\times\cdots\times R^n}_{n\ \rm times}\to Rと見なせる。
$ \rm detには以下の性質を要請する。
(多重線型性): $ \det(\bm x_1,\cdots,{\color{red}k\bm x_i+\bm y},\cdots,\bm x_n)={\color{red}k}\det(\bm x_1,\cdots,{\color{red}\bm x_i},\cdots,\bm x_n)+\det(\bm x_1,\cdots,{\color{red}\bm y},\cdots,\bm x_n)
(交代性): $ \det(\bm x_1,\cdots,{\color{red}\bm a},\cdots,{\color{red}\bm a},\cdots,\bm x_n)=0
(単位行列): $ \det(\bm e_1,\cdots,\bm e_n)=1
問題: (行列式と加群): 行列式について考える際には加群について考えてもよいか?ベクトルについて考えるべきか?
問題: (解の判別): 行列式に一次独立な加群からなる行列を代入したときと、一次従属な組を含む加群からなる行列を代入したときで値を比較せよ。
問題: (引数の置換): $ \det(\bm x_1,\cdots,{\color{red}\bm x_j},\cdots,{\color{red}\bm x_i},\cdots,\bm x_n)を$ \det(\bm x_1,\cdots,{\color{red}\bm x_i},\cdots,{\color{red}\bm x_j},\cdots,\bm x_n)を用いて表せ。
(置換): 順序付き集合の要素を入れ替える操作を(n次の)置換と呼ぶ。
$ \Sigma(x_1,\cdots,x_i,\cdots,x_j,\cdots,x_n)=(x_{\sigma(1)},\cdots,x_{\sigma(i)},\cdots,x_{\sigma(j)},\cdots,x_{\sigma(n)})
$ \sigma:\Lambda\to\Lambdaは添字集合を始域と終域に取る全単射
$ \sigma=(\sigma(1),\cdots,\sigma(i),\cdots,\sigma(j),\cdots,\sigma(n))のように置換後の添字を並べることで置換を明示的に表す。
(互換): 順序のある集合の2つの要素を入れ替える操作を互換と呼ぶ。
$ (x_{\sigma(1)},\cdots,{\color{red}x_{\sigma(i)}},\cdots,{\color{red}x_{\sigma(j)}},\cdots,x_{\sigma(n)})=(x_1,\cdots,{\color{red}x_j},\cdots,{\color{red}x_i},\cdots,x_n)
$ \sigma=\begin{pmatrix}i\ j\end{pmatrix}と書く。
(余談): この書き方は要素数が 2 の置換と紛らわしいため、置換か互換か明示する方が良い。
(置換の積): 置換した順序集合に再び置換を施す操作を置換の積と呼ぶ。
問題: (置換群): 置換は群を成すか?
問題: (互換の積): 有限順序集合における任意の置換は有限個の互換の積で表せるか?
問題: (置換の偶奇): 奇数回の互換の積で表される置換の集合と偶数回の互換の積で表される置換の集合の交わりを求めよ。
(置換の符号): 置換を互換の積で表した際の偶奇によって符号$ {\rm sgn}(\sigma)を割り当てる。
$ |\sigma|を置換を構成する互換の個数とすると、
$ {\rm sgn}(\sigma)=(-1)^{|\sigma|}
問題: (添字の置換の総和): $ \left(\sum_{\sigma\in{\rm Alt}(4)}{\rm sgn}(\sigma)\prod_{i=1}^4a_{i,\sigma(i)}\right)\left(\sum_{\sigma\in{\rm Alt}(4)}{\rm sgn}(\sigma)\prod_{i=1}^4b_{i,\sigma(i)}\right)を展開せよ。
項数が非常に多くなるので事前に見積もってから始めると良い。
なお$ {\rm Alt}(n)は$ n次の置換全体を表す。
問題: (添字の置換の総和): $ \left(\sum_{\sigma\in{\rm Alt}(4)}{\rm sgn}(\sigma)\prod_{i=1}^4\left(\sum_{j=1}^na_{i,j}b_{j,\sigma(i)}\right)\right)を展開せよ。
項数が非常に多くなるので事前に見積もってから始めると良い。
問題: (ライプニッツの公式): 行列を構成する加群を基底の線形和とすることで n 次正方行列の行列式の値を計算せよ。
問題: (行列式の性質): $ \det(AB)と$ \det(A^{-1})と$ \det(A^\top)を$ \det(A)と$ \det(B)を用いて表せ。
(小行列): 行列$ Aの$ i行目と$ j列目を取り除いた行列$ M_{i,j}(A)を$ (i,j)\text-小行列(submatrix)と呼ぶ。
(小行列式): 行列$ Aの$ (i,j)\text-小行列の行列式$ m_{i,j}(A)=\det(M_{i,j}(A))を小行列式(minor)と呼ぶ。
問題: (行列式): 行列$ Aの行列式$ \det(A)を、小行列式で表せ。
(行): 第$ \color{red}i行目のベクトルの成分$ a_{{\color{red}i},j}と小行列$ m_{i,j}(A)を用いて表せ。
(列): 第$ \color{red}j列目のベクトルの成分$ a_{i,{\color{red}j}}と小行列$ m_{i,j}(A)を用いて表せ。
(余因子): $ (i,j)\text-小行列式$ m_{i,j}(A)に対して、$ c_{i,j}=(-1)^{i+j}m_{i.j}を$ (i,j)\text-余因子(cofactor)と呼ぶ。
問題: (ラプラス展開): 行列$ Aの行列式$ \det(A)を余因子を用いて表せ。
(行): 第$ \color{red}i行目のベクトルの成分$ a_{{\color{red}i},j}と余因子$ c_{i,j}(A)を用いて表せ。
(列): 第$ \color{red}j列目のベクトルの成分$ a_{i,{\color{red}j}}と余因子$ c_{i,j}(A)を用いて表せ。
(余因子行列): 第$ (i,j)成分に$ (i,j)\text-余因子$ c_{i,j}(A)を並べた行列$ C(A)=\lbrack c_{i,j}(A)\rbrack_{i,j}を余因子行列(co-factor matrix)と呼ぶ。
(古典随伴行列): 余因子行列の転置$ \tilde A=C(A)^\topを古典随伴行列(classical adjoint matrix / adjugate matrix)と呼ぶ。
(余談: 訳語問題): どういうわけか大抵の書籍では adjungate matrix のことを余因子行列と記している。
この事にはいくつかの理由が考えうる
余因子行列を使用する場面よりも古典随伴行列を使用する場面が多い
古典随伴行列は随伴行列(adjoint matrix)(エルミート行列)と紛らわしい
しかし、訳語との整合性と「余因子」と言う用語との整合性を鑑みると、co-factor matrix を余因子行列と呼ぶほうが相応しい。
問題: (古典随伴行列): 古典随伴行列と行列の積$ \tilde A Aと$ A\tilde Aを求めよ。なお、$ \det(A)は計算せずにそのまま用いて良い。
問題: (クラメルの公式): 逆行列$ A^{-1}を古典随伴行列$ \tilde Aを用いて表せ。
双対空間
(双対空間): 線形汎関数$ f:V\to Rは終域が環である。環は加群であるため、線形写像は加群を終域にもつ。従って線形汎関数全体の集合も加群を成す。この加群を$ V^*で表すことにすると$ V^*=(V\to R)となる。
(線形性): $ (kf+g)(\bm x)=k\{f(\bm x)\}+g(\bm x)
問題: (双対空間の型): 線形写像$ R^m\to R^nを行列$ R^{m\times n}とみなして(有限次元)加群とその双対加群の行列としての型を比べよ。
(双対な元): 加群の元$ \bm xの双対な元$ \bm x^*は以下のように定める。
$ \lang\bm x,\bm y\rang=\lang\bm x^*,\bm y\rang=\bm x^*\bm y
問題: $ \lang\bm y,\bm x^*\rangを求めよ。
問題: $ \lang\bm x^*,\bull\rangは線形汎関数か?
問題: 計量$ Gを用いて内積を$ \lang\bm x,\bm y\rang=\bm x^\dag G\bm yで定める時、双対な元$ \bm x^*を求めよ。
問題: (双対空間の計量): 双対空間の計量$ \mathcal Gを以下のように定めるとき、$ \mathcal Gをもとの空間の計量$ Gを用いて表せ。
$ \lang\bm x,\bm y\rang=\lang\bm x^*,\bm y^*\rang=(\bm x^*)^\dag\mathcal G(\bm y^*)
問題: (4種の内積): $ \lang\bm x,\bm y\rang、$ \lang\bm x,\bm y^*\rang、$ \lang\bm x^*,\bm y\rang、$ \lang\bm x^*,\bm y^*\rangのうち、等しいものを等号で結び、等しくないものを不等号で結べ。
問題: (双対の双対): 双対な元に双対な元$ \bm x^{**}を求めよ。
(共変性と反変性): 加群$ Vの基底$ \bm e_1,\cdots,\bm e_nを伸縮させた基底$ \bm e'_i=k\bm e_iに取り替えることを考える。
問題: (係数): $ \bm x=\sum_{i=1}^nx^i\bm e_i\in Vを基底$ \bm e'_1\cdots\bm e'_nを用いて表せ。
問題: (双対基底): 計量$ Gを固定する場合、双対空間の新しい基底$ (\bm e^i)'はどのように変化するか?
問題: (双対な元): 双対空間の元$ \bm x^*=\sum_{i=1}^n x_i{\bm e^i}\in V^*を新しい基底$ (\bm e^i)'を用いて表せ。
(共変性): 基底の長さを$ k倍した時に$ k倍される係数や基底を共変性を持つという。
(反変性): 基底の長さを$ k倍した時に$ \frac1k倍される係数や基底を反変性を持つという。
(下付き添字): 共変性と反変性が意識される文脈で、共変成分は下付き添字$ \bm e_iや$ a_iで表される。
(上付き添字): 共変性と反変性が意識される文脈で、反変成分は上付き添字$ \bm e^iや$ \bm a^iで表される。
問題: (上下添字): 双対空間の元$ \bm x^*=\lbrack x_1\ x_2\ \cdots\ x_n\rbrackと元$ \bm y=\lbrack y^1\ y^2\ \cdots\ y^n\rbrack^\topの積$ \bm x^*\bm yを計算し、成分で表せ。
(アインシュタインの縮約記法): 主に物理学では$ \sum_{i=1}^n x_iy^iを単に$ x_iy^iと書くことがある。
この記法では積の中に含まれる、上下で対になった同じ記号に関して和を取ることを約束する。
このページでは紛らわしくなるのを避けるため、縮約記法に関する話題を除いて縮約せずに話を進める。
問題: $ g_{\tau\mu\nu}x^{\tau}y^{\mu}z^{\nu}を縮約せずに表せ。
問題: (計量の逆行列): 計量の逆行列$ G^{-1}=\lbrack g^{i,j}\rbrack_{i,j}の成分を計量$ G=\lbrack g_{i,j}\rbrack_{i,j}で表せ。
問題: (双対ベクトル空間の基底): 双対ベクトル空間の基底$ \bm e^iを求め、ベクトル空間の基底$ \bm e_jで表せ。ただし、計量を$ G=\lbrack g_{i,j}\rbrack_{i,j},\ G^{-1}=\lbrack g^{i,j}\rbrack_{i,j}とする。
問題: (ベクトル空間の基底): ベクトル空間の基底$ \bm e_jを求め、双対ベクトル空間の基底$ \bm e^iで表せ。ただし、計量を$ G=\lbrack g_{i,j}\rbrack_{i,j},\ G^{-1}=\lbrack g^{i,j}\rbrack_{i,j}とする。
問題: (双対ベクトル): 双対ベクトル$ \bm x^*を求め、元のベクトル$ \bm xの成分で表せ。ただし、ただし、計量を$ G=\lbrack g_{i,j}\rbrack_{i,j},\ G^{-1}=\lbrack g^{i,j}\rbrack_{i,j}とする。
問題: (双対の双対): 双対な元に双対な元$ \bm x^{**}を求めよ。ただし、計量を$ G=\lbrack g_{i,j}\rbrack_{i,j},\ G^{-1}=\lbrack g^{i,j}\rbrack_{i,j}とする。
問題: (正規直交基底): 正規直交基底は$ \bm e^i=\bm e_iを満たすか?
問題: (一般の基底): 一般の基底は$ \bm e^i=\bm e_iを満たすか?
問題: (共変と反変): 加群とその双対空間を始域や終域にもつ線形写像を成分で表せ。(添字の上下に注意)
(線形関数1): 線形関数$ f:V\to Vを基底$ \bm e^i\bm e_jを用いて表せ。
(線形関数2): 線形関数$ f:V\to V^*を基底$ \bm e^i\bm e^jを用いて表せ。
(線形関数3): 線形関数$ f:V^*\to Vを基底$ \bm e_i\bm e_jを用いて表せ。
(線形関数4): 線形関数$ f:V^*\to V^*を基底$ \bm e_i\bm e^jを用いて表せ。
(テンソル): 双対空間を意識する場合、行列では情報量が足りなくなるため上下添字を用いる。一般にこのようなものをテンソルという。
加群とは何か
問題: いかなる場合に加群ではなくベクトル空間を必要とするか?