即興
あらかじめ準備することなく、その場で思いのままにつくりだすこと。音楽、詩、演説のような、いわゆるミューズ的芸術についていわれるのが普通である。すなわち、日本語で「興に即する」というのと同じく、西洋の伝統においてもミューズの女神たちの霊感の流露を重んじ、計画され推敲(すいこう)された作品にはない輝きを尊ぶ考えにたつ創造的活動である。フランスの哲学者ジャンケレビチによれば、即興に規則はなく、教えることができない。それは端的に「始める」ことであり、始まりは啓示されるほかはない。つまり想を生み出すというよりも、「生まれてくる」想を、強い緊張をはらんだ精神の注意力でとらえ、受容するのが即興の実態である。したがって、その創造性は意図の制御の埒外(らちがい)にあり、即興は無意識に深く根ざしている。