ヴォイニッチ手稿
確実にわかってること
ヴォイニッチ手稿は不明な文字(「ヴォイニッチ語」と呼ばれる)で手書きされた挿絵入りの写本。羊皮紙は炭素年代測定で15世紀初頭(1404-1438年)と判定されている (Wikipedia) 。
あとは全部仮説。
第一次・第二次世界大戦の暗号解読者たち(William Friedmanという、日本の紫暗号を解読したアメリカの伝説的暗号学者を含む)も挑戦して全員失敗した。これまでに提案された仮説のうち、独立して検証されたものは一つもない (Wikipedia) 。
なぜそんなに難しいのか
統計的に変なんだ。自然言語の二次条件付きエントロピー(h2)は通常3〜4だが、ヴォイニッチ語のh2は約2と、はるかに予測可能な文字列になっている (Wikipedia) 。これは「言語っぽいけど、言語にしては規則的すぎる」という意味。
同じ単語が5回連続で並ぶ箇所がある
1文字違いの単語が異常な頻度で繰り返される
セクションごとに語彙が大きく違う(薬草パートと天文パートで使われる文字が違う)
これは普通の言語にも、普通の暗号にもない特徴。
現代までに出た仮説(どれも未検証)
暗号説:ラテン語かイタリア語の暗号化。2025年11月、Michael Greshkoが『Cryptologia』誌で「Naibbe暗号」を発表。これはラテン語とイタリア語をヴォイニッチ写本のような暗号文に暗号化できる、歴史的に妥当な置換暗号 (Sci.News) 。ただ本人も「Naibbe暗号がヴォイニッチ手稿の作成方法を正確に反映しているとは主張しない」「写本が暗号文であるとさえ主張しない」と明言している (The Wild Hunt) 。つまり「こういう暗号なら同じ統計的特徴を作れる」というベンチマークの提示であって、解読ではない。
失われた自然言語説:未知の中央アジア言語、古い形のヘブライ語、など
人工言語説:当時流行ってた哲学的人工言語(後のジョン・ウィルキンスのような)
デタラメ説(hoax):意味のない文字列を売って金儲けした、という説。作為的な手順で生成可能 (Wikipedia) という研究もある
統合失調症的書字説:精神症状による創作
最近の発見
2024年、興味深い発見があった。マルチスペクトル画像解析で第1ページの右余白に隠された3列の文字(ローマ字2列とヴォイニッチ文字1列)が発見された。これは1660年代の所有者ヨハネス・マルクス・マルキの筆跡と一致する。彼自身が解読を試みていた可能性がある (The Art Newspaper) 。つまり400年前の所有者ですら読めなかったことの証拠。
「解読しました」系の論文への注意
検索すると2025年6月にShane Gravesという人が「'dai'アンカーメソッドで完全解読した」とResearchGateに投稿している (ResearchGate) 。こういう「解読した!」系は毎年複数出る。でも査読を通過し、かつ独立した研究者に再現された例はゼロ。Yale大学(手稿の所蔵元)のClaire Bowernの言葉を借りれば、「あらゆる理論があまりに多くの仮定に依存していて、推測の中で迷子になりがち」 (Yale News) 。