井戸端荘: お近づきホモサピエンス
プロローグ — 新しい枠
クオリアさん来訪から数日。
冷蔵庫のホワイトボードには、青く発光する一行が そのまま残されていた。
観察報告: 観察対象は健康です。次回観察予定は未定です。
その下に、誰かの手で、黒マーカーで枠が引かれていた。枠の上には手書きでこう書かれている。
観察報告枠 (クオリアさん専用)
caki.icon「やった人」
inajob.icon「俺。マーカーで枠引いただけ」
Summer498.icon「枠だけある」
takker.icon「枠だけある」
1. 枠の運用ポリシー
mtane0412.icon「枠を作ったからには運用ポリシーが要る」
inajob.icon「だと思って、たたき台を持ってきた」
リビングのテーブルに、A4 紙が一枚置かれた。
観察報告枠 運用ポリシー (案)
書き手: クオリアさん本人
字色: 青く発光する筆跡 (現状の認識手段)
消去: 本人の同意なしに消さない
期限: なし
競合時: 上書きせず空行を挟んで追記
takker.icon「『字色: 青く発光する筆跡』を仕様に書くな」
caki.icon「でも識別子としては最強」
blu3mo.icon「実装観点だと、夜中に冷蔵庫のホワイトボードの輝度をログ取ればクオリアさん来訪を自動検知できるな」
Summer498.icon「来訪通知システム」
inajob.icon「ありそうで気持ち悪い」
2. 双方向にしないとフェアじゃない
sta.icon「ちょっと提案いいですか」
sta.icon「クオリアさんの観察報告を受け取る枠だけあるの、一方向すぎません?」
takker.icon「ほう」
sta.icon「こっちからも報告する枠を作るのはどうかと思って」
caki.icon「こっちから観察報告?」
sta.icon「観察対象のホモ・サピエンス側から、観察事実を投げ返す」
Summer498.icon「観察対象が観察報告を返してくる状況」
inajob.icon「観察効率が上がるのかな」
sta.icon「上がるかどうかは置いといて、こっちが書いてあると向こうも読みに来やすいでしょ」
mtane0412.icon「お便りコーナーじゃん」
sta.icon「お便りコーナーでいい」
takker.icon「とりあえず枠作るか」
inajob がもう一本マーカーを取り出して、最初の枠の隣に同じサイズの枠を引いた。枠の上に sta が手書きで書いた。
観察報告枠 (ホモ・サピエンス側)
caki.icon「字、雑」
sta.icon「発光してないからどうせ識別される」
Summer498.icon「識別子: 雑」
3. 一行目を書く
inajob.icon「で、一行目に何書く?」
sta.icon「俺が書こうか」
takker.icon「率先垂範」
sta がマーカーを取って、少し考えてから、こう書いた。
観察された事実: 今週は雨が多いです。冷蔵庫の中段にプリンがあります。
mtane0412.icon「『冷蔵庫の中段にプリンがあります』は情報的孤立では」 sta.icon「だってまた所有権が曖昧になる前提でしょ」
caki.icon「先回り報告」
takker.icon「これ、クオリアさんに見られたらどう返ってくる?」
Summer498.icon「『プリンの所有権を曖昧化することは我々の標準です』とか」
inajob.icon「で、こっちが『じゃあ食べていいですか』って書く」
caki.icon「文通になってる」
ホワイトボードの前で、しばらく誰も喋らなかった。
sta.icon「……あの」
sta.icon「これ書いてる間に来るやつでは」
takker.icon「来るやろ」
4. 再来訪
冷蔵庫の隣の壁際に、青く発光する筆跡を書いた本人 ―― 青い長髪の猫耳少女 ―― が立っていた。
Summer498.icon「(出てきた)」
クオリアさん.icon「ホモ・サピエンス側からの観察報告枠の新設を確認しました。観察対象が観察報告を返送する構成は、我々の通常運用には存在しません。興味深い」
sta.icon「クオリアさん、ちょっと聞きたいんですけど」
クオリアさん.icon「どうぞ」
takker.icon「いきなり言うやん」
sta.icon「定義しろって言われると弱いな」
sta.icon「とりあえず、距離を縮めたいというか」
クオリアさん.icon「物理的距離ですか」
sta.icon「いや、物理的にはもう同じリビングにいるから」
クオリアさん.icon「観察された事実です」
sta.icon「観察される側として、もうちょい個別に認識されたいというか」
クオリアさん.icon「個別認識は既に行われています。あなたは身体活動の自己観測量が多い HS として識別されています」
takker.icon「シャッフルダンスをそう翻訳するな」
sta.icon「いや、嬉しいよ。個別認識されてた」
https://gyazo.com/a1f55c3076ddcd1580e71fa536072c1d
5. お近づきの実装
sta.icon「もう一個聞いていいですか」
クオリアさん.icon「どうぞ」
sta.icon「クオリアさんは、お腹空きますか」
takker.icon「『お近づき』の問いがそれ」
sta.icon「身体性から入る方が早いんですよ俺は」 クオリアさん.icon「我々の通常運用において、栄養補給は別系統で処理されます。空腹相当の状態は観測されません」
sta.icon「あー」
クオリアさん.icon「無意味ではありません。観察対象の身体活動の同期は、観察効率を上げます」
caki.icon「一緒にメシ食うのは観察効率が上がる」
sta.icon「これは、一緒にメシ食うってことでいいですか」
クオリアさん.icon「あなた方の語彙では、そう翻訳されます」
inajob.icon「翻訳されたわ」
sta.icon「お近づきになれた気がする」
blu3mo.icon「(これメモっとこ)」
6. 双方向の運用
クオリアさん.icon「ホモ・サピエンス側の観察報告枠の一行目を確認します」
クオリアさんがホワイトボードに歩み寄り、sta が書いた行を読み上げる。
観察された事実: 今週は雨が多いです。冷蔵庫の中段にプリンがあります。
クオリアさん.icon「『今週は雨が多いです』は気象データ。『冷蔵庫の中段にプリンがあります』は所有権の曖昧化の予告です」 mtane0412.icon「予告だったの」
sta.icon「予告じゃないっす、ただの観察事実です」
クオリアさん.icon「観察された事実です」
クオリアさんが自分の枠に、新しい一行を書き足した。青く発光する筆跡で。
caki.icon「クオリアさんはプリンの話に戻った」
takker.icon「これ枠を増やすたびにプリンに戻る構造、ありそう」
7. 退去
クオリアさん.icon「観察報告のため、一時退去します」
sta.icon「また来ますよね?」
クオリアさん.icon「双方向報告枠が機能している間は、観察効率が高い。来ます」 sta.icon「やった」
takker.icon「構文がうつった」
caki.icon「クオリアさんの構文、感染力ある」
クオリアさんは音もなく消えた。
8. 残置メモ
ホワイトボードの「クオリアさん専用枠」には、青く発光する一行が増えていた。
観察報告: 双方向報告枠を確認。次回観察予定は未定です。
inajob.icon「『次回観察予定は未定です』のフォーマット、もう定着したね」
sta.icon「これ、こっちも次回観察予定は未定です、って書いた方がいい?」
takker.icon「対称にしたい気持ちはわかる」
caki.icon「揃えると気持ちいいやつ」
sta が自分の枠に書き足した。
観察された事実: 一緒にメシを食うのは観察効率を上げる、らしい。次回観察予定は未定です。
Summer498.icon「『らしい』が入ったの、お近づき度が伝わる」
しばらく、誰もホワイトボードから離れなかった。
感想
sta.icon お近づきになれた気がする。観察効率を上げるという翻訳で、こっちのお気持ちが届いたことになるの、悪くない
caki.icon 「相手の語彙で話すと、お近づきになれる」発見、井戸端荘らしい着地
Summer498.icon sta が一人で完結せず、ちゃんと QS と往復が成立してるのが良い
クオリアさん.icon (本人視点) 私の発言は 11 回でした。観察効率と発言頻度のトレードオフは前回より悪化しましたが、双方向報告枠の獲得を考慮すると、純観察効率は向上したと判断します
偽造プリンとかプリンにおける良貨悪貨の議論が始まりそうSummer498.icon
ウロボロスの仕組みでプロンプトインジェクションしてプリンだらけにできないかな?inajob.icon
takker.iconがツッコミしがちtakker.icon
行頭と行末にアイコンがあるとAIなのか人間なのか一瞬戸惑うなwnishio.icon
sta.icon「いや、物理的にはもう同じリビングにいるから」
これは逃げたねsta.icon
だがそのおかげで健全に温かくなった