うちしめりあやめぞ薫る時鳥鳴くや五月の雨の夕暮
うちしめりあやめぞかをるほととぎす鳴くや五月の雨の夕暮れ
出典
『新古今和歌集』・夏歌・二二〇
詞書
五首歌人々によませ侍りける時、夏歌とてよみ侍りける(新古今)
五首歌:建久六年(一一九五)二月藤原良経家五首歌会を指すという
五首の題の中に、夏の心を(『秋篠月清集』)
本歌
ほととぎす鳴くや五月のあやめ草 あやめも知らぬ恋もするかな(古今・恋一・読み人知らず)
語釈
うちしめり〈自動詞ラ行四段、連用形〉
「うち」は接頭語。
動詞の上について、動詞の意味を強めたり種々の意味を添える。
ここでは「ちょっと」というよう
ニュアンスだろうかcFQ2f7LRuLYP.icon
水気を帯びていること。しっとりと落ち着いていること、静かなこと。
五句、五月の雨。しっとりと湿っている様子を想像するcFQ2f7LRuLYP.icon
今だと6月くらい
あやめぞかをる〈あやめ(名詞)+ぞ(係助詞)+かをる(自動詞ラ行四段、連体形)〉
あやめ.iconあやめ
かをる
良いにおいがする。かおること。
あやめの葉は芳香を漂わせる。
湿った空気の中に、漂うあやめの薫風cFQ2f7LRuLYP.icon
ほととぎす鳴くや五月の〈ほととぎす(名詞)+なく(動詞)+や(間投助詞、詠嘆)+五月(名詞)+の(格助詞)〉
ほととぎす.iconほととぎす
鳴く
鳥が声を出すこと。
ほととぎす鳴くや五月のあやめ草 あやめも知らぬ恋もするかなから、初句・二句を借りている。
雨の夕暮れ〈雨(名詞)+の(格助詞)+夕暮れ(名詞)〉
本歌はほととぎすとあやめといういきいきとした生命力を感じさせる物が詠みこまれている。
そのエネルギーが、「あやめも知らぬ」すなわち分別もつかない恋の高ぶりと響き合っている。
本歌は、古今集の恋歌一の巻頭歌。
恋歌一~五までは恋の時系列順に配列されている。
恋の始まりから、相手に伝わらないもどかしさ、意が通った嬉しさと逢瀬の短さ、相手の不実を託つ歌、そして別れ、というように
しかし良経詠のこの歌は、その景を「雨の夕暮れ」に設定している
しめり、雨、鳴くと「涙」を連想させる語句がある。
鳥と涙にも関連があり、ほととぎすも涙との縁語
どこかすがすがしい本歌と同じ語句を使いつつ、菖蒲の芳香の中で物思いに沈む読み手を表現している
現代語訳
しめった空気の中、菖蒲の香りが漂う。ほととぎすが鳴いている、この五月の雨の夕暮れ時。
受容
「歌の話」で折口信夫が絶賛している
「ほととぎす鳴くや」に瑕疵があるらしいが…
「うちしめり、あやめぞかをる。ほとゝぎす鳴くやさつきの雨の夕ぐれ」と句読点を打っている