依存先の分散
メンタルの不調を防ぐには、依存先を分散させることが大切だという。複数のコミュニティを持つことで、孤立やつながりの断絶から自分を守ろうというTipsらしい。
彼もその考えには一理あると思っていたが、どこか釈然としない感覚が心に残っていた。
むしろ、依存先を器用に分散できる人ほど、信用はできても信頼まではしきれない、そんな印象を持つことが多かった。
意識的に依存先を分散させなければ生きられない人というのは、たいてい、家族やパートナーといった典型的な関係性に自分を収めきれないからこそ、そんなことを気にしているのではないか。
あるいは、重くなりすぎないように依存を分散しようとする人は、本当の意味で人と真っすぐ向き合うことができないのかもしれない。彼はそう考えていた。
たぶん、分かりやすい名前の付く関係性であれば、関係が深まっていく中で自然と真摯に向き合うタイミングが訪れる。
けれど、意図的に関係を浅く保つことで、そのタイミングを避けているように見える。彼は、そんな空気をどこかに感じ取っていた。
本当は向き合うべき時に向き合えなかった、その寂しさを埋めるように、いくつもの人間関係に身を置いている。
そうした姿勢が、彼の中にある静かな疑念を呼び起こしていた。
特に、多くの人に会っているような人ほど、そうなのではないか。
そんな疑念を抱えながら、彼自身もまた、自分の中にある寂しさの輪郭をまだつかみきれずにいた。