ムーンライト
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黒人社会の偏見と母親の薬物依存の中で育った少年が
自らの性的アイデンティティを押し殺したまま売人として生きる青年へと変容し、
唯一心を許した男との再会で封印した感情と向き合う
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第一幕
麻薬依存のシングルマザーを持ち、唯一の友人との同性愛的な関係を理由にクラスメートからいじめられながらも小学校に通う黒人の主人公は、父親的存在となる麻薬の売人の男から人間的な愛情を受けるも、自身の性的アイデンティティを確立できずにいた。
第二幕
数年後、成長した主人公は親友に対し特別な性的感情を抱いていたことを自覚する。しかし、いじめっ子のクラスメートの介入により主人公が暴行事件を起こし逮捕され、遠くへ飛ばされたことにより親友とは物理的な距離を置かれることになる。
第三幕
更に数年後、かの売人同様自らも売人の道を進んだ主人公の元に、かつての親友から再会の約束を付けられる。変化を恐れ自己防衛に走った末に売人となった事や、親友と離れた事で今まで抑圧していた性的アイデンティティ等に悩んでいた主人公は、自分同様不安定な生活の中で幸せを見つけようとしていた親友に対し、その感情ともう一度向き合うことを決意する。
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・いくつかの疑問点
1. タイトル「Moonlight」の意味
原作戯曲の台詞に由来しています。ファンが主人公に語る言葉として
「月明かりの下では、黒人の子供も青く見える」
という一節があります。つまりムーンライトとは昼間の社会的現実から切り離された、本来の自分でいられる束の間の空間の象徴です。黒人・貧困・同性愛というアイデンティティを全て抑圧して生きる主人公にとって、月明かりの下だけが素の自分を許される場所という意味が込められています。
2. 三つの名前の変化
Little(子供時代)
本名ではなく、いじめられっ子としての他者から与えられた蔑称。自分の名前すら持てない、アイデンティティが他者に規定されている状態。
Chiron(青年時代)
本名。しかしこの時期も自分が何者かを言語化できず、感情を内側に抱えたまま。名前はあっても中身が空洞な時期。
Black(成人時代)
ケヴィンから与えられたあだ名を自分のアイデンティティとして纏い、売人として鎧を着込んだ状態。
三つの名前の変化は**「他者に規定される→本名を持つ→他者から与えられた鎧を纏う」**という逆説的な変容を表しており、成人になっても本当の自分の名前で生きられていないことを示しています。だから再会の場面でケヴィンが「Chiron」と呼ぶ瞬間が感情的に重要になります。
3. 夢に現れる叫ぶ母の意味
これは単純なトラウマの再現ではなく二重の意味があります。
一つ目は文字通り、薬物依存で自分を顧みない母親への拒絶されたという傷です。子供が最初に愛情を求める対象に裏切られた原体験が繰り返し夢に現れています。
二つ目はより深い読み方で、叫ぶ母は主人公が抑圧している感情そのものの投影とも解釈できます。自分では決して叫べない、感情を表に出せない主人公の内面が母の姿を借りて夢の中で噴出しているという構造です。
つまり母の夢は**「愛されなかった過去」と「感情を殺して生きている現在」の両方を同時に表している**と読むのが最も深い解釈です。
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なぜアカデミー賞を取る程に優れた映画作品だったのか
この映画はエンターテインメントとして面白いかではなく、映画という表現手段でしか描けないものを描いたかという軸で評価されている作品だから
なぜ評価されているのか
① 「語らないことで語る」という演出技法
この映画は主人公が感情を台詞でほぼ説明しません。海岸のシーン、再会後の食事のシーン、どちらも会話は最小限で沈黙と表情と距離感だけで感情を伝えています。
映画の評価軸として「台詞に頼らず映像と演技だけで感情を伝えられるか」というものがあり、その観点で本作は極めて高い水準にあります。
② 描かれてこなかった人々を描いた
黒人・貧困・同性愛という三つの属性を持つ人物を主人公にしたハリウッド映画はそれまでほぼ存在しませんでした。社会的な意義として**「映画の中に自分の存在を初めて見た」と感じた人が多数いた**という文脈が評価の大きな柱になっています。
③ 三章構造の完成度
同一人物の少年期・青年期・成人期を三人の俳優が演じながら、内面の連続性を維持するという構造的な挑戦が映画技法として高く評価されています。
ただしこれらは全て映画史・社会的文脈込みの評価です。
純粋にスクリーンの前に座って体験する映画として面白いかと言われると、明確な事件も派手な演出もないため「地味」と感じるのは鑑賞体験として全くおかしくありません。
映画の評価には
code:_
鑑賞体験としての面白さ
↕(必ずしも一致しない)
映画史・技法・社会的文脈における重要性
という二つの軸があり、ムーンライトは後者で突出している作品です。アカデミー賞作品賞を取った映画が必ずしも「一番面白い映画」ではないのと同じ構造です。
個人的な見解を言うと
今回の三幕構成の練習という文脈では、ムーンライトは最も誠実な教材だったと思います。内面変化を台詞で説明せず構造だけで見せるという映画の作り方を体で理解するには最適な作品です。ただ純粋な映画体験として楽しみたいなら、今の段階では肌に合わなくても全く自然なことです。
脚本 バリー・ジェンキンス
原案 タレル・アルヴィン・マクレイニー(英語版)
原作 タレル・アルヴィン・マクレイニー
"In Moonlight Black Boys Look Blue"1 製作
アデル・ロマンスキー
デデ・ガードナー
ジェレミー・クライナー
製作総指揮
サラ・エスバーグ
タレル・アルヴィン・マクレイニー
出演者
トレヴァンテ・ローズ
アンドレ・ホランド
ジャネール・モネイ
アシュトン・サンダース
ジャレル・ジェローム(英語版)
ナオミ・ハリス
マハーシャラ・アリ
音楽 ニコラス・ブリテル
撮影 ジェームズ・ラクストン
編集
ナット・サンダース(英語版)
ジョイ・マクミロン(英語版)
製作会社
Pastel Productions
配給 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国:A24
日本の旗 日本:ファントム・フィルム
公開
2016年9月2日 (テルライド映画祭)
2016年10月21日 (アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国)
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語