第2 裁判手続等のIT化のニーズ及び基本的方向性
第2 裁判手続等のIT化のニーズ及び基本的方向性
1 IT化のニーズ
(1) 裁判手続等をIT化するニーズがある、という話
また、代理人として裁判手続に頻繁に関わる弁護士からは、企業関係者と同
様の観点に加え、弁護士の多くが、依頼者とのやり取りも含め、ITツールを
活用して業務を行うようになっており、裁判手続のIT化に対応可能な環境が
代理人側に整いつつあることや、IT機器を効果的に活用することで、期日出
頭の負担を軽減してメリハリの付いた審理を行うこと、整理・検索の容易性等
から、主張・証拠を電子情報として活用することを通じて、裁判手続の迅速化・
充実化に資することなどが複数の意見として指摘された。同様の指摘は、IT
化を通じた民事裁判のプラクティス改善につながるものとして、国内外の裁判
制度・実務に精通した実務家・研究者からもされており、IT化を推進する方
向性に異論はなかった。
(2) 社会の趨勢からして、待ったなし
(2) 加えて、情報通信技術が急速に発展し、電子契約の締結や各種手続をオンラインで行うための環境整備や利便性の向上が更に進みつつある社会のすう勢、前述した諸外国の状況等に鑑み、さらには行政手続IT化の3原則(デジタルファースト、コネクティッドワンストップ、ワンスオンリー)のもと、政府がデジタルガバメントの実現に向けて取り組んでいる状況も参考にすれば、我が国の裁判手続等については、本格的なIT化の実現が強く期待され、それに向けた速やかな取組に着手することが待ったなしともいえる状況にある。 2 IT化の基本的方向性
(1) 裁判手続のIT化の基本的な方向
FAXをメールに置き換えるだけじゃ不十分、とのこと。
そうすると、今後、我が国が目指すべき裁判手続等のIT化とは、現行の民
事裁判手続を単にITに置き換えるもの、すなわち、現行では郵送やファクシ
ミリを用いてされている紙媒体の書面のやり取りを、電子メール等を用いた電
子情報のやり取りへ単純に移行させることで満足するものであってはならな
い。また、オンライン申立て等に関する現行法の規定(民事訴訟法132条の
10)は、紙媒体の訴訟記録の存在を前提としているが、立法後のIT技術の
進展等を踏まえると、現行法の枠を超えて、訴えの提起・申立てからその後の
応を視野に入れる必要があると考えられる。
利用者目線に立った上で、訴訟記録の全面的な電子化を前提とする「裁判手続等の全面IT化」を目指すべき
そのためには、
民事裁判の基本原理を実質的観点から再検証しつつ、IT化によってもたらされる利便性を最大限に引き出し、ま
た、裁判所を始めとする関係者の業務効率の向上、民事訴訟のプラクティス全
体の在り方を見据えた検討を行っていく必要がある。
あわせて、裁判事務その
もの以外に司法統計を充実していくことは有益であり、IT化による統計事務の効率化等も期待される。
更に、訴訟事件に占める本人訴訟の割合が相当高い
我が国の現状を踏まえると、国民の裁判を受ける権利の実質的保障の観点か
ら、IT化に伴い、国民の司法アクセスを一層向上させていく観点も重要
(2) まずは民事訴訟から
そして、裁判手続等の全面IT化を目指す上では、まずは、民事裁判手続の
基本かつ根幹であり、利用者の利便性・効率性の向上という観点からも大きな
効果が期待し得る、民事訴訟一般を念頭に置いた骨太な検討と制度設計を行う
ことが相当である。