論文を二本書きました。
最近、論文二本をarXivに掲載したのでここで紹介します。
一つ目は、Linus RöslerさんによるAppendixを含むQuentin Posvaさんとの共著になる次の論文です:
Quentin Posva and Takehiko Yasuda, "On linear $ \alpha_p-quotients," (with an appendix by Linus Rösler), arXiv:2603.07152
群スキーム$ \alpha_pの線形作用に付随する商多様体の弦モチーフを計算し、それが対応する$ \mathbb{Z}/p作用による商多様体の弦モチーフと一致することが示されています。
$ \alpha_pによる商について、Posvaさんから重み付き爆発を用いた手法が使えるかもしれないと連絡をもらい、やってみたら弦モチーフが計算できました。これは予期していなかったので驚きでした。$ \mathbb{Z}/pによる商の弦モチーフと一致することは、以前に私がFabio Toniniさんと書いた共著論文で予想していました。$ \mathbb{Z}/p商の弦モチーフは私の以前の研究で計算していたので、明示的な公式で表された二つの量を比較する問題に帰着されました。二つの公式とも切り下げ関数(floor function)を含みますが、かなり異なって見えるので、二つが一致することを示す方法が分かりませんでした。ただし、切り下げ関数に関する組み合わせ論的な等式に帰着できることまでは分かり、その等式はソフトウェアMathematicaを用いて、かなり多くのケースで検証できたので、予想として論文で提案しました。その予想はarXivに掲載後、Röslerさんによりすぐに解かれてしまいました。その証明は難しい理論は用いないものの、組み合わせ論的な巧妙な議論を用いたもので、私にはとても思いつくことが難しいものでした。世の中にはいろんな才能を持った人がいるものだと、感心しました。予想をarXivで公開して良かったです。こうして、Röslerさんの証明をappendixとして含め、論文本体で示したことと合わせることで、Tonini-Yasudaの予想がめでたく証明されました。
今回の証明は、二つの量をそれぞれ別々に計算して、得られた量を比較したら何故かよく分からないが、組み合わせ論的なトリックを経て一致してしまうというものです。モチーフ積分を用いるなどした、よりコンセプチュアルな証明を得るのは今後の課題として残っています。
二つ目の論文は次の単著論文です:
Takehiko Yasuda, "An algorithm for the minimal model program in dimension three," arXiv:2603.13703
極小モデル理論という代数幾何の重要な理論があります。与えられた代数多様体に双有理変換を繰り返し施し、極小モデル、もしくは、森ファイバー空間という、特別なタイプの代数多様体を最終的に作り出すという内容です。極小モデルは双有理同値類の中である意味で極小なもので、森ファイバー空間はより低い次元の構成要素に分解されたような構造を持つ代数多様体です。3次元では80年代に確立しました。2000年代に入り一般次元でも大きく進展しています。
極小モデル理論はアルゴリズム的な操作だと理解されることがあります。まずこういう双有理変換をして、出てきた代数多様体や双有理射の種類によって、次にどの双有理変換をするかを決める、といった風に、どのような双有理変換をどのような手順にしたがって実行するか、という擬アルゴリズムとして記述されます。しかし、「実行」される双有理変換は、理論的には存在が示されていますが、具体的にどのように見つけ、どのように計算するのかを書いてある文献は、私の知る限りないようです(すごく特別な状況に限定されているものは除きます)。ただし、ここでいう「見つける」、「計算する」という言葉は、純粋数学でしばしば用いられる、存在が示されたら見つかった、抽象的な記述(例えば、ある層のSpecやProjとして表す)を与えたら計算できた、とする表現とは違う意味で用いています。
上の論文では、代数的数の成す体上で定義された代数多様体に対し、極小モデル理論を具体的なアルゴリズムとして記述しました。代数多様体は多項式で適宜されるので、有限のデータで記述でき、コンピューターに入力することが可能です。それをアルゴリズムに入れると、双有理変換を繰り返し、最終的に極小モデルや森ファイバー空間を定義する多項式を出力してくれます。しかし、アルゴリズムの途中でしらみつぶし的探索を含むので、かなり効率が悪く、現時点では実際にコンピューターで動かすのは難しいでしょう。(動かしても計算量が爆発して、時間が掛かりすぎるか、メモリが足りなくなるでしょう。)しかし、なんにしても最初のアルゴリズムができたので、興味を持つ研究者が増えれば、どんどんより効率的なアルゴリズムが開発され、そんなに遠くない将来に、極小モデル理論ががんがんコンピューター上で走り、双有理幾何の数値実験に用いられると期待しています。
この論文は、私の中で下の論文の続きです。
Yasuda, Takehiko. 2023. “The Isomorphism Problem of Projective Schemes and Related Algorithmic Problems.” International Journal of Algebra and Computation 33 (05): 893–926. https://doi.org/10.1142/S021819672350039X. コロナ禍に何か新しいことを勉強しようと、数学基礎論を少し勉強し、証明可能性や決定可能性に興味を持ち、この方面で自分でも何かできないかと考えていて行き着いた研究です。二つの代数多様体が同型かどうか判定できるかという同型問題を論じています。この研究で、代数多様体の様々な双有理幾何的性質が決定可能かどうかという問題が自然と立ち現れ、極小モデル理論を厳密なアルゴリズムにするという問題もその延長で自然と出てきました。曲線の錐を計算するアルゴリズムの構築や、曲線の折り曲げ法をアルゴリズムにするアプローチを検討したこともありましたが、よく分からずにいました。最近、リフレッシュした目で問題を眺めたときに、(効率性を犠牲にすれば)アルゴリズムができることに気がつき研究が進みました。今後、アルゴリズムを効率化するためには、失敗したアプローチで出てきたいくつかのアイデアを再び検討する必要があるかもしれません。