マニエリスムとマニエラ
表象が表現になり、表現は形式になり、形式は様式になる。
あらゆる表現系はパースのいう記号であり、遺伝子と意味をつないでいる。
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細かい表現はさておき
マニエラからマニエリスムへ
絵画/芸術表現として、マニエリスムという言葉を最初に使用したのはイタリアの美術史家、ジョルジョ・ヴァザーリ(Giorgio Vasari)であった。彼は著作『芸術家列伝(Le Vite de' più eccellenti pittori, scultori, e architettori)1550年』の中で、「マニエラ(maniera)」という言葉を使っている。
現代の我々がイメージするマニエリスムという芸術表現が盛んなのは1500年代初頭にあたるが、
「マニエラ(maniera)」という中世イタリア語は「手法」「スタイル」「仕方」を意味し、さらに遡れば、ラテン語の「manus(手)」に由来する。manus は物事の取り扱いや〈手〉の使い方に関連する語であり、特にアーツの文脈で「独自の技法」や「個性的なスタイル」を示すために使われた。
当初、特にルネサンス期画家たちの「完璧な技巧」や「洗練されたスタイル」を称賛するために使われていたこの言葉だが、
16世紀の中頃になると、「maniera」は、この時期の芸術表現の過度な形式化や脱自然的傾向を指摘する批判的用語となる。
こうした変遷により、マニエリスムはルネサンスとバロックの間に位置する
独自の芸術運動として認識されるようになったのである。
### マニエリスムからデュシャンへ
マニエリスムは16世紀初頭から17世紀初頭にかけての時代、ルネサンスの美術様式が頂点に達し、その後の変革期に生まれた。ルネサンスは自然のミメーシス(模倣)を重視し、古代ギリシャ・ローマの芸術や思想を復興する試みであったが、マニエリスムはその枠を超えて、新たな自然観や様式を模索する動きとして現れた。
マニエリスムは、芸術と自然の関係において、次のような進化をたどる。まず、自然の模倣(ミメーシス)から始まり、これはシャーマニズム的なヴァナキュラー民芸に見られるように、自然をそのまま再現することを意味する。次に、マニエリスム的転回としての表象とメタファーに進む。これは自然を単に再現するのではなく、象徴的に表現し、意味を持たせることを含む。その後、シュルレアリスムに至り、現実を超えた夢や無意識の世界を表現する。最終的には、マルセル・デュシャンの系譜に連なるコンセプトとコンテキストに至る。ここでは、芸術作品の背後にある概念や文脈が重視される。
マニエリスムはエコロジーのミメーシスやメタファーとしての芸術としても捉えられる。これは、自然を模倣するだけでなく、象徴的に表現し、その背後にある理念や様式を重視する視点である。こうした視点は、芸術が単なる自然の再現から、より深い意味や思想を表現する手段へと転換することを示している。
イデアと様式による芸術への転換として、マニエリスムはルネサンスの古典的な美術様式からの重要な転換点に位置づけられる。ルネサンスは自然の模倣を重視し、古代の芸術や思想を復興する試みであったが、マニエリスムはその枠を超え、新たな自然観や様式を模索した。この時期の芸術は、もはや自然そのものを再現することよりも、表象とメタファーを通じて新たな解釈を提供することに焦点を当てていた。
こうして、マニエリスムは様式とイデアの超越を目指し、シュルレアリスムやデュシャンの系譜に続く革新的な芸術運動の礎を築いた。これにより、芸術は単なる現実の模倣ではなく、内面的な真実や深層にある思想を追求する手段として発展していった。
脱自然としてのマニエリスム
マニエリスムをある種の転換点として見るのがよい。ある意味で都市の古典的な美術様式、まだ自然のミメーシスを残した、神代の芸術の復興(ルネサンスは、都市化と農耕化のとめどなき中にあって憧憬であり回帰であった。しかしその中で本来的なエコロジー、純粋自然は失われて久しく、この回帰もシャーマニズムやスピリットに始まる古代のそれではない。あくまでも原始的な都市単位の自然文化への回帰であっただろう。
芸術と自然の関係におけるマニエリスムは、自然の模倣から始まり、表象とメタファーを経て、シュルレアリスムに至るまでの過程で、芸術は次第にコンセプトとコンテキストの重要性を増していった。これは、マルセル・デュシャンの系譜に連なるものであり、芸術が単なる美的表現を超えて、思想や文脈を含む総合的な表現となることを示している。
表現としてのマニエリスムは、特定の様式を超えた表現の一形態として見ることができる。これは、記号としての様式をどのように解釈するかに関わる。マニエリスムは、再解釈と転換の点としての役割を果たし、都市と自然の新しい関係性を示唆するものであった。
新しい自然と環境の世紀の序章としてのマニエリスムは、純粋な自然から技術と都市の自然へと移行する序章と見ることができる。これは、ユクホイが言う「アプリオリなものがアポステリオリになる」という概念に通じるもので、都市の自然、あるいは「記号の自然」が新たなエコシステムとして機能することを示唆する。マニエリスムの特徴である平面化や身体の歪みと延長は、新しい秩序とエコシステムの一部として理解されるべきである。
ミメーシスから虚構論理への移行を象徴するマニエリスムは、自然と芸術の関係を再定義し、新たな視点から自然と環境を捉える試みである。マニエリスムは、その過程で新しい自然観とエコロジーの概念を導入し、芸術の役割を拡張した。
参考として生成市
資料
株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」