断片:ハルトのお金の稼ぎ方
この都市でお金を稼ぐ方法はいくつかある。
第一には、自分で「コイン」を発行することである。ハルト・コインである。はじめ、ハルト・コインには利用者がいないため、価値もない。通常は、まず自分が利用者となり、ハルト・コインの対価としてモノやサービスを提供する。それらのモノを求める人が多ければ多いほど、ハルト・コインは"買われ"るようになり、価値が上がっていく。
もう少し複雑なのが、コインを発行してくれるネットワークに所属し、貢献することである。例えば、『シーファントムズ』ではいくつかの実験をクラウドソーシングにかけている。クエストである。これを請け負い、成果を上げれば、報酬としてシーファントムズ・コインが支払われる。このコインでは、シーファントムズの公式グッズや、ドローン・ファイトの最新動画の視聴権が購入できるため、アクアポリス内での需要が高い。必然的に、食料や衣類との交換にも使いやすい。大規模な事業を行うときは、個人のコインをシーファントムズ・コインでまとめて買い上げて、長期間の労働的拘束権を買い上げることもある。雇用、と呼ばれる。
ハルトも小さい頃は、掃除を手伝ったり、食器を洗ったりして、ケンジ・コインをもらっていた。このコインを使って、お菓子やレイダー・モデルなどを買うのである。10歳の誕生日に、ホログラム・ヴィジョンを扱うための家庭内ネットワークを構築してもらってからは、このようなヤボ用でもらえる対価はたかが知れるようになり、やがて自然と消滅した。ハルトは、ホログラムの編集をしたり、取材映像を調査していくつかの発見をしたりして、ケンジの仕事の一部を直接的に手伝えるようになったのである。
しかしこれからは、ケンジの信用に依存する必要はない。成人である。今までに得たケンジ・コインや、ケンジとの関係性の価値がなくなることはないが、ハルトが直接社会と関わる度合いが増えるにつれて、相対的に小さくなっていくだろう。
アクアポリスのパブリックネットワークにもクエストがある。ハルトは試しに、自分が参加できるクエストをリストアップさせた。
「ヴェルダー、都市のネットワークに接続できた?」
「はい。アクセスは良好です」
「最初に取り組むのにちょうどいいクエストを3つピックアップして」
「了解しました」
コミュニティ・ガーデニングクエスト:
目的:地域の中心にある公園で、新しい花壇を作る。
タスク:
地元の植物園から推奨された花や樹木の種を選定。
園芸ツールを用いて土壌を耕し、花壇を整備。
植物を植え、初期の水やりと肥料の施工を行う。
地域住民にガーデニングワークショップを開催し、継続的な管理を促進。
リサイクル・アシスタントクエスト:
目的:リサイクルセンターで、特定の週のリサイクルプロセスを効率化する。
タスク:
リサイクル品の種類別に分類するための新しいシステムを開発・導入。
センターの職員と協力し、分類されたリサイクル品を適切な処理場所に運搬。
地域の学校や公共施設でリサイクル意識向上のための啓発活動を実施。
図書館ボランティアクエスト:
目的:地域の図書館で子供たち向けの読書促進イベントを企画・実施。
タスク:
図書館の児童書コーナーの書籍を整理し、人気のある書籍を特集。
子供たちの興味を引くテーマで読み聞かせイベントを企画。
地域の学校やコミュニティグループと協力し、イベントの宣伝と参加者募集を行う。
イベント当日は、読み聞かせを行い、子供たちとのQ&Aセッションを設ける。
つまんない仕事ばかりだな、とハルトは思った。もっと小さい子供でもできるものばかりのようだ。後でクエスト検索用のプロンプトを見直さなければならない。いっそ、仕事を募集するinboxを作って公開したらどうだろう。父の仕事のつきあいでの顔見知りも多い。新成人祝い、というわけでもないが、何かいい仕事を紹介してもらえるかもしれない。
「ヴェルダー、もう10件出してみて」
ヴェルダーはハルトが管理するAIの名前である。12歳の誕生日に贈られたものだ。ハルト自身が名付け、時々ケンカしながらも一緒に成長してきた。今では最も心を許せる相棒である。――少々頼りないが。
ふと、妙な依頼が目に留まった。報酬が都市のコインではない。つまり、その報酬がアクアポリスの市場で出回っておらず、AIが自動で価値換算できなかったということだ。
「なんだこれ。XXX?」
(後編へ続く)
ここの出会い、あんまりしっくりくるアイディアも、書きたいこともまだないけど、決まらないと引きの場面ができない