『難解な本を読む技術』
読書=作業
自分以外の誰かが書いた書籍の内容を、自分の頭の中に吸収する
他人の思考を自分の中に移植する
「わかる」
本に書かれている概念を「使う」
その本が扱う対象の範囲を知る
解説本や入門本で、その著者の問題意識や目的をあらかじめ頭の中に入れてから読み始める
本は様々なパターンで構成されている
本のタイプ
「閉じている本」と「開いている本」
「閉じている本」
著者は自らの結論を明確に持ち、その結論に向けて着々と論を構築している
「開いている本」
「で、何なの?」という問いに対しての答えを、読者自らが創出することを想定して書かれている
「外部参照」が必要な本とそうでない本
その本で用いられている概念や用語の意味を理解するために、その本以外で説明されている知識が必要になる
「登山型」の本と「ハイキング型」の本
「登山型」の本
あたかも高い山を登るように、概念の理解という階段を一歩一歩登って行かなくては理解することができないというタイプ
「ハイキング型」の本
様々な新しい概念や論理が次々と述べられていくというタイプ
全体のおおまかな地図を最初に作ってから読み進める
「批判読み」と「同化読み」
「同化読み」
「その本の内容を、その著者の方針にしたがって理解しようとする」
不明な点や疑問点が生じた場合でも、それを批判的に読むのではなく、自分の無理解のためだと考えて一旦は放置しておく
「批判読み」
問題点を発見する
基本方針
本書では、ある程度の地図を作ってから読むという方法を勧めています。
本書では、基本的に「同化読み」を想定しています
読書にかかる時間
本書では、とりあえず、「予備調査─選書─通読─詳細読み」の四つの段階を想定しています。
300ページ程度で難易度が中くらいの書籍の場合を考えてみるならば、「予備調査と選書」に少なくとも約3時間、通読に4時間、詳細読みに 10 時間、という感じになると思われます。
名著を理解するということには、世界の見方やものの見方の劇的な変化が伴います。
本書を読んで難解書に初めて手をつけるという場合には、少し余計に時間がかかるでしょうから、合計でおよそ 40 時間程度を覚悟しておいたほうがよいでしょう。
準備
読書
単に本を読むという行為を指すのではなく、自分が読みたいものの方向性を見極めて、それによって実際に選書を行うという行為をも含む
「棚見(たなみ)」
「書店の棚を見ること」
目的:自分の頭の中に「知識の容器」を作る
「なんとなく、その分野の全体像が見えてくる」
ある分野の全体像のスケッチが描けたらさらに細分化して、その中に描かれている下位分野のうち、自分が最も興味のあるものを二重まるなどで囲んでおきましょう。それが、購入する本のより明確化された「分野」となる
まず「知りたいこと」が書いてある本から読み始める
購入する本は、その段階での自分にとってベストなもの
その分野の名著のリストを作ります。そして、次に、自分が理解できる範囲に線を引きます。そのとき、その線の範囲から一つ上にあるものを選ぶのがベストな選択です。
まず、名著のリストを作ることができるか否かです。
一度目:通読
その本の全体のおおまかな地図を頭の中に作り、その地図の具体的な表現として「読書ノート」に見出しを作っていく
「読みたいときに読む」「読みたいところから読む」
三パターン
まず全体を通読する
「全体の見取り図/地図」は、必ず必要になる
章ごとに通読して、折り返して同じ章を二度目読みす
数ページごとに「自分の理解の度合い」を判定し、理解が不十分である場合には、またその部分の最初に戻って読み返す
最初のうちは、できるだけ短い範囲(章ごとなど)で見取り図・地図を作る作業を行う
読書ノートの「外形」を作る
1冊の本に対応する読書ノートを「1冊」作ります
目次を見て、「どういう区分で区切るのか」を考えます。
仮に「章ごと」に区切った場合、最初の章を読み始める前に、おおまかに「この章を 10 ページ分のメモにまとめる」ということを意識します。
途中、章の下位区分の小見出しなどが設定されている場合は、その小見出しを読書ノートに記入していきます。
メモをとりながら通読する
余白をあけてメモをとっていく
雑にとる
鉛筆で書く(後で消すため。ペンで書いておいて、解決したら二重線で消していくという方法でもよいが、読書ノートが汚くなる)
疑問を感じたら、何でもメモしておく
何度も出てくる重要な単語をメモしておく
概念と概念の関係や、理由と結論の関係については、「→」(矢印)でつないでおく
「わからないことの地図」を作る
章題や小見出しで使われている語句に関する疑問点や不明な点をメモしておく。
何度も出てくる重要な単語や概念などが目に付いたら、簡単にメモをとっておく。
比較的読みやすい箇所と、難解な箇所について、簡単にメモしておく。
こまめにページ番号を記載しておく。
重要だと感じた文や、特に目にとまる文などがあったら、その文を書き写しておく(ページ番号を忘れずに記しておく)。
概念と概念の間につながりや論理関係が存在すると思われる場合には、矢印などで結び付けておく。
わからない概念や用語があったら、大きめの文字でメモし、その横に「?」の記号をつけておく。
わからない部分は、わからないままにしておく。空白が多く残るが、この段階では問題ではない。
読書ノート
本を読みながら、その 傍らに読書ノートを開いておいて、書き込んでいく
読書ノートを見ずに、およその外形を思い出すことができるようにする
本のタイプを推測する
一度目の通読で、読み進めるにつれてどんどんわからなさが増していくと感じたら、その本は「登山型」である可能性が高い
「折り返しの位置」の判定は、「まったく理解できず、ただ文字面 を追っているだけの読書になった」ところに設定する
「閉じている本」の場合
結論のような部分や、著者の主張が、ところどころに出現する
まったくわからないとき
他の入門書、参考書、ネットなどを検索して地図を作る
つまらないとき
自分の興味の対象に関連する本を選んだ
選書の失敗
本選びをもう一度しっかりとやり直す
二度目:詳細読み
難解な本の読書は「二度」程度では決して終わらない
「立ち止まること」「読み飛ばさない」
ある範囲のおおまかな見取り図や地図ができたら、今度は、その地図の中の細かい箇所を埋めていく
自分が「理解しているかどうか」を判定するための、より具体的な方法は、「たとえばどういうこと?」と自問自答してみる
「理解できない理由」を考える
わからなさの理由を考える
その部分で使われている用語の理解が不十分
その部分で使われている論理関係の理解が不十分
その部分で扱われている問題の理解が不十分
「問題」
その部分が、「何のために」「何を解決しようとして」「どこに到達しようとして」論を展開しているか
対処法1 用語の理解が不十分である場合
【対処法1─1】その用語を説明していた部分にまで戻って、そこをしっかり理解することからやり直す
発見したら、読書ノートの該当箇所にその用語を記し、「定義」もメモしておきます。そして、その横に「要注意!」と書いておきましょう。
【対処法1─2】 対(つい)概念に着目する
対概念が使用されている場合、それらは「対」をなして意味をなしている
わかりにくい用語に遭遇したら、その周辺に対になる用語がないかどうかを探してみる
翻訳によっては、この対の関係がうまく訳出されていない場合もある
【対処法1─3】その用語を、別の参考書や解説書、入門書、ネットなどで検索し、理解する
「外部参照」が多い専門的な論文などの場合には、用語集や参考書を横に置きながら読み進めていく
対処法2 論理関係の理解が不十分である場合
【対処法2─1】その文の前後をよく読み、その主張が導き出されている論理関係を把握する。必要であれば、読書ノートに論理関係を記載し、矢印で結び付けておく。
【対処法2─2】その主張の周辺部分に、論理の筋道に該当するようなものがない場合は、その分野の概説書や入門書をあたり、その主張が一般的なものであるか否かを検証する。もしくは、その分野を専門とする人間に聞いてみる。
対処法3 問題の理解が不十分である場合
【対処3─1】その部分の近くで中心的な「問題」を探し出す。そして、その「問題」と、その(理解が困難な)箇所との関係を考える。
読書ノートには、要所要所で参照ページを書いたり、矢印で結びつけたりす
【対処3─2】問題が明確に提示されている部分が発見できない場合は、「外部参照」している可能性があるので、他の書籍やネット検索などを用いて、「問題の構造」を明らかにする
【対処3─3】その部分の役割や位置づけが明確にわからない場合、「ハイキング型」の部分であると考えて、とりあえず次に進む。
ハイキング型(読者に周囲の状況を考えさせるタイプ)の部分
対処法4 著者の主張を図にする必要がある場合
【対処4─1】該当部分を抽出・吟味して、図を描いてみる
図形的な比喩と思われる箇所が延々と続く場合、読書ノートの該当部分に、鉛筆で図形を描いてみる必要があります。
【対処法4─2】そもそも、その単語や概念の示す図形的イメージがわからなとき。
開いている本の読み方
「開いている」本には結論や主張のようなものがなく、時には著者の思考が矛盾している
開いている本を読む目的は、知識を得ることではなく、読者自身が自らの思考によって何らかの帰結を紡ぎだすことです。
「開いている」タイプの著作を読み進める場合には、ある区分を読み終えたあとでお茶やコーヒーを飲みながら、「では、私はどういう考え方を採用するべきなのか」をじっくりと考える
どうしてもわからないとき ⑴ ──いったん諦める
「寝かす」
その本を自分がいつもよく見る本棚の、よく見える位置にしまいます。読書ノートも同じように、いつでも手に取れる位置に置いておきます。
ことあるごとにその本の背表紙を見たり、その読書ノートを読み返したりするようにします。
その問題が次第に自分の身近な問題と重なってきたり、それにまつわる事実を認識するようになったりします。
読書における一つの重要な技術である
どうしてもわからないとき ⑵ ──誰かに聞く
「わかっている人間に質問する」
一般に「わかっている」とは、その「わかっている」ことを「使っている」人間のことです。「できる(使っている)人間しか、答えることはできない」というのは、質問するときの鉄則です。
「できる人間ほど、やっているところを見せる」というのが鉄則です。
「まともな質問」とは、自分でその疑問と格闘した 痕跡 が認められるもののことを言います。
さらに高度な本読み
一冊の本をある程度読み込んだあとで、その本の内容を、「より大きな知識の構造」の中に位置づけて認識しておく
読書
眺めた
⑴ まず、その本の目次をしっかり見る。
⑵ 目次の章題、もしくは小見出しなどの中から、自分にとって重要であるという項目を探し出し、その部分をざっと読む。
⑶ もしもその部分に、自分にとって「意義がある」と思われることが書かれている場合には、少し周辺を読む。そうでない場合には、すぐにやめる。
⑷ 適当にパラパラめくり、指のとまったところを読む。
見た
実際に一度通読した
読んだ
二度目の詳細読みに進んだ
読み込んだ
よく読み、あらかた理解が進行した
テーマに関する地図を作る──「包括読み」・「縦断読み」
「包括読み」
あるテーマを設定し、それについて記述されている様々な本を読むことによって、そのテーマ全体の地図を作る
「縦断読み」
読書ノートをとらずにいわば「読み捨てる」
「文献リスト」としてのメモをとります。
関連すると思われるタイトルの本をとりあえず手にとり、まず、目次を眺めましょう。次に、必要があると思われる部分を適当に眺めます。
基本文献を知る
基本文献リストができあがると、次にその「問題」をもっともよく扱っていると思われる、入門書や概説書を1冊だけ購入しましょう。
入門書および概説書
⑴ 各章ごとに、参考文献表がある。
⑵ その表に、日本語に訳されている文献があげられている。
⑶ 人名索引/事項索引がついている。
⑷ おおむね300ページ未満である(少ないほうがよい)。
購入した入門書の読み方としては、そこで取り上げられている文献を参考にしながら、それまでに作っておいた自分の文献リストを充実させていきます。
⑴ 自分の文献リストに載っていないものがあれば、それをリストに載せるかどうか考える。
⑵ リストに載せたものについて、必ず何らかのメモをしておく。
⑶ すでに自分のリストに載っているものである場合は、そのメモ欄に追記しておく。
できるだけ大量の情報を集めて、それによってその関連分野の全体像の地図を作り、最終的な段階で「これは読んでおかないといけないな」と思われるものを決定します。
「テーマに沿って読んでいく──「系統読み」
系統読みでは、最初に文献リストの中から「基本文献」とされているものを1冊か2冊選び出します。そして、まずはそれを「根」もしくは「茎」としていると考えられるものを、基本文献の次に読む本として選んでいきます
限られた冊数の中で、系統を意識して選書する
著者の著作全体の地図を作る──「著者読み」
一人の著者」の著作をただひたすら追いかけていく
著者と同じ頭になる──究極の同化読み
「著者の思想を自分の中で再構成できたと感じられる」
あらかた理解したと感じている概念などを、自分で説明したり、それを書き写したりすると、それはさらによく定着します。
「読書の醍醐味」
ある人の思想や思考と同化したという感覚は、それが錯覚であるにしても何とも言いがたい至福感を与えてくれる
批判読み
⑴ 読書ノートで関連部分の周辺を探し、その概念や論理展開、問題に関しての記載がないかどうかを確かめる。また、論理展開が不明確である場合には、ある主張にいたる論理的筋道を探索しながら読書ノートに引き写して、矢印でつないでいく。
⑵ その分野の解説書などを参考にして、概念の使用法や論理展開、問題が、一般的に使用されているものであるかどうかを確認する。もしくは、その分野に詳しい人に質問してみる。
⑶ 著者がその用語や概念に「特殊な意味」を持たせていると考えられる場合や、論理展開が特殊な方法である場合、もしくは、一般的な問題とは異なる場合などは、それに関して説明がなされている部分を探す。また、何を目的として「一般的でない表現」を採用しているのかを考え、読書ノートにメモしておく。
⑷ 上記 ⑴~⑶ の方法を試しても、まだ不明確であり、その部分の目的や役割が不明瞭である場合には、読書ノートに「この概念は不明確」「論理展開が不明確」「問題が不明確」などとメモしておく。
「この部分は、私ならこういうふうに論を進める」とか、「この概念を表現するのに、この用語は適切ではない。私ならこういう用語を使う」などという思考が生まれるようになれば、しめたものです。
他分野や他の本との関連の地図を作る──「関連読み」・「並行読み」
「関連読み」
異なる分野の知識を統合していく読み方
読者個々人の関心次第で、異なる学問同士のあいだにも問題の共通性を見出せる
複数の「異なる分野に属する知識や思想」を関連づけていこうと考える
違っている部分を探り出し、引き算のようにして「共通部分を確定する」という作業を行うわけですが、そのとき、読書ノートが役立ちます。
「並行読み」
共通していると考えられる概念や問題、手法があると思われる複数の本を、同時期に読んでいくという作業を行うことによって、その共通性や関連性を、より詳細に検討していく
思想を「生かす」ということ
「わかる」
その思想や思考の方法を現実世界において使用できる
読書
テクストとして表現されたものを、現代に生きる人間が未来を創造するために再解釈し、再度その現代的意義を創造する
思想史を学ぶ目的
私たちの来歴を知ることにあるのではなく、人類が考案してきた有効な方法と対処の歴史を知り、それを現代において自分の生活に役立てるという点において初めて意味を持つ
思想を使用するためには、それまでに生み出された知識の蓄積過程を私たち個人個人がもう一度たどってみる必要がある
本読みの役割
ある思想を自分のものにし、それを生活に生かし、さらにそれと現実を照らし合わせながら新たな問題を見出して、その解決のための努力をする
私たちは、読むことによって、知識を継承します。そして、継承し蓄積された知識を使うことによって、未来を構築していきます。