『渇き。』
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テーマ『歪んだ愛+悪・罪・醜・汚・死をめぐるアンソロジー』
現実
日記
現実
日記
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と交互に話が進んで行く
その中でどんどん主人公が壊れていく様子を描く
主人公 女性 29歳
あぁ、渇く、渇いて渇いてしょうがない。いくら求めようが、この渇きが無くなることはない。
気付いてはいるが、愚かなふりをしていつまでも求め続けている。よく考えたら、もとより潤いなど無かったのかもしれない。渇きによって、内側にある肉同士が引っ付き、無理やりはがそうと血を流し、それを何度も繰り返し、もう外側なのか内側なのかわからなくなるほどになっている。いつまで自分はこのままなのだろうか、潤うことはなく、渇いた状態が永遠に続いている。愛を求めようと、何度逢瀬を重ねても、一向に潤うことはなかった。余計、渇きを覚えるだけだった。
彼と出会ったのは、まだ人の世も分からぬ小さい頃だった。目が見え始めてようやっと母の顔が認識でき始めた頃、彼に出会った。キラキラと光を受けて輝いている彼はとても綺麗だった。まだ。言葉も知らない頃だったが、今思うとそれが一目惚れというものだったのだと思い至った。ただ、いつでも会えるわけではなく、時折母の気まぐれで会えるくらいだった。自分がぐずった時や機嫌が悪い時に会わせると、すぐに機嫌がよくなったと笑って話していた。母はとても明るい人で、日頃からブランド物を身に着けて、甘い香水の香りを漂わせていた。そんな母は時折、思い出したように自分を可愛がった。機嫌が悪い時は食事を抜かれることもあったが、ずっとではないし、母の機嫌が悪い時だけなので、日頃から母の機嫌を損ねないようにしていた。そんな不安定な母に愛想を尽かした父は会社の同僚と浮気をして、早々に母を置いて出て行ってしまった。最初母はそんな愛想を尽かされる自分を嫌い、自傷しては泣き、酒に溺れる毎日を過ごしていた。自分はそんな母を部屋の片隅からただただ見ているだけだった。浮気をして出て行ったはずの父を憎むことはせず、離婚した後もそんな父を母は慕い続けていた。そんな父に似た自分を母は、愛した。どれくらいしてからか、孤独に耐えきれなくなった母は色んな男の人を家に連れて来るようになった。毎日のように違う男の人が家に来る。居心地はとても悪い、寒空の下、家から追い出される事もあった。ただ、男の人が帰っていった時には、泣きながら謝ってきて抱き着いてきた。ごめんねを繰り返す母を見て、とても可哀そうな人だと思った。そんな小さく震える母を抱きしめ、大丈夫だよと背中を摩る。その後はいつも、母は気絶するように眠っていた。酒と香水の匂いが常に香る母、可哀そうでかわいい母、そんな今にも壊れてしまいそうな母との生活は、自分を現実から逃避させるには十分だった。そんな中でも、彼は変わらず輝き続けていた。母の隙を見ては彼と顔を合わせ、心を落ち着かせていた。彼と逢える時だけが自分の唯一の救いの時間だった。ただ、彼と会っている所を母に見つかると手を払われ、気持ち悪いと罵られた。そんな生活が続いた中でも小学校を卒業し、中学生になった。
小学校の時とは違い、学生間ではある程度のコミュニケーション能力を問われることになった。学校でも時折彼とすれ違ったが、母から気持ちが悪いと言われてからは一人でいるとき以外は出来るだけ彼とは目を合わせないようにしていた。そんな努力のおかげもあってか、特にいじめられたり、仲間外れされたりすることもなく普通の学生生活を送ることが出来ていたように思う。友達も多くはないけどちゃんといたし、放課後も普通の学生のように遊んでいた。放課後は友人の家で遊び、帰ってから夕飯を二人分作り、仕事で朝帰りになる母の分は冷蔵庫へ入れ、自分は宿題やゲームをして過ごし、また寝る。そんな毎日の繰り返しだった。時折、母が休みの時は一緒に外食したり、稀にだが母の手作りのごはんを食べたりもした。ただ、友達は出来ても恋人が出来ることはなかった。誰かを好きになろうという努力はしたが、彼以上に素敵な人と出会う事が出来なかった。クラスでは、誰がカッコいい、可愛い、素敵など色んなコイバナが咲いていたが、ただ空の返事をするだけで、本心では友人たちの会話に共感することが出来なかった。周りの話を聞いて、改めて自分が人とは違うと言う事を思い知らされた。