Riemann の級数定理 (Riemann Series Theorem)
今日は Riemann の級数定理という定理について、定理の紹介と具体例、証明、そしてその先について話します。
軽い定理の紹介
知らない単語がいくつか出ると思いますが、とりあえず定理を紹介します。
定理
実級数 $ \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} a_n は条件収束するとする。このとき、任意の実数 $ M に対して、
$ \sum_{n=1}^{\infty} a_{\sigma(n)}=M
を満たす置換 $ \sigma が存在する。また、
$ \sum_{n=1}^{\infty}a_{\sigma(n)}=\infty
となるような置換 $ \sigma も存在する。
同様に負の無限大に発散したり、収束・発散しないような置換も存在する。
準備
とりあえず、上の定理をみると「条件収束するってなんやねーん」とか「置換ってなんだっけ」ってなると思います。なので、それらについて早速説明したいのですが、その前に級数の定義についてきちんと理解していないと、かなり混乱するのでまずはそこから説明して行きます。
級数
定義
$ \{a_n\}を実数列とする。また、$ \displaystyle S_n=\sum_{k=1}^{n}a_kとする。
このとき、級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_nとは数列$ \{S_n\}の極限 $ S である。すなわち、
$ \sum_{n=1}^{\infty}a_n = \lim_{n\to\infty}S_n.
このとき、$ Sが有限の実数のとき級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_nは収束するという。
また $ S が発散するとき、級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_nは発散するという。
注意 足していく順番を変えれば部分和 $ S_n も変わるので級数も変わるかもしれない。
絶対収束
条件収束と対になる概念、絶対収束についても紹介しておきます。
定義
級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^\infty |a_n|が収束するとき、級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_nは絶対収束するという。
絶対収束の特徴も紹介しておきます。
命題
級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_nが絶対収束するなら収束する。
命題
級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_nが絶対収束するなら、任意の置換$ \sigmaに対して次が成り立つ。
$ \sum_{n=1}^\infty a_{\sigma(n)} = \sum_{n=1}^\infty a_n
条件収束
定義
級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_nが条件収束するとは、$ \displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_nは収束するが絶対収束しないことをいう。
置換(再配置)
置換は簡単にいうと並び替えです。
定義
置換$ \sigmaとは全単射写像$ \sigma:\mathbb{N}\rightarrow\mathbb{N}である。
定理の内容
準備は終わったのでもう一度定理を紹介します。
定理
実級数$ \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} a_nは条件収束するとする。このとき、任意の実数$ Mに対して、
$ \sum_{n=1}^{\infty} a_{\sigma(n)}=M
を満たす置換$ \sigmaが存在する。また、
$ \sum_{n=1}^{\infty}a_{\sigma(n)}=+\infty
となるような置換$ \sigmaも存在する。
同様に負の無限大に発散したり、収束・発散しないような置換も存在する。
つまり、置換$ \sigma(n)によって数列$ \{a_n\}を並び変える($ \{a_{\sigma(n)}\})ことによって、級数の値はどんなふうにもなるよ。って感じです。
例
交代調和級数
リーマンの定理を実感するために、交代調和級数で確かめてみましょう。
交代調和級数とは
$ A = \sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n+1}}{n} = 1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} - \frac{1}{5} + \cdots
です。$ A = \log 2であることが知られています。これを並び替えた級数
$ A' = 1 - \frac{1}{2} - \frac{1}{4} + \frac{1}{3} - \frac{1}{6} - \frac{1}{8} + \frac{1}{5} - \frac{1}{10} - \frac{1}{12} + \cdots + \frac{1}{2m-1} - \frac{1}{2(2m-1)} - \frac{1}{4m} + \cdots
について考えます。
$ \frac{1}{2m-1} - \frac{1}{2(2m-1)} - \frac{1}{4m} = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{2m-1} - \frac{1}{2m}\right)
より、
$ \begin{aligned} A' &= \frac{1}{2}\left(1 - \frac{1}{2}\right) + \frac{1}{2}\left(\frac{1}{3} - \frac{1}{4}\right) + \frac{1}{2}\left(\frac{1}{5} - \frac{1}{6}\right) + \cdots + \frac{1}{2}\left(\frac{1}{2m-1} - \frac{1}{2m}\right) + \cdots \\ &= \frac{1}{2}\left(1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots\right) \\ &= \frac{1}{2}\log 2 \end{aligned}
なので、$ A \neq A'より、確かに並び替えてしまうと値が変わってしまうことが分かります。
定理の証明
簡単のために任意の$ nに対して$ a_n\neq0とします。(ちょっと工夫すればこの仮定は外せます。)
任意の実数に収束できること
まずは並び替えることによって、任意の正の実数$ Mに収束することを証明します。
手始めに、$ a^+_n, a^-_nというものを定義します。
$ a_n^+ = \begin{cases} a_n\hspace{2em} (a_n > 0) \\ 0\hspace{2.5em}(a_n < 0)\end{cases}
$ a_n^- = \begin{cases} 0\hspace{2.5em} (a_n > 0) \\ a_n\hspace{2em}(a_n < 0)\end{cases}
このとき、$ \sum a_n^+および$ \sum a_n^-は発散します。
なぜなら、両方とも収束すると、$ \sum |a_n| = \sum a_n^+ - \sum a_n^-より絶対収束してしまうので、仮定の$ \sum a_nが絶対収束しないことに矛盾します。$ \sum a_n^+だけが発散し、$ \sum a_n^-が発散しないとすると、$ \sum a_n = \sum a_n^+ + \sum a_n^- = \inftyとなり、$ \sum a_nが収束することに矛盾するからです。($ \sum a_n^+だけが収束するときも同じ)
$ \sum a_n^+は発散するので次を満たす定数$ p_1が存在します。
$ \sum^{p_1-1}a_n^+\leq M < \sum^{p_1} a_n^+
そこで、置換$ \sigmaによって右辺の有限和の$ a_n^+が$ 0でない項だけを抜き出して並べます。
$ S_1 = \sum^{m_1}a_{\sigma(n)} = a_{\sigma(1)} + a_{\sigma(2)} + \cdots + a_{\sigma(m_1)}\hspace{2em} (a_{\sigma(i)}>0,\ \sigma(1)<\sigma(2)<\cdots<\sigma(m_1))
また、$ \sum a_n^-も発散するので、次を満たす定数$ q_1が存在します。
$ \sum^{m_1}a_{\sigma(n)} + \sum^{q_1}a_n^- < M \leq \sum^{m_1}a_{\sigma(n)} + \sum^{q_1-1} a_n^-
そこで、先ほどの$ S_1に左辺の$ a_n^-が$ 0でない項だけを抜き出して追加します。
$ S_1' = \sum^{n_1}a_{\sigma(n)} = a_{\sigma(1)} + \cdots + a_{\sigma(m_1)} + a_{\sigma(m_1+1)} + a_{\sigma(m_1+2)}+\cdots+a_{n_1}\hspace{2em} (a_{\sigma(m_1+i)}<0,\ \sigma(m_1+1)<\sigma(m_1+2)<\cdots<\sigma(n_1))
$ a_1は$ 0でないので$ \sigma(1)=1($ a_1 > 0の場合) か$ \sigma(m_1+1)=1($ a_1 < 0の場合)である。
よって、$ \sigmaの像に$ 1はかならず含まれる。
同様にして次を満たす$ p_2が存在する。
$ \sum^{n_1}a_{\sigma(n)} + \sum^{p_2-1}_{n=p_1+1} a_n^+ \leq M < \sum^{m_1}a_{\sigma(n)} + \sum^{p_2}_{n=p_1+1} a_n^+
そこで、右辺の部分和で$ 0でない$ a_n^+を抜き出して$ S_1'に追加します。
$ S_2 = \sum^{m_2}a_{\sigma(n)} = a_{\sigma(1)}+\cdots+a_{\sigma(n_1)}+a_{\sigma(n_1+1)}+a_{\sigma(n_1+2)}+\cdots+a_{\sigma(m_2)}
そして、次を満たす定数$ q_2が存在します。
$ \sum^{m_2}a_{\sigma(n)} + \sum^{q_2}a_n^- < M \leq \sum^{m_2}a_{\sigma(n)} + \sum^{q_2-1} a_n^-
またまた、左辺の級数の$ a_n^-が$ 0でない項を抜き出して追加します。
$ S_2' = \sum^{n_2}a_{\sigma(n)} = a_{\sigma(1)}+\cdots+a_{\sigma(m_2)}+a_{\sigma(m_2+1)}+a_{\sigma(m_2+2)}+\cdots+a_{\sigma(n_2)}
$ a_2も$ 0でないので$ \sigmaの像に$ 2は含まれます。
これを続けていくと、全ての自然数$ kが$ \sigmaの像に含まれるようにすることができます。また、$ \sigmaの構成の仕方から単射であることも分かり、めでたく$ \sigmaは置換になります。8888888
さて、上の不等式を$ n_mを使って書き換えると、
$ \sum_{n=1}^{n_m}a_{\sigma(n)} \leq M < \sum_{n=1}^{n_m-1}a_{\sigma(n)}
となります。つまり、
$ \left|\sum_{n=1}^{n_m}a_{\sigma(n)} - M\right| \leq |a_{\sigma(n_m)}|
ここで、$ \sum a_nは収束するので$ a_n^+と$ a_n^-は$ n\to\inftyで$ 0に収束ことが分かります。よって、不等式の左辺も$ m\to\inftyに応じて$ 0に収束します。つまり
$ \sum_{n=1}^\infty a_{\sigma(n)} = \lim_{m\to\infty} \sum_{n=1}^{n_m}a_{\sigma(n)} = M
$ Mが負の場合や$ 0の場合も同様の議論で証明できます。
正負に発散できること
$ p_1, p_2, \dotsを数列$ \{a_n\}が正のときの添え字、$ n_1, n_2, \dotsを負のときの添え字とします。(さらに、$ p_1<p_2<\cdots,\ n_1 < n_2 < \cdotsとしておきます。)
$ \sum a_n^+は発散するので、次の定数$ b_1が存在します。
$ \sum_{n=1}^{b_1}a_{p_n} > |a_{n_1}| + 1
同様に
$ \sum_{n=b_1+1}^{b_2}a_{p_n} > |a_{n_2}| + 1
$ \sum_{n=b_2+1}^{b_3}a_{p_n} > |a_{n_3}| + 1
$ \vdots
$ \sum_{n=b_{i-1}+1}^{b_i}a_{p_n} > |a_{n_i}| + 1
$ \vdots
を満たす定数$ b_2, b_3, \dotsが存在します。
そこで、元の級数を次のように並び替えます。
$ \sum_{n=1}^{\infty}a_{\sigma(n)} = a_{p_1}+a_{p_2}+\cdots+a_{p_{b_1}}+a_{n_1}+a_{p_{b_1+1}}+\cdots+a_{p_{b_2}}+a_{n_2}+\cdots
上の不等式から、並び替えた級数は$ a_{n_i}の項までで$ iよりも大きいことが分かります。よって、$ iはいくらでも大きくなるので、並び替えた級数は発散します。
級数が$ -\inftyに発散する場合も同様です。
収束も発散もしないことができること
収束も発散もしない数列$ \{r_n\}を用意します。(例えば、$ 1, \frac{1}{2}, 1, \frac{1}{2}, \frac{1}{3}, 1, \frac{1}{2}, \frac{1}{3}, \frac{1}{4}, \dots)
そして、実数$ Mに収束させたときと同じようにして数列$ \{r_n\}に近づくように級数を並び替えます。
そうすると、並び替えた級数$ \sum_{n=1}^{\infty}a_{\sigma(n)}は数列$ \{r_n\}の$ n\to\inftyの極限になりますが、$ \{r_n\}は収束も発散もしないので並び替えた級数も収束・発散しません。
応用
Riemann の級数定理を一般化したものを紹介しておきます。
Sierpiński の定理
Riemann の定理では級数のほとんどの項を部分を入れ替えることによって目的の実数に収束させていました。
でも本当に大部分を入れ替える必要はあるのでしょうか?ちょこ~っとだけ入れ替えるだけじゃダメなんでしょうか?
実はこの疑問の答えはYESなのです。
Sierpiński はほんとうにザックリ言うと、「入れ替えるのは正(もしくは負)の項だけでいいよ~」という感じの主張や「入れ替える項は結構少なくてOK」という主張の定理を証明しました。
Steinitz の定理
Riemann の定理は複素数に拡張することが出来ます。
$ \{a_n\}を複素数列とし、置換$ \sigmaによって$ \sum a_{\sigma(n)}の値が変わっちゃうことがあるとします。(無条件収束しない。)
このとき、置換によって替えられた値の集合$ S = \{\sum a_{\sigma(n)} | \sigma:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\}は次の形をした直線$ Lか複素数平面全体$ \mathbb{C}となります。
$ L = \{a + tb | t\in\mathbb{R}\},\hspace{1em}a, b\in\mathbb{C},\ b\neq0
より一般化をすると、有限次元実線形空$ Eの収束する級数を並び替えることによって得られる和の全体の集合は$ Eのアフィン部分空間(平面とか直線的な奴)になることが知られています。
参考文献
Riemann series theorem - Wikipedia ()