4次元のトポロジー
2年ぐらい前に買って途中で飽きてしまっていたので読みます。
第5章:組み合わせの思想
§5.1 コーヒーでも飲みながら…オイラーの定理
オイラーの多面体定理というものがある。小学生か中学生の頃にやるやつで、正多面体の頂点の数を$ V 、辺の数を$ E 、面の数を$ S とすると必ず$ V-S+E = 2になるというもの。
実はこれは正多面体出なくても成り立つ。具体的に言えば、3次元球面$ S^3 と位相同型な多面体ならば$ V-E+S=2 という関係が成り立つ。
さらに言えば、下の図のような穴の開いた多面体(トーラスと位相同型)については$ V-E+S=0が成り立つ。
https://gyazo.com/b10e872773ded4c421627c0463e6de83
この$ 2 や$ 0 という数をオイラー標数といって$ \chi とかで表したりする。オイラー標数は位相同型な図形では同じ値になる。だから位相同型な図形を比べるトポロジー的には大事。
そして、多面体の面を三角形や四角形に分轄してもオイラー標数は変化しない←つまり、三角形についてよく分かれば多面体についてもよく分かるということ。便利。だから三角形について考える。
§5.2 点、線分、三角形
点、線分、三角形は多面体を構成する基礎的な要素。そこで$ \mathbb{R}^nにおけるこれらをベクトルを使って表す方法について考えたい。
点
点$ p_0 \in\mathbb{R}^n は$ p_0=(p_1, p_2,\dots, p_n)と表される。これはベクトルそのものとみなせる。
線分
2点$ p_0=(x_1,\dots,x_n), p_1=(y_1,\dots,y_n)を端点とする線分について考える。それを$ |p_0p_1|と表すと
$ |p_0p_1| = \left\{((1-t)x_1+ty_1,\dots,(1-t)x_n+ty_n)|0\leq t \leq 1 \right\}
となる。ここで点$ p_0,p_1,p_t =((1-t)x_1+ty_1,\dots,(1-t)x_n+ty_n)\in|p_0p_1| をベクトルだと思えば$ p_t=(1-t)p_0 + tp_1 となる。
さらに、$ \lambda_0=(1-t), \lambda_1=t と置くと、$ \lambda_0 + \lambda_1=1, \lambda_0\geq 0, \lambda_1\geq 0 となる。逆に$ \lambda_0 + \lambda_1=1, \lambda_0\geq 0, \lambda_1\geq 0 とすると、$ p_t によって$ |p_0p_1|内の点全てを表せる。ゆえに
$ |p_0p_1|=\left\{\lambda_0p_0+ \lambda_1p_1|\lambda_0 + \lambda_1=1, \lambda_0\geq0, \lambda_1\geq0\right\}
三角形
$ p_0, p_1, p_2 を頂点とする三角形について考える。ここで3点は線型独立とする。その3点による三角形を$ |p_0p_1p_2| と表すことにする。$ |p_0p_1p_2|は線分$ |p_0p_1|上を動く同点$ p'と$ p_2による線分$ p'p_2の軌跡と捉えることが出来る。ここで$ p'は線分のときの議論によって
$ p'=\eta_0p_0 + \eta_1p_1\ \ (\eta_0+\eta_1=1, \eta_0\geq0, \eta_1\geq0)
と表される。これにより$ |p'p_2|上の点$ pは
$ \begin{aligned} p&=(1-t)p'+tp_2\ \ (0\geq t\geq1)\\ &=(1-t)(\eta_0p_0+\eta_1p_1)+tp_2 \end{aligned}
となる。ここで$ \lambda_0=(1-t)\eta_0, \lambda_1=(1-t)\eta_1, \lambda_2=t とすると
$ \lambda_0+\lambda_1+\lambda_2 = (1-t)(\eta_0+\eta_1)+t = (1-t) + t = 1
$ \lambda_0\geq 0, \lambda_1\geq 0, \lambda_2\geq 0
となる。逆に上の条件を仮定すると$ p は線型独立性とごちゃごちゃ組み合わせると$ |p_0p_1p_2| 内の1点であることが分かり、$ \lambda_0,\lambda_1,\lambda_2 を動かすことによって$ |p_0p_1p_2| の全ての点を表現可能である。ゆえに次の表示を得る。
$ |p_0p_1p_2|=\left\{\lambda_0p_0+ \lambda_1p_1+\lambda_2p_2|\lambda_0 + \lambda_1 + \lambda_2=1, \lambda_0\geq0, \lambda_1\geq0, \lambda_2\geq0\right\}
§5.3 四面体と単体
四面体
線型独立な4点$ p_0, p_1, p_2, p_3を頂点とする四面体$ |p_0p_1p_2p_3|についても線分、三角形と同様の結果が得られる。つまり
$ |p_0p_1p_2p_3|=\left\{\sum^3_{i=0}\lambda_ip_i\middle|\sum^3_{i=0}\lambda_i=1, \lambda_j\geq0\ (0\leq j\leq3)\right\} .
単体
点、線分、三角形、四面体をより高次元のものへと拡張したい。
まず名前だが、「点、線分、三角形、四面体」という呼び方はいささか自然ではない。そこで、これらを単体というグループにひとまとめにしてしまい、それぞれを0次元単体、1次元単体、2次元単体、3次元単体と呼ぶことにする。
定義
$ \mathbb{R}^n 内の$ m+1 個の点$ p_0,\dots,p_m が線型独立であるとき、$ m 次元単体(略して$ m 単体)$ |p_0\cdots p_m| とは次の式で定義される図形である。
$ |p_0p_1\cdots p_m|=\left\{\sum^m_{i=0}\lambda_ip_i\middle|\sum^m_{i=0}\lambda_i=1, \lambda_j\geq0\ (0\leq j\leq m)\right\} .
§5.4 複体と多面体
辺単体
複体とは単体の集合のことで、その単体の接し方に条件を設けたものである。3角形同士ならば頂点や辺で、4面体同士ならば頂点や辺、面でイイ感じに交わって欲しい。そこで高次元に議論を進めるには3角形の頂点と辺、4面体の頂点と辺と面に当たる概念を高次に拡張する必要がある。これが辺単体と呼ばれるものである。そのために次の命題を紹介する。
補題
$ p_0,p_1,\dots,p_m を$ \mathbb{R}^n の線型独立な点とする。ここで$ p_0,\dots,p_m の中から$ r \leq m 個の点を選んだときそれらは線型独立である。
補題より、$ m 単体$ |p_0\cdots p_m| に対して$ |p_{i(0)}p_{i(1)}\cdots p_{i(r)}|\ \ (0\leq i\leq m) は単体である。ゆえに次のように辺単体を定義することが出来る。
定義
$ m 単体$ |p_0,p_1,\dots,p_m| に対して$ r 個の頂点からなる単体$ |p_{i(0)}p_{i(1)}\cdots p_{i(r)}| を$ |p_0,p_1,\dots,p_m| の$ r 次元辺単体(略して$ r 辺単体)という。$ 0 次元辺単体$ |p_0|,|p_1|,\dots,|p_m| を頂点といい簡単のために$ p_0,p_1,\dots p_mと表す。
単体$ |p_0,p_1,\dots,p_m| に対してそれ自身$ |p_0,p_1,\dots,p_m| は$ m辺単体である。
単体$ \tau が$ \sigma の辺単体であるとき、$ \sigma \geq \tau と表すことにする。
複体
定義
$ \mathbb{R}^n の中の単体の集合$ K が次の条件を満たすとき$ K を複体という。
(1)$ \sigma\in K, \sigma\geq\tau \Rightarrow \tau\in K
(2)$ \sigma\cap\tau \not= \empty \Rightarrow \sigma\cap\tau\leq\sigma, \sigma\cap\tau\leq\tau
例
https://gyazo.com/31a2386ae2e29bf6342099f02b813717
https://gyazo.com/e68095e866f9b185f8e1bc19c545aa76
$ m 単体$ \sigma=|p_0\cdots p_m| の全ての辺単体を集めた集合$ K(\sigma) は複体である。(証明略)
$ K(\sigma) から$ \sigma を除いた集合$ K(\partial\sigma)=K(\sigma)-\{\sigma\} は複体である。
任意の複体$ K に対して$ |K| が有限のとき$ K を有限複体、そうでないとき無限複体という。
定義
複体$ K の多面体$ |K| を$ |K|=\bigcup_{\sigma\in K}\sigma と定義する。
後々のために錐というものを定義する。
定義
(1)$ X を$ \mathbb{R}^n の図形とする。点$ P_0\not\in X が$ X に関して錐構成可能な位置にあるとは、任意の点$ x\in X について$ |p_0x|\cap X=\{x\} となることを言う。
(2)点$ p_0 は$ X に関して錐構成可能な位置にあるとする。このとき
$ p_0*X=\bigcup_{x\in X}|p_0x|
を$ X を底とし、$ p_0 を頂点とする錐とよぶ。
単体$ |p_0\cdots p_m| は任意の$ (m-1) 辺単体を底とした錐とみなすことが出来る。すなわち$ |p_0\cdots p_m| = p_i*|p_0\cdots\hat p_i\cdots p_m| ($ \hat{} はその点を取り除く記号。)
定義
$ K を複体、$ p_0 を$ |K| に関して錐構成可能な位置にある点とする。このとき$ K の錐複体$ p_0*K を次のように定義する。
$ p_0*K = K\cup \{p_0*\sigma\mid\sigma\in K\}\cup\{p_0\}
$ |p_0*K|=p_0*|K| である。
補題
$ X_0\approx X_1\Rightarrow p_0*X_0\approx p_1*X_1
(証明)
$ f:X_0\to X_1 を同相写像とする。$ p_0 以外の$ p_0*X_0 の点$ p は$ p=(1-t)p'+tp_0\ \ (p'\in X_0,\ 0\leq t<1) と一意的に表せる。そこで$ F:p_0*X_0\to p_1*X_1 を$ F(p)=(1-t)f(p')+tp_1 と定義し、$ F(p_0)=p_1 とすれば$ F は同相写像となる。
胞体とは凸多角形や凸多面体の概念を拡張したものである。これらがいくつかの半平面や半空間の共通部分で構成できることを利用して胞体を定義する。
定義
$ \Pi を$ \mathbb{R}^n の$ m 次元空間とする。$ f:\Pi\to\mathbb{R} が線型関数であるとは、$ {}^\forall p, q\in\Pi,\ {}^\forall t\in\mathbb{R} に対して$ f((1-t)p-tq)=(1-t)f(p)+tf(q) が成り立つことをいう。
定義から$ f が線型関数ならば
$ f(p), f(q)\geq 0\Rightarrow f(x)\geq 0\ \ ({}^\forall x\in|pq|)
であることが分かる。
$ f:\Pi\to \mathbb{R} が線型関数であるとき、$ f\geq 0 となる範囲を$ f\geq 0 で定まる$ \Pi の半空間という。
定義
$ f_1,f^2,\dots,f_k を$ \Pi 上の線型関数とする。
$ C=\bigcap_{i=1}^k \left\{ p\in\Pi\mid f_i(p)\geq 0 \right\}
という形の点集合が$ \emptyset でない有界な図形であるとき、$ C を胞体という。
また、$ {}^\exist p\in\Pi\ \ s.t.\ \ f_1(p)>0, f_2(p)>0,\dots,f_k(p)>0 のとき$ C の次元は$ m であるという。($ m は$ \Pi の次元)また、この$ p を$ C の内点といい内点全体の集合を$ Cの内部という。$ \rm{Int}(C) と表す。また、内点でない$ C の点を$ C の境界点といい、境界点全体の集合を$ \partial Cと表す。
$ C = {\rm Int} (C)\cap\partial C,\ {\rm Int}(C)\cup\partial C = \emptyset である。
例えば、$ m 単体$ |p_0\cdots p_m| は$ m 胞体である。
命題
$ m 胞体$ Cについて$ C\approx D^m,\ \partial C\approx S^{m-1}.(証明略)
§5.5 複体の細分
複体は多面体を単体に分轄したものであった。複体$ K に含まれる単体をさらに細かい単体の集合に分轄することで、より小さい単体からなる複体を作る操作が考えられる。これを複体$ K の細分という。細分の仕方にはいろいろある。
定義
複体$ K, Lがあり
(1)$ |K|=|L| ($ K と$ L は同じ多面体を分轄したもの)
(2)$ {}^\forall \sigma\in L に対して$ {}^\exist\tau\in K\ \ s.t.\ \ \sigma\subset\tau.
を満たすとき、$ L を$ K の細分という。
細分の標準的なやりかたの一つに重心細分というものがある。そのために次のことを定義しておく。
定義
(1)複体$ K の次元$ \dim K とは、$ K に属する単体の次元の最大値である。
(2)$ r=0,1,2,\dots について、$ K の$ r 骨格$ K^{(r)} とは、$ K に属する$ r 次元以下の全て単体の集合である。
例:
$ \sigma=|p_0\cdots p_m| について、$ K(\sigma)^{(m-1)}=K(\partial\sigma) 。
$ K=K^{(\dim K)} 。
複体$ K の重心細分$ K' は次のようにして定義される。
$ K^{(0)} の重心細分$ (K^{(0)})' は$ K^{(0)} そのまま。
$ K^{(1)} の重心細分$ (K^{(1)})' は単体$ \sigma\in K^{(1)} をその重心(中点)で2等分したものの集合。
これは$ \sigma をその中点$ p_\sigma を用いて錐複体$ p_\sigma*K(\partial\sigma) に置き換えている。
$ K^{(2)} の重心細分$ (K^{(2)})' は単体$ \sigma\in K^{(2)} を錐複体$ p_\sigma*K(\partial\sigma)' に置き換えたもの。
$ \sigma の境界$ \partial\sigma は$ \partial\sigma\subset |(K^{(1)})'| であるから、これは既に重心細分$ K(\partial\sigma)' になっている。
$ \vdots
これを$ K=K^{(\dim K)} の重心細分までやれば$ K の重心細分$ K' を得る。
こうして得た$ K' は複体である。(証明略)
定義
(1)コンパクトな図形$ C の直径$ \delta(C) を$ C の内部に属する2点$ p,q の距離$ d(p,q) の最大値と定義する。
(2)複体$ K に対して$ K のmeshを次のように定義する。
$ {\rm mesh}(K)=\max\{\delta(\sigma)|\sigma\in K\}
定理
$ K を有限複体、$ m=\dim(K) , $ K' を$ K の重心細分とする。このとき$ {\rm mesh}(K')\leq \frac{m}{m+1}{\rm mesh}(K) 。
系
$ K''=(K')' , K'''=(K'')',\dots とする。このとき
$ {\rm mesh}(K'')\leq \left(\frac{m}{m+1}\right)^2{\rm mesh}(K),\ \ {\rm mesh}(K''')\leq \left(\frac{m}{m+1}\right)^3{\rm mesh}(K),\ \ \dots
すなわち、いくらでも mesh が小さい$ K の細分が存在する。
定理の証明は省略。
胞体的複体
定義
次の2つの条件を満たす胞体の集合$ Mを胞体的複体という。
(1)$ C\in M かつ$ D が$ C の面$ \Rightarrow\ D\in M
(2)$ C, D\in M \Rightarrow C\cup D は$ C の面であり$ D の面でもある。
§5.6 オイラー標数
$ K を有限複体として、$ K のオイラー標数を定義する。$ m=\dim K とし、
$ \alpha_n(K)= K の$ n 単体の個数。
とする。
定義
$ \chi(K)=\sum^m_{i=0}(-1)^i\alpha_i(K)を複体$ Kのオイラー標数という。
定理
$ K_1, K_2 が同じ多面体の分割ならば、$ \chi(K_1)=\chi(K_2) .(オイラー標数は分割の仕方によらない。)