高専からの数学科編入(九州大学)
令和4年度九州大学理学部数学科の編入学試験を受けてきたので、体験談をつらつらと記します。
自己紹介
出身学校 :東北某高専(学科は電気・電子系)
学科順位 :1~4年生、上位5位以内
併願大学 :神戸大学理学部数学科(合格)
部活や資格:部活は無所属、TOEIC570点、2年~3年に数学の高専教員と可換代数入門を用いた可換環論のゼミをしていた。 合否 :合格
志望理由
高専入学前から数学に興味を持っていたが、上記の可換環論ゼミをやっていくうちに大学で数学を学び研究したいと思った。特に、力学系理論に興味があり、京大に次いで力学系の研究が活発な九大に興味を持ちました。
勉強方法
神戸大学のものとほぼ同じです。
数学
出題範囲である微分積分と線形代数について、4年生の初め頃から大学編入の為の参考書を使って勉強しました。また、週に1回、編入試験(数学科に限らない)の数学の問題を出し合う弊高専の集まりに参加していたので、夏休みはじめまで出された問題をちょこちょこ解いていました。
4年生後期からは色々な大学の数学科編入問題を漁り片っ端から解いてました。また、苦手な分野(数列、級数、微分方程式)について、インターネットで応用的な記事(例えばCauchyの判定法やBernoulli型微分方程式)を探し、重点的に勉強しました。
ただ、神大受験後に勉強のモチベーションが著しく低下し、試験1週間前までほとんど勉強していませんでした。試験まであと1週間を切ってから危機感を覚え、手をつけていなかった九州大学の過去問を解きました。過去問は1年ほど前に請求して、その時にチラ見していたこともありスラスラ解けました。しかし、2か月近く数学の勉強をしていなかったので「いや今は解けてるけどさぁ、初見だと解けないよなぁ」と弱気だったのを覚えています。
ちなみに、最終的に編入試験の勉強に使ったノートは全部で16冊半でした。
https://gyazo.com/1b3dcb00a2da31ec86e5eb8b1ed03aa2
持ってみると物凄く重いです。正直、この勉強量が多いのか少ないのか比較相手がいないのでよく分かりません。1冊が60ページなので、990ページも使ったことになります。そう思うと多いような気がする。いや、でも世の大学受験を狙う高校生はもっと勉強するんだろうな。でも、数学だけでこんなに勉強するのかな?う~ん、わからん。何もわからん。あと、ノートに書いてる文字が結構大きいのでその観点からもそんなに多くないのかもしれない。何はともあれこの情報が何らかの参考になれば幸いです。
https://gyazo.com/1dc72f7a4f0322b7726a4905e0cb5dd3
使ったノートの中身
参考書:詳解と演習大学編入試験問題<数学>、明解演習微分積分、明解演習線形代数
面接
筆記試験で合格した人が当日に面接を受ける方式なので、面接はそこまで比重が重くないだろうと思い、特に準備はしませんでした。
試験内容
数学
A3のほぼ白紙の用紙の表裏を大問1問ごとに1枚使って解答を書いていく形でした。
以下、大問ごとのざっくりした説明を以下に記します。
1. 単位円に内接する三角形で面積が最大のものは正三角形であることを証明する問題
2. 線形写像の核と像の基底を求める問題
3. 算術幾何平均を改造した算術幾何調和平均の収束性を問う問題
4. 対称行列の直行対角化行列を求める問題
明らかに例年よりも難化していました。驚くべきことに4年連続で出ていた積分の問題が出ず、今まで出題されていなかった漸化式の問題が出題されました。さらに、大問1はこの問題で受験者の何を測ろうとしているのか不明です。大問2以外は例年の問題よりも明らかに難しいものでした。ここまで難化したのは、おそらく今年の受験者数が定員の5名に対して29名もいたからだと思います。なので、来年の受験者数が減れば問題は例年通りになると思います。
私の出来は
1. (1)頑張って色々計算したが模範解答にはかすりもしない (2)白紙
2. 完答
3. (1)-(3)正解 (4)不正解
4. (1)白紙 (2)正解 (3)大筋はあっているが計算ミスで直行行列にならず、記号でおいて誤魔かす
とこのような出来でした。正直、筆記試験は落ちたと思ってました。
面接
落ちたと思っていたとはいえ、筆記試験終了の12:00から面接試験該当者発表の15:00までやることもなかったので面接の対策に筆記試験を解きなおしていました。大問3の(4)以外は模範解答を作成できました。大問3の(4)は間違っていることには気づいたものの正解が分からないまま面接試験該当者が発表されました。結果、面接をすることになり控室へ移動。試験監督官がいなかったので7名の面接試験該当者とお喋りをしていました。どうやら、全員が落ちたと思っており、満場一致で明らかに難化しているという話になりました。
40分後に面接が始まり受けました。面接官は3人。雰囲気は殺伐としていました。質問の内容は以下の通りです。
他大学の受験をしているか(合否には関係ないと言われた)
筆記試験の大問3 (4) を間違えていたが、どうすれば良かったか
大学数学はどの程度勉強しているのか
一様連続の理解度を確かめる質問
ジョルダン標準形は理解しているか
筆記試験の大問3については面接時も結局、正解は答えられませんでした。(試験日の夜、解答を思いつきましたが押してダメなら引いてみろ的な考えが必要で緊張していた試験時間中に思いつくのは自分ではムリだと思いました。)
大学数学についての質問は自分が自身を持って勉強してきた本を正直に話しました。(可換代数入門・ベーシック圏論・力学系理論の本)
一様連続についての質問は連続と一様連続の違いについて聞かれ、(閉区間で連続だと一様連続とかそういうやつだよな?)と頭をよぎったものの、しっかりと勉強していたわけではなかったので苦し紛れに連続の定義と一様連続の定義を述べました。その後、連続だが一様連続でない例として$ x^2を挙げました。更に$ y=|x|が実数全体上で一様連続かどうかを聞かれ一様連続でないと答えました。これ不正解です。
ジョルダン標準形については、「聞いたことはあるが勉強したことがない」と答えました。面接官から「3年次に編入するなら勉強した方が良い」と言われました。まったくもってその通りだと思います。
筆記試験について聞かれたあたりから脳内がパニック状態に陥っており、何分間面接を受けたなどは記録していませんでした。
これから受験する人へ
編入学試験に出る問題は一見すると対策のしようがないものが多いように思えますが、じつはそうでもないと今回の受験で思いました。というのも大問3は過去に広島大学の数学科編入試験で出題されていたからです。結局、出題される分野は微積分と線形代数なので、作れる問題のバリエーションは限られてくるということなのでしょう。
数学科に限らず、編入を目指す方には志望以外の大学の過去問も色々解いて見るのをおススメします。
また、大学が試験を通して見たいのは、編入試験に対する練度ではなく、微積分(解析学)と線形代数の熟練度なのだと強く思いました。募集要項を見ればこのことは明白なのですが、試験を受けるまで頭から抜けていました。その結果、面接試験で散々な回答をしてしまいました。3年次編入では、入学してすぐに数学の基礎を土台にした応用的な難しい授業を受けることになります。また、1年後には院試が控えています。それを踏まえると、編入学試験の勉強はもちろんのこと、解析学と線形代数の専門書を買って、独学しておくべきだったと面接の散々な結果を受けて後悔しました。九大に落ちたとしても神大には進み、3年次に編入することには変わりないので、決心して解析学と線形代数の勉強を1からやり直しています。
是非、これから数学科に編入する方は、編入試験への対策だけでなく、解析学や線形代数、欲を言えば集合論の基礎を学んで試験に臨んだら完璧だと思いました。高専に通いながらこれを達成するのは困難でしょうが、可能な限り勉強するべきだと思います。
とはいえ、数学科への編入を志望しているわけですから、編入試験の勉強で数学が嫌いになっては元も子もありません。そのような考えに基づいて、編入試験対策を始めたときよりも編入試験を終えた後の方が数学が好きなれるように、編入試験の勉強をしてきました。
高専ではなかなか出来ない、数学力の腕試しが出来る絶好の機会ですから、試験本番を楽しみに勉強してみてください。応援してます。
追記: 編入後の生活について書きました