開基、準開基のお気持ち
位相空間論における開基、準開基が自分の中で飲み込めたような感じになったので思い出せるように纏めておきます。
生成する
数学では生成するという概念がしばしば使われます。例として、基底により生成されたベクトル空間、生成される群などが挙げられます。あるいは有限生成や自由生成という修飾のついた概念を聞いたことがあるかもしれません。生成するという概念は数学の至る分野でも使われているので,具体的に言葉で説明するとどこかしらで歪が生じる可能性がありますが,それを承知で述べますと,
集合$ Sが○○を生成するとは,○○上の操作を$ Sの元に対して何度か適用することにより新たな集合$ Zを作り出すこと
を言います.
例えば,$ Sから群を生成する場合であれば,任意の2つの元$ a, b\in Sの積$ a\cdot bを集めて群を作ります.
これは感覚的な話ですが,僕はこの生成するという概念は昆布を水で戻すことや圧縮ファイルを展開するなどと同じようなものなのかな~と捉えています.
開基
開基は位相を生成する集合として定義されます.
定義
$ (X,\mathcal{O})を位相空間とする.$ Xの部分集合の集まり$ \mathcal{B}\subset\mathcal{P}(X)が$ \mathcal{O}の開基であるとは,任意の開集合$ U\in\mathcal{O}に対してある$ \mathcal{B}の集合族$ (B_i)_{i\in I}が存在して$ U=\bigcup_{i\in I}B_iを満たすことをいう.
つまりどういうことかというと,「$ \mathcal{B}が開基なら,任意の開集合を適当な開基の元の合併で表せるよ」ということです.つまり,合併をとるという操作を適用することによって,昆布を戻したり,圧縮ファイルを展開するのと同様に開基から位相を復元しています.これが開基です.
準開基
数学をしていると適当な部分集合から何かを生成したくなります.位相空間論でも同様に$ Xの部分集合族$ \mathcal{U}\in\mathcal{P}(X)を適当に取ってきて位相を生成したいな~となります.「じゃあ$ \mathcal{U}を開基とする開集合系を作ればいいか!」となるのですが,一筋縄ではいきません.というのも$ \mathcal{U}から2つの集合$ U, Vをとってきた場合,必ずしも$ U\cap V\in \mathcal{U}とは限らないからです.つまり,開集合系の公理「開集合の有限個の合併もまた開集合である」というのに反してしまう可能性があります.そこで,今度は$ \mathcal{U}から開基を生成してみます.そしてこれこそが準開基です.
定義
$ \mathcal{S}\subset \mathcal{P}(X)が開基$ \mathcal{B}の準開基であるとは,任意の要素$ B\in\mathcal{B}に対してある$ \mathcal{S}の有限族$ (S_i)_{i\in I}が存在して$ B=\bigcap_{i\in I}S_iを満たす.
つまり,準開基は開基を生成するのです.任意の部分集合族$ \mathcal{U}は準開基となりえます.また,「位相$ \mathcal{O}を生成する開基」を生成する準開基が考えられます.この意味で「位相$ \mathcal{O}を生成する準開基」などの言い回しもあります.
まとめ
つまり,集合$ Xの任意の部分集合族$ \mathcal{U}\subset\mathcal{P}(X)を使って位相を生成するためには2つのステップを踏む必要があります.
1.$ \mathcal{U}を準開基とみなして開基$ \mathcal{B}を生成する
2.生成された開基$ \mathcal{B}を用いて開集合系$ \mathcal{O_\mathcal{U}}を生成する
結局,部分集合族で位相を生成するためには「共通部分トリマクール」と「合併ツクール」をめちゃくちゃ酷使して生地を膨らませればいいということになります.
そして,これを1文にまとめると本によく書いてある「$ \mathcal{U}によって生成された位相$ \mathcal{O_\mathcal{U}}」の定義文が得られたりします.