ベーシック圏論4章3節
読んだ内容を軽くまとめます.
4.3 米田の補題の系
表現は普遍要素
系 4.3.2
$ \mathscr{A}を locally small な圏、$ X:\mathscr{A}^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}を関手とする。このとき、$ Xが表現可能であることと、次の条件を満たす対象$ A\in\mathscr{A}と満たす要素$ u\in X(A)が存在することは同値:
(条件) 各$ B\in\mathscr{A}と$ x\in X(B)に対して、$ (X\bar{x})(u) = xとなる$ \mathscr{A}の射$ \bar{x}:B\to Aが唯一つ存在する。
図式にまとめると次のようになる。
https://gyazo.com/cca90b2d1038c96181ac741d56de5756
$ B\in\mathscr{A}と$ x\in X(B)に対し、組$ (B, x)は前層$ Xの要素と呼ばれる。
また、上の(条件)を要素$ uは普遍要素と呼ばれる。
証明
米田の補題より$ A\in\mathscr{A}と$ u\in X(A)に対して、自然変換$ \tilde{u}:H_A\to Xが同型射であることとステートメントの(条件)が同値であることを示せばよい。($ \ \tilde{}\ は米田の補題の証明中に使用したもの。)今、$ \tilde{u}が同型射であること全ての$ B\in\mathscr{A}に対して関数$ \tilde{u}_B:H_A(B)\to X(B)が全単射としてであることと同値、それは全ての$ B\in\mathscr{A}と$ x\in X(B)に対して$ \tilde{u}_B(\bar x)=xとなる射$ \bar{x}\in\mathscr{A}(B, A)が唯一つ存在することと同値である。ところで$ \tilde{u}_B(\bar x) = (X\bar{x})(u)であり、これはちょうどステートメントの条件である。$ \square
双対バージョンも成り立つ。
系 4.3.3
$ \mathscr{A}を locally small な圏、$ X:\mathscr{A}\to\mathbf{Set}を表現可能関手とする。このとき、$ Xの表現は対象$ A\in \mathscr{A}と次の条件を満たす要素$ u\in X(A)が存在する:
(条件)各$ B\in\mathscr{A}と$ x\in X(B)に対して、$ (X\bar{x})(u) = xを満たす写像$ \bar{x}:A\to Bが唯一つ存在する。
米田埋め込み
系 4.3.7
$ \mathscr{A}を locally small な圏に対し、米田埋め込み
$ H_\bullet:\mathscr{A}\to\lbrack \mathscr{A}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}\rbrack
は忠実充満である。
証明
各$ A, A'\in\mathscr{A}に対し、関数$ \mathscr{A}(A, A')\ni f \mapsto H_f\in\lbrack \mathscr{A}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}\rbrack(H_A, H_{A'})が全単射なことを示す必要がある。米田の補題の$ Xを$ H_A'として適用すると、
$ (\ \tilde{}\ ):H_{A'}(A)\to\lbrack \mathscr{A}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}\rbrack(H_A, H_{A'})
は全単射である。よって、$ H_\bullet = (\ \tilde{}\ )であることを示せばよい。つまり、与えられた$ f:A\to A'に対して$ H_f = \tilde{f}であることを示せばよく、これは$ \widehat{H_f} = fであることと同値。そして、確かに
$ \widehat{H_f} = (H_f)_A(1_A) = f\circ 1_A = f
である。$ \square
注意: 数学において「埋め込み」というのは定義域が"像"と同型であることを指す。忠実充満な関手はその像との間で圏同値である。よって$ H_\bulletを米田埋め込みという。
補題 4.3.8
$ J:\mathscr{A}\to\mathscr{B}を忠実充満関手とし、$ A, A'\in\mathscr{A}とする。このとき:
1. $ \mathscr{A}の射$ fが同型射であることと射$ J(f)が$ \mathscr{B}が同型射であることと同値。
2. 任意の同型射$ g:J(A)\to J(A')に対し、$ J(f) = gとなるような$ \mathscr{A}の同型射$ f:A\to A'が唯一つ存在する。
3. $ \mathscr{A}の対象$ A, A'が同型であることと$ \mathscr{B}の対象$ J(A)と$ J(A')が同型であることは同値。
証明
1. $ fは同型射とする。よって逆射$ f^{-1}が存在する。このとき関手の定義から$ J(f)\circ J(f^{-1 }) = 1,\ J(f^{-1})\circ J(f) = 1となる。よって$ J(f)は同型射。逆に$ J(f)は同型射とする。このとき、$ Jの充満性から$ J(g) = J(f)^{-1}を満たす$ \mathscr{A}の射$ gが存在する。このとき、$ J(gf) = 1 = J(1),\ J(fg) = 1= J(1)であり、$ Jの忠実性から$ gf = 1,\ fg = 1。よって$ fは同型射。
2. $ Jの忠実充満性から$ J(f) = gとなる$ fが唯一つ存在する。そしてこの$ fは(1. )より同型射。
3. (1. )より$ A\cong A'\implies J(A)\cong J(A')。(2. )より$ J(A)\cong J(A')\implies A\cong A'。$ \square
表現可能関手の同型射
系 4.3.10
$ \mathscr{A}を locally small な圏とし、$ A, A'\in\mathscr{A}とする。このとき、
$ H_A\cong H_{A'} \iff A \cong A' \iff H^A \cong H^{A'}.
証明
双対性より最初の$ \iffだけ示せばよく、これは系4.3.7と補題4.3.8 (3)から従う。
というのも、米田の補題から$ \lbrack \mathscr{A}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set} \rbrack(H_A, H_{A'}) \cong H_{A'}(A)であり、故に同型射$ f\in H_{A'}(A):A\to A'が存在するなら補題 4.3.8 (3)から$ \tilde{f}:H_A\to H_{A'}は同型射であり、逆もまた然りということである。$ \square
この結果は、「対象は他の射との関係性でのみ決定される」ということを示していて、圏論っぽさ全開のおもしろ命題である。