ベーシック圏論4章2節
読んだ内容を軽くまとめます.
4.2 米田の補題
関手$ \mathscr{A^{\rm op}}\rightarrow\bold{Set}はしばしば$ \mathscr{A}上の前層と呼ばれていた.この前層の圏$ \lbrack\mathscr{A^{\rm op}}, \bold{Set}\rbrackはある1つの対象からどのように見えるだろうか?特に$ A\in\mathscr{A}として$ H_Aからはどのように見えるだろうか?言い換えると,$ Xを他もう一つの前層としたとき,射$ H_A\rightarrow Xとは何だろう?
$ H_Aと$ Xはどちらも$ \mathscr{A^{\rm op}}から$ \bold{Set}への関手であるから,射$ H_A\rightarrow Xは自然変換が相応しいだろう.この自然変換の集まりを次のように表す.
$ \lbrack \mathscr{A^{\rm op}},\bold{Set} \rbrack(H_A, X)
この集まりと同型なものを別の方法で作ることはできるだろうか?実はとても単純な方法で作ることが出来る.それは集合$ X(A)である.そして,これこそが米田の補題である.
定理 4.2.1(米田)
$ \mathscr{A}をlocally small な圏とする.このとき$ A\in\mathscr{A}と$ X\in\lbrack \mathscr{A^{\rm op}} \bold{Set} \rbrackについて自然に
$ \lbrack \mathscr{A^{\rm op}}, \bold{Set}\rbrack(H_A, X)\cong X(A).
自然に~というのは集合としてだけでなく,関手として同型であるということである.つよい.
米田の補題が成り立たない場合について考えてみる.前層$ X:\mathscr{A^{\rm op}}\rightarrow \bold{Set}に対して新たな前層$ X'=\lbrack \mathscr{A^{\rm op}}, \bold{Set}\rbrack(H_\bullet, X),それは$ X'(A)=\lbrack \mathscr{A^{\rm op}}, \bold{Set}\rbrack(H_A, X)を定義する.この操作を繰り返すことによって我々は潜在的には全て異なる前層の無限列$ X, X', X'',\dotsを創り出すことが出来る.ところが米田の補題が成立している場合はこれらの前層は全て同じである.世界はちょっとだけシンプルなみたいだ.
証明
証明するためにはまず,各$ A, Xに対して$ \lbrack \mathscr{A^{\rm op}}, \bold{Set}\rbrack(H_A,X)と$ X(A)の間の全単射を定義する必要がある.その後,その全単射が$ Aと$ Xについて自然であることを示す.
全単射の構成
関数$ (\ \hat{}\ ):\lbrack \mathscr{A}^{\mathrm{op}},\mathbf{Set}\rbrack (H_A, X)\to X(A)を自然変換$ \alpha :H_A\to Xに対し$ \hat \alpha := \alpha_A(1_A)によって定める。
関数$ (\ \tilde{}\ ):X(A)\to\lbrack\mathscr{A}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}\rbrack(H_A, X)を$ x\in X(A)に対し$ \tilde x_B:H_A(B)\to X(B)\hspace{1em}(B\in\mathscr{A})を$ f\in\mathscr{A}(A, B)に対し$ \tilde x_B(f):=(Xf)(x)によって定める。
さて、この$ \tilde x:H_A\to Xは自然変換でなくてはならない。それを確認しよう。$ \mathscr{A}の射$ g:B'\to Bをとる。このとき、次の図式は可換である。
https://gyazo.com/aa29be80e6489834ee2fae3ddc363a58
なぜなら、$ f\in\mathscr{A}(A, B)をひとつ取り、2つの経路で送るとそれぞれ
$ (X(f\circ g))(x) ($ \mathscr{A}(A, B')を通る経路)
$ (Xg\circ Xf)(x) ($ X(B)を通る経路)
となる。これらは関手の定義から等しい。
今構成した関数$ (\ \hat{}\ ), (\ \tilde{}\ )が互いに逆、すなわち全単射であることを示す。
まず、$ x\in X(A)に対し、
$ \begin{aligned}\hat{\tilde x} &= \tilde{x}_A(1_A) \\ & = (X1_A)(x) \\ &= 1_{X(A)}(x) \\ &= x.\end{aligned}
また、$ \alpha:H_A\to Xに対し$ \tilde{\hat{\alpha}} = \alphaを示したい。今、$ \alphaは自然変換であるから、各成分が等しいことを示せばよい。すなわち各$ B\in\mathscr{A}に対して$ (\tilde{\hat{\alpha}})_B = \alpha_Bを示す。また、$ (\tilde{\hat{\alpha}})_B, \alpha_Bは写像であるから、定義域の各元$ f\in H_A(B)における値での等式$ (\tilde{\hat{\alpha}})_B(f) = \alpha_B(f)を示せばよい。そして実際、
$ \begin{aligned}\left(\tilde{\hat{\alpha}}\right)_B(f) &= (Xf)(\hat\alpha) \\ &= (Xf)(\alpha_A(1_A))\end{aligned}
であり、$ \alphaの自然性から次の図式は可換
https://gyazo.com/8dafe5874bffb26562cbea2cf6658130
よって、$ 1_A\in\mathscr{A}(A, A)に対して図式の可換性を適用することで、
$ \alpha_B(1_A \circ f) = (Xf)(\alpha_A(1_A))
を得る。よって$ (\tilde{\hat{\alpha}})_B(f) = \alpha_B(f)となる。(全単射の構成終了)
補題1.3.11から$ (\ \tilde{}\ )の自然性が分かれば$ (\ \hat{}\ )の自然性が分かる(ので$ (\ \tilde{}\ )についてのみ見る)。さらに演習1.3.20より$ (\ \tilde\ )の自然性は$ Xと$ Aをそれぞれ個別に固定し、固定していない変数についての自然性を確かめれば十分である(のでそうする)。
$ A\in\mathscr{A}について自然であること
$ X:\mathscr{A}^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}を固定する。このとき全ての$ f:B\to Aについて
https://gyazo.com/f607a9986c255ee53ff018148a5c235e
が可換であることを見ればよい。そして実際、$ \alpha:H_A\to Xを左上から取ると
https://gyazo.com/173f32bc961a1762c1ef08a0fb5b0c7b
となり、
$ \begin{aligned}(\alpha\circ H_f)_B(1_B) &= \alpha_B((H_f)_B(1_B)) \\ &= \alpha_B(f\circ 1_B) \\ &= \alpha_B(f) \\ &= (Xf)(\alpha_A(1_A))\end{aligned}
より可換である。($ Aについての自然性終了)
$ X\in\lbrack\mathscr{A}^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}\rbrackについての自然性
$ A\in\mathscr{A}を固定する。このとき、任意のの自然変換$ \theta:X\to X'に対して
https://gyazo.com/a70fbc359b5c6a90e378d7a756de7fbc
は可換である。なぜなら$ \alpha:H_A\to Xを左上から取ると
https://gyazo.com/32d418f65b7a0f06d5c117cf017ce135
となり、右下の2つの値は自然変換の垂直合成の定義から等しいことが分かる。$ \square