ラブライブフェス雑感
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未体験HORIZON
Aqoursの楽曲には沼津感があってほしいと常々思っている。
特にTVアニメ1期前後の楽曲は、沼津や内浦の風景を想像させるような雰囲気のもの多かったように感じる。
夢で夜空を照らしたい、待ってて愛のうた、空も心も晴れるから、太陽を追いかけろ! etc...
それが、プロジェクトが進展していくにつれ、沼津から県外、県外から海外へと、楽曲から思い浮かぶ風景もだんだんと沼津から遠ざかっていったような印象があった。
HAPPY PARTY TRAIN では、内浦から伊豆長岡、三島、そして大分(豊後森機関庫)へと物語が広がっていったし、The School Idol Movie / Over the Rainbow に至ってはイタリアまで行ってしまった。
そういう背景もあり、直近の楽曲からはあまり沼津感を感じられない、というのが正直な気持ちだった。
プロジェクト自体の展開としても、劇場版の上映や5thライブも終わり、次の展開が見えなくなりつつあった2019年秋。
4thシングルたる 未体験HORIZON は、そんなタイミングで発売された。
2016年のTVアニメ放映開始以来、ハイペースに展開されてきた怒涛のイベントラッシュが終わり、いま、Aqoursの9人から見えている景色とは何なのだろうか?
https://gyazo.com/eb009c503c52441ef80187b130a1a60a
それは、一度沼津を離れたからこそ気づけるようになった、俯瞰して内浦の町を見下ろすような視点だったのではないかと思う。
ラブライブ予選と決勝戦、浦の星女学院の閉校、3年生の卒業、それらすべてを経てきたからこそ得られた景色。
リアル軸で言うなら、メットライフドームから東京ドーム、海外での数々の公演を経てきたからこそ得られた景色。
わたしがそんな視点を感じられたのが、発端丈山に登ったときの見晴台からの風景だった (上の写真) 。
そこからは、内浦の町並みと淡島、内浦湾の先にある富士市の海岸線、富士山、そして水平線をひとつの画角で見ることができる。
海へと沈むけど 海から昇るんだ
月も太陽も あの水平線は
すべてを見守りながら セカイは広いってことを 教えてる?
動きだしたミライへ…!
Aqoursが走ってきた道のりに比べたら、おそらく、水平線の向こうの富士市街までは大した距離ではない。
それでも、こうやって俯瞰してみると、世界の広さについて改めて考えさせられることがある。
きっと、この水平線の先には、まだAqoursを、ラブライブ!を知らない人がいるに違いないのだ。
走り続けてきた道の先で、Aqoursはまだ立ち止まろうとはしていないように見える。
その理由は、海外線の向こうにもっともっと元気を求めている人がいるからなのかもしれない。
あるいは、夢を追い続けること以外に息の仕方が分からないからなのかもしれない。
しかし、今のAqoursには、TVアニメ新作の予定があるわけではないし、次のナンバリングライブも発表されていない。
そんな状況のもとで、立ち止まらなかったとして、一体どこへ向かっていけばいいのか。
その疑問に端的に応えるフレーズが、未体験HORIZONのサビにある。
これからもっともっと 夢のカタチ変わるんだ
これから水平線へと 想いをトキメキを
輝いていたくって 自分信じてみたくって
それならとめないで 想いをとめないで
あるいは、このラブライブ!フェスというイベント自体が変わってきた 夢のカタチ そのものだとは言えないだろうか。
それは必ずしも、Aqoursにとっての夢だけを指しているわけではない。
μ'sとそのファンにとっては 活動に一区切りを付けた あとの4年間弱がそうだったのかもしれないし、虹ヶ咲スクールアイドル同好会にとっては、μ'sやAqoursと共演し、状況がめまぐるしく変わっていく今この瞬間なのかもしれない。
何かが変わっていく不安は常にあるし、始まりがあればいつか終わることもある。
それでも、その変化の海の中を楽しみながら、ときには痛みを抱えながらでも泳いでいくことこそがラブライブ!ではなかったか。
確かな今よりも 新しい夢つかまえたい
ときには過去のことを懐かしく思うこともあるだろう。
それでも良いのだと、楽曲の一番最後で国木田花丸は教えてくれる。
思い出抱いて 前に…
ラブライブ!フェス、という名前のイベントにとって、これ以上ふわさしい幕開けがあるだろうか?
Aqoursの2日目セットリスト
2日目。
虹ヶ咲スクールアイドル同好会のパフォーマンスのあとに現れたμ'sは、僕らのLIVE 君とのLIFE、TVアニメ楽曲のメドレー、そして Snow halation を披露し、会場はかつてのアニサマのプロデューサーが称したように モンスターのような盛り上がり を魅せた。
その直後、Aqours Ship -9th Anniversary Edition- とともに登場したAqours。
歌われたのは初日と同じく、2ndシングルカップリングの 届かない星だとしても だった。
憧れるってステキだよ?
とにかくぜんぶ真似したい
この歌詞は、言うまでもなくTVアニメ開始当初、μ'sの姿に憧れてスクールアイドル活動を始めたメンバーの姿に重なる。
リアル軸では、μ'sというあまりにも高いハードルを課せられた、Aqours活動開始当初の状況に重なる歌詞でもあるかもしれない。
セットリストや演出自体は前日と変わらなかったが、μ'sのパフォーマンスの直後に演じられることで、この曲の持つ意味はあからさまに強くなった。
いまでこそ、われわれは、Aqoursがただμ'sに憧れるだけのグループではないことを知っている。
バトンを受け継ぎ、自分たちだけの青い鳥を見つけ、そしてこの4年間弱のラブライブ!プロジェクトを支えてきたもうひとつのユニット。
だから、この日披露された「届かない星だとしても」は、ただ追いかけたり憧れたりするだけじゃなく、μ'sを追い越さんとする気迫に満ちたステージであるように思われた。
続いてAqours Shipの上で披露されたのは、佐伯高志と倉内達矢が手を組んで作り上げたマスターピースこと WATER BLUE NEW WORLD。
Aqoursの物語においてはラブライブ!決勝の勝負曲でもある。
μ'sが KiRa-KiRa Sensation! を披露し、Saint Snowが Believe again を披露しようと計画していた決勝の場で、Aqoursは痛みをかかえながら走った日々のことを刻んだのだった。
またココロが躍るような日々を
追いかけたいキモチで海を渡ろう
夢は夢のように過ごすだけじゃなくて
痛みかかえながら求めるものさ
オレンジ色に染まった会場は、Aqoursの青に塗り替えられる。
そして、サビの最終盤では、μ'sとは別のルートを歩んできたからこそ見つけられた、Aqoursにとっての イマ、そして ミライ が力強く示された。
イマを重ね そしてミライへ向かおう!
セットリストは、その疾走感を殺さないままに「未来」という単語を冠する 未来の僕らは知ってるよ に続いていく。
初日の 青空 Jumping Heart 披露のタイミングでは気づかなかったが、おそらく、このイベントが決まった時点で、この曲がセットリストに入ることは決まっていたのだろうと、そんなふうにさえ思われる。
なぜなら、この曲には次のフレーズがあるからだ。
I live, I live LoveLive! days!!
正直なことを言えば、Music S.T.A.R.T!!の La la la LoveLive! レベルでめちゃくちゃダサいフレーズではある。
しかし、このイベントで、このタイミングで歌われることで他の何よりも心に刺さるフレーズに昇華されたように感じられる。
ラブライブ!の名を冠した、μ's、A-RISE、Aqours、Saint Snow、そして虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。
それぞれのユニットが全力で LoveLive! days!! を駆け抜けてきたからこそ見られる景色が、この日のさいたまスーパーアリーナにはあったからだ。
続く HAPPY PARTY TRAIN もラブライブ!フェスという場において重要な意味を持つ1曲だ。
その歌い出しが意味するところは、Aqoursが2016年春に東京ドームで見た光景だったのかもしれない。
開いた花の香りから
受け取ったよ 次の夢を
それぞれのユニットが繋いできたレールを辿って、われわれはどこまで行けるのだろう?
そんな疑問に、Aqoursは素直に「わからないね」と答える。
それでも旅は続いていく。
レールはどこまでつながるか
まだまだわからないね
ずっと走っていたい PARTY TRAIN
MVの中で季節は移り変わり、SLに期待を乗せてライブは終着駅へと近づく。
この日のセットリストの最後、Aqoursの9人は会場の全員に改めて問いかける。
君のこころは輝いてるかい? と。
***
ところで、Aqoursの魅力とはなんだろうと考えるとき、わたしは Step! ZERO to ONE のフレーズを思い出す。
刺激を求めながら 不安を数える矛盾だね
それは、何も分からない未来に向かって、不安を抱えながらもときめきを求めて突き進んでいく姿だ。
彼女たちにとっての日々は、毎日何が起こるか分からなくて、だからこそ いつだって世界って同じじゃない のだろう。
そんな姿は、毎日決まった学校や会社と家を往復するだけのわれわれの生活とは真逆にあるように見え、ただただ眩しい。
ちっぽけな自分が どこに飛び出せるかな
わからない わからないままで
(なんとかなるさと) Ah! はじめよう
MVで描かれるのは、まだTVアニメ前夜の関係性も学年もはっきりしないメンバーたち。
しかし、これからだんだんと絆が深まっていって、最終的にはAqoursという世界で唯一の9人のユニットが作られていくのだろう、という予感のある映像。
この曲がリリースされた当時の時間軸ではハッキリしたことは何も分からないし、間奏の振り付けでは馬跳びも飛び出したりして、もうハチャメチャだ。
しかしそのハチャメチャな未来の見えなさこそが、ラブライブ!サンシャイン!!を好きになった理由に違いなかった。
ところが、ラブライブ!サンシャイン!!の物語が進んでいくにつれて、そんなAqoursの可能性は少しずつ狭まっていくように見えた。
浦の星女学院が閉校し、3年生が卒業したあとで、キャストたちの活動も終わりに近づいているような気がした。
いつかファイナルライブを迎えて、歌う姿を見られなくなる日が来てしまうんじゃないかとさえ思われた。
しかし。
次の展開が決まっていないということは、ひっくり返せば、むしろAqoursの前にはあらゆる可能性が開けているということではないか。
TVアニメにもナンバリングライブにも縛られずに、これからも何かおもしろいことが始まっていく可能性があるのかもしれない。
この日のライブを見ているとふと、そんなことが頭をよぎった。
振り返ってみると、2日目のAqoursのセットリストには何一つとして冗長な楽曲がなかった。
μ'sがいるステージだからこそ披露するべき曲。
ラブライブ!フェスだからこそ披露するべき曲。
Aqoursの存在をμ'sや虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のファンに知らしめる曲。
新しい展開への予感。
欲を言えば、μ'sやAqours、Saint Snow、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が一緒に何かの曲を歌う様子が見たかった。
それはSUNNY DAY SONGだったのかもしれないし、TOKIMEKI Runnersだったのかもしれないし、南ことり・渡辺曜・上原歩夢の3人によるNO EXIT ORIONだったのかもしれない。
もっとμ'sが踊る姿を見たかったし、未披露の曲だってやって欲しかった。
るてしキスキしてる過激派もsoldier game完全版信者もまだ鼻息を荒くしているし、BiBiとGuilty Kissの対バンも見たかった。
A-RISEがいつリムジンで登場するのかとずっと気を揉んでいたりもした。
結局、それらの期待は果たされなかった。
ただ、不思議なことに、2日目を終えた帰り道には満足感があった。
それはおそらく、Saint SnowのMCやAqoursのセットリストを通じて、スクールアイドル同士の繋がりがちゃんと感じられたからなのではないかと思っている。
われわれが信じたラブライブ!というシリーズは、そもそもロゴが死ぬほどダサいし、僕らのLIVE 君とのLIFEのイントロは音数が少なすぎて今でもちょっとビビるし、変なコールアンドレスポンスばっかりだし、どの要素を取ってみてもとてもじゃないが洗練されているとは言い難い。
けれども、ときどき本質のナイフを容赦なくファンの胸に突き立ててくる、そんなコンテンツだった。
結論、ラブライブ!フェスはちゃんとカッコよかったし、ハチャメチャに楽しかったです。
プロジェクト9周年おめでとうございます。
ありがとうございました。