看護におけるコンフリクト・マネジメント
看護におけるコンフリクト・マネジメント 対立を乗り越え,より良い組織を築く
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2025/3577_02
コンフリクト(conflict)
一般的に,個人間,集団間,組織間で目標,価値観,利害などが食い違うことによって生じる対立や衝突を指す。
日本語では「紛争」「葛藤」「衝突」などと訳されることもある。
一見ネガティブなものととらえられがちだが,適切にマネジメントすることで組織の成長や個人の学習につながる創造的な機会となる可能性を秘めている。
現在の看護臨床では多職種連携が不可欠であり,患者さんの生命や健康にかかわる重要な意思決定が日々行われるため,コンフリクトが生じやすい環境にあります
看護師長時代,対立処理に明け暮れる毎日にやや疲弊していたのですが,そんな折,スティーブン・ロビンス『組織行動のマネジメント――入門から実践へ』で「コンフリクトと交渉」という章に出合い,その重要性を痛感しました。コンフリクトに関する文献を読み進める中で,「看護管理者の仕事の2割はコンフリクト・マネジメントだ」との記述を目にし2),「これは自分の仕事なんだ」と考え,研究対象とするに至りました。
2)Nurs Manage.1996[PMID:8700494]
チーム医療において興味深いのは,専門職によって見えるものが違う点です。同じ患者さんを見ていても,看護師と医師では注目するポイントが違っていて,それぞれが異なる解釈をしているわけです。これが,価値観の違いとは別に,専門性からくる認識のずれとしてコンフリクトの原因になることがあります。ビジネスにおける会議でも同様に,同じ資料を共有してもその解釈が人によってずれることがよくあります。
自分たちのやりたいことが目標になってしまい,「何のために」という目的が共有されていないまま,互いが自身の言い分を主張してしまう状態です。上手なファシリテーターが介入することで,カンファレンスは円滑に進みます。各職種が考える目標を確認し,それが同じであれば「アプローチが違うだけだから,その点に関してディスカッションしましょう」と促すことができます。
「私たち」という意識の醸成=インクルージョン
あくまで私の仮説ですが,日本は村八分などに見られるように,意見が異なった際にコミュニティを分離するのが得意ですよね。反対に,「インクルージョン(Inclusion)」,つまり多様な人々を包摂し,一体となるという考え方は歴史的に根付いてこなかったのではないでしょうか。異なる意見を持つ人々がひとところに集まって,それでもコミュニティとして機能させていくという経験を日常生活の中でどれだけ積めるのか。自分自身に問いかけながらコンフリクトについて考えています。
主語を「私たち」にすること。これがインクルージョンを行う簡便な方法の一つだと思います。オバマ元米大統領の「Yes, We Can」なども包摂を誘導する表現方法ですね。彼はいつも女性,男性,若者,老人,民族,移民,性的マイノリティなど多様な属性を列挙した上で,最後に「We」とまとめる工夫をしながら演説していました。