アイデア市場の構築と課題
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アイデア市場の構築と課題
先のスミスおよびハイエクの知見にもとづき、ある特定の主体に意思決定を委ねることなく、ある集団の自律分散的な意思決定を、全体の意思として集約するメカニズムとしての市場に着目した。なお、(主に情報ネットワークを通じて)不特定多数からの資源を集約し、個人では不可能な計画を実現させる手 法として、クラウドソーシング(群衆調達)と呼ばれるものがある。アイデア市場は、アイデアをクラウドソーシングするひとつの方法として役に立つ。
なお、アイデア市場は、市場メカニズムを未来の予測に生かす仕組み、予測市場と呼ばれるものとの関連が深い。アイデア市場は、予測市場のある特定な分野への応用と言ってもよいだろう。よって、まずは予測市場とは何かということを概観しておく必要がある。
本稿の構成は、次の通りである。まず次章で予測市場とは何かを概観し、アイデア市場が生まれた背景を解説する。続く第 3 章で、アイデア市場の意義と機能 についてまとめる。第 4 章では、われわれのアイデア 市場の実践について報告する。第 5 章で、今回の実践 の問題点と課題について議論をおこなう。終章では、 今後の課題を挙げる。
ここで未来の予測と連動して支払いの約束がなされ る証券を考えよう。ある予測が実現すれば、X 円の支 払いがなされ、実現しなければ無価値になる証券であ る。予測市場とは、このような未来の出来事の帰趨に 応じて価値が決まる証券が売買される場所と仕組みで ある。通常は、オンライン上に Web アプリケーション として設置される仮想的な市場であり、基本的な仕組 みは通常の株式市場の売買と同様である。取引に現金 が使われることもあるが、法律的もしくは倫理的な問 題からゲームとして実践されることが多く、その場合 はプレイマネー(ポイント)が使われる。 通常の株式市場とほぼ同様に、予測市場の参加者は、 自分の確信度合いにもとづいて証券の取引をおこなう。 つまり、値上(値下)がりが期待される証券を購入(売 却)する。したがって、ある証券の需要が増大し、価 格が上昇することは、その証券が対象とする未来の出 来事が起こるという(取引参加者全体の主観的)確率 が高くなっていることを意味し、その反対に、証券価 格の下落は、確率が下がっていることを意味する。 1980 年代後半より、予測市場は、選挙、スポーツの 勝敗、映画の興行成績など、結果の検証が可能な社会 事象に対する予測において、非常に良い成果を示して いる。その一方、予測市場を国の政策分野やビジネス 分野でより広範囲に利用すること、特に組織の意思決 定分野に利用すること、が最近注目されている。 その比較的新しい予測市場の応用分野のひとつが、 アイデアを市場で売買するアイデア市場である。アイ デアを市場で売買するとは、新製品・サービスのアイ デアを証券にし、売買をおこなうということである。 予測市場と同様に、その証券の価格は、その新規のア イデアが成功するかどうかの確率的な指標となる。
アイデア市場は、企業情報システムにおけるコンシ ューマライゼーション(consumerization)の流れと軌を 一にしている。例えば、マイクロブログやソーシャル ネットワーキングシステムといったソーシャルメディ アは、成員間のインタラクティブな情報のやり取りが、 その機能の根幹を成す。同様に、アイデア市場は、株 式市場と同じく、証券価格をシグナルとして、成員間 のインタラクティブな情報のやり取りや共有を可能に する。こうした一般向けの要素が強い情報共有システ ムが、コンシューマ市場から企業システムへと展開さ れているのである。
アイデア市場を実 施するにあたっての一番の困難は、参加者のモチベー ションを高め、市場取引に継続して参加してもらうこ とである。取引の成績に応じたボーナスは、そのため の工夫のひとつである。