インターネットポルノ中毒
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ゲーリー・ウィルソン『インターネットポルノ中毒』(山形浩生訳 DU BOOKS)
エロ動画を見てオナってると、脳の報酬系が影響を受けて、addict(依存、中毒)の症状を引き起こすよ、という話で、「症例」サンプルが豊富に集めてある。ポルノ中毒だけでなく、addict一般がもたらす害について教えられる。 https://pbs.twimg.com/media/EzA-FMkUUAI4J9A.jpg#.pnghttps://pbs.twimg.com/media/EzA-FM8VEAQM8z9.jpg#.pnghttps://pbs.twimg.com/media/EzA-FNIUYAAn_Jp.jpg#.png
中毒が引き起こす脳変化は、敢えて単純で広範な言い方をすると、①増感、②脱感、③前頭葉低活性化、④ストレス系の誤作動の4つである。
ここでは神経科学的な説明は端折る。ごく簡単に要点だけを照明すると、ドーパミン過剰とその抑制の失調、そのことに連れての渇望感への抑制力の弱化ーこのことは計画遂行能力の弱化でもあるー渇望が満たされない際のストレス系の過剰な活性化ー「ゴミくずのような気分になる」ーとなる。
ーこの4つの神経可塑的変化がしゃべれるなら、「脱感」は「満足が得られないよ」とうめき、「増感」はその人のわき腹をつついて「ねえねえ、おあつらえ向きのブツがあるんですがね」と言うが、それはまさに脱感を引き起こしたものとなる。↓
前頭葉低活性化は肩をすくめて「やめといた方がいいが私にはやめる力がない」とため息をつき、「誤作動するストレス系」は「この緊張を和らげるために、いますぐ何かよこせ!」と絶叫していることになる。(131)
今の引用部分は、ポルノ中毒にとどまらず、addict一般のもたらす悪しき脳変化である。「ドーパミンハイ」を誘発する物質や行動は、多かれ少なかれaddictの諸症状をもたらすリスクがある。テレビゲーム、ジャンクフード、ギャンブル、ネットサーフィン、SNS、etc...。
前記の中毒による4つの脳変化ーポルノ中毒は具体的にどんな自覚症状をもたらすのだろうか。
・性行動の減少、元気のない勃起や射精の一因。
・思い切った行動の減少と不安の高まりと同時に、怒りの過剰反応傾向、それらが社交性意識の低下をもたらす。↓
・集中力欠如、これは集中力低下と記憶問題の原因となる。
・やる気欠如、前向きな予想の欠如。これは無気力、先送りにつながり、うつの一因となる。
この本には、ポルノ中毒者の証言が数多く集められている。いくつか引いてみよう。
ー1日に何度もオナニーした。オナニー気分ではないけれど、ストレス解消や眠りにつくために、ポルノが興奮を助けてくれる。妻ではもうとにかくダメになっちゃってね。遅漏がひどい問題だった。(28)
ー私は人生で何度か中毒と闘った。タバコ、アルコール、その他の物質だ。そのすべてを克服したが、これは中でも最も難しかった。衝動、変な考え、不眠、絶望、憂鬱、無価値な気分、その他多くのマイナスの出来事が、このポルノの場合にはやたらとでてきた。(32)
ーやめるまで、一日中一年中クソみたいな気分だった。活力ゼロでやる気もゼロ。毎日一日中無気力だった。まともに食事もしない。運動もしない。勉強もしない。自分の衛生面も気にしない。気にできなかった。(48)
こうしたポルノ中毒は、セックスそのものとは基本的に関係のない自閉的な快楽サーキットだ。「増感/脱感」のメカニズムによって、刺激への渇望はエスカレートする。ポルノ中毒者は、徐々に「過激」「異常」な内容のポルノを求めるようになる傾向がある。
ーポルノを見る前は、変なモノには興味がなかった。単に同じ歳ぐらいの本物の女の子にしか興味はなかった。いまや巨乳、母子相姦、奴隷、異性装束、デブ、ヤセ、ティーンが好きだ。(63)
前ツイートの彼は、じっさいに母子相姦や異性装束の願望があるわけではない、というところに注意が必要だ。それはポルノ中毒がもたらした「過激」「異常」なものへのエスカレートなのである。
ポルノ中毒の症状は、「普通の交際、恋愛」への不能をもたらす。それは人づきあい全般への不安、自尊心の低下をもたらす。さらに集中力の低下、計画に沿った行為遂行力の低下、やる気の低下をもたらす。
中毒の諸症状は、その対象となる物質や行為を「断つ」ことで、一定の「禁断症状」の期間を経たのち、脳の報酬系は回復する。ポルノを断ってからの改善点として挙げられているのは、
・コミュ障の大幅な改善ー自信、目を合わせる、あがらずに会話できる、滑らかさ、等々。↓
・全般に活力向上。
・頭がはっきりして鋭くなり、集中力も改善。
・もっと生き生きとした表情。
・うつが軽減。
・女生とつきあいたいという欲求。
・自然な勃起が戻った!
ーいまやポルノ断ち8か月後に、かつての妄想が全然魅力的に思えないことに気がついた……まったく。妻と私はどちらも、妄想なんかないほうがずっとセックスを楽しめる。いまや勃起問題なしに、目をあわせて対面して愛を交わせるんだ。(80)
ーポルノ以前は、友人も多かったしガールフレンドも何人かいて、絶好調だった。恐い物なしで、起こり得るすべてのことに自分なりの対処法がある感じ。そこで新しいコンピュータを手に入れた……1,2年すると、本当にひどいコミュ障になって、(…)人生でおもしろいことが何もなくなった。(80)
さて、ポルノに限らないのだが、中毒症状によって、強い刺激への渇望感へと追い込まれると、その刺激にしか興味が向かなくなり、ついにはその刺激にも麻痺してしまうことになる。
そして、重要なのは、報酬系は、そもそも感情や認知と行為を結びつけるためのシステムだということだ。↓
中毒症状に陥ると、そのシステムが機能しなくなる。
感情は鈍り、五感は精彩を失う。
行為することが億劫になり、運動、人間関係、労働、趣味、あらゆることに対して及び腰になって、引きこもってしまうようになる。
ポルノに限らない。現代人は多かれ少なかれ、何かしらにaddictしやすい環境にある。
私は思うのだが、いまや不自然で過剰な渇望を感じさせる物質や行為は、それを手に入れるより、むしろ抑制する方が、より充実した生活を送れるのではないか。
卑近な例でいえば、ジャンクフードを食べるのをやめると、普通の食事が美味しくなる。食事だけでなく、仕事や読書への集中力も上がり、音楽の聴こえ方が違ってくる。
疲れているときSNSを眺めると、むやみにいらだつようなことはないだろうか。そんなとき、身近な人への共感性が落ちて、つまらないことで喧嘩になったりしないだろうか。
そんなときは、むしろ、SNS、ゲーム、ジャンクフード、アルコール、ポルノといった「気晴らし」を遠ざけるべきなのである。↓
短期的な報酬は小さくても、永続する持続的な満足を育む活動に目を向ける。深い対話、作業場所の整理、抱きしめあい、趣味や仕事の目標設定、誰かを訪ねる、何かを制作したり、庭いじりしたりする。重要なのは、報酬系を本来の目的に沿ったものに戻してやることなのである。
報酬系が、自己を育むような活動、思考とリンクしているとき、感覚が開き世界は美しく感じられる。周囲の人への共感性も高まり、交流へ積極的な感情が溢れる。
ところで、人が何かに中毒するのは、むしろ「感情や痛みを麻痺させたい」という動機が働いている場合が多い。
中毒は、自分の頼りなさ、孤独、失望、恐怖を麻痺させてくれるけれど、同じように、幸福、希望、愛といった感情のプラスの幅も鈍らせてしまう。
麻痺ではなく、思考や感情のプラス面によってマイナス面を制御する術を覚えていかなければならないのかもしれない。
https://m.media-amazon.com/images/I/71vRKqwpR1L._SY160.jpg https://www.amazon.co.jp/dp/B091Q2MR1G
By: ゲーリー・ウィルソン、山形浩生
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