アメリカ企業における業績評価制度の変革運動(ノーレイティング)とその背景
https://doshisha.repo.nii.ac.jp/records/25998
吉羽さんのポストで知った
MBOやって期末に業績を鑑みて年次評価やってのお決まりパターンがアメリカでなぜ変わろうとしているか、どう変わろうとしているか
現実の制度運営は社員の年次評価結果を通知し説明することに事実上機能が特化しており,現場マネジャーと部下の間で十分なコミュニケーションが取られることはあまりない。
既存の人事評価(Performance Review)がギブ・アンド・テークのディスカッションだというのは,まったく現実と違う。実態は,上司の側が自分の考えと評価を部下に伝え,確認させることを目的として,「客観的」な数量的データと評価判定を双方確認するのが,パフォーマンス・レビューである。ディスカッションや対話ではない。対話のような外観が取られることも全くないとはいえないが,そこで上司が同意した約束が守られることはあまりない。業績評価書の各項目に当該社員が意見を書き込むことは自由である。しかし,それを気にかけるものは誰もいない。あるいは読まれることさえない。
マジでこれ。なんで書かされるのか、読まれて評価されてるのか、まったく納得感がない
業績査定の起源は,第一次大戦時に米軍が,成果の劣る人材の除隊や配転を行うために人事考課制度を設けたことに始まる。制度は次第に企業にも取り入れられ,第二次大戦後には米国企業の60%が採用し,1960年代にはほとんどすべての企業に広がった
部下は上司からフィードバックをもらいながら,みずから業績目標を設定して自己評価を行うのが望ましいと論じてドラッカーに呼応した
当時の人事評価は人材の選別(つまり昇進と解雇,昇進格差)には重点が置かれず,人材育成を主眼とする考え方が基本であった
MBOは1960年代には未だトップダウンの目標設定や相対区分のレイティングと結びついてはいなかった
1970 年代になると軌道修正が始まった。業績評価が報酬格差に反映される傾向が強まり,評価上位の社員を顕著に優遇し,「その他大勢」は「物価見合いでしか昇給しない」という顕著な報酬格差が広がるようになった(略)MBO の運用が社員間処遇格差を説明するための結果評価,数量的評価へと性格を変えていった時期であったといえる。この方向性は,1980年代から2000年代までの30年間にますます強まっていくことになる。
人事評価は,純粋に,報酬格差によって優秀人材を維持する手段に過ぎなくなった。企業が高い評価と処遇で定着を期待するのは最上位評価を受ける社員のみだということが,あからさまになった
1990年代、マッキンゼーなどの評価体制に顕著。マネジャーが部下の人材育成に手間をかけることは不可能となっていくなど、自己責任と自己成長
企業が高い評価と処遇で定着を期待するのは最上位評価を受ける社員のみだということが,あからさまになった
2005年GE
ABCの3区分に評価する相対区分を「ひっそりと廃止」していた。厳格な相対評価による業績評価制度が「社内競争を煽り,コラボレーションの妨げになる」というのが理由であったと伝えられている
最低ランクに評価された10%の社員を毎年事実上退職させることによって,社員の質が毎年上がっていくという考え方はrank and yank policy と呼ばれ,(略)アメリカの代表的な人事管理思想とみなされていた。そのGEが,年次評価の廃止に動き出したことは,システムの終わりを象徴するものである
デロイトの実施した2015年の調査では,回答した企業経営者の58%が,「現在の業績管理のやり方が従業員エンゲージメントの向上にも高業績の達成にも役立っていないと考えている」と回答
効果がないのではという仮説に対する説明1
モチベーション向上に効果があるのは最上位の評価をうけた社員のみで,残りの大多数の社員には効果がない
アメリカ企業の平均的な成長率が長期低落傾向にある中では,中間層への配分原資がいっそう削減される方向に進んだと推測される
日本GEの社長兼CEO熊谷昭彦は次のように述べている──若い世代が働く動機をどこに置いているかについて,グーグルなど若者に人気の企業は上からの指示で働くことに馴染もうとせず,自ら体験して気づくことを通じて非常に伸びることが分かった
説明2
働く世代の交代によって,若い世代ほど金銭や昇進による外発的インセンティブや社員間競争に反応しなくなってきた
制度としての欠点
評価者特異効果がもたらす業績評価への不公平感
相対評価の不公平感
社員の業績分布の実態が相対評価の参照基準である「ベルカーブ(正規分布曲線)」に近似しているとは限らない
組織の志気の高まりや組織能力レベルの全体としての絶対値の成長がランキングには反映されない
社員1人1人の成長と努力の実感は,組織全体の成長速度を顕著に上回らなければ,ランキングの変化に結果しない
つねに相対評価でしかない業績評価は,組織能力の内的な向上を評価に反映できず,社員の努力へのフィードバック・システムとしては,本質的な限界を抱えている
サービスの変化から
独創性あるアイデアが次々と生み出され,試行錯誤を経由しながら迅速に開発成果を生み出し続けるスピードと創造性が求められ,それを実現できる組織でなければならない
目標設定と業績評価を年単位で回す業績評価制度は,ビジネスのスピードとまったく合わなくなってきた
ほかの業績評価制度廃止の背景
MBOによる企業目標の個人目標へのブレークダウンは,1950年代にそれを推奨したドラッカーやマグレガーの意図とは異なり,本質的にトップダウンの目標設定,トップダウンの評価方式として定着した
創造性や創意工夫は,MBOの運用とは本質的に矛盾している
業績評価制度と創造性との矛盾は,以上の側面のみではない。エイミー・エドモンドソンが主張する「心理的安全」を業績評価制度が毀損する
創造的アイデアを引き出す労働環境ではない。職場には常に心理的安全の欠如した緊張状態がある
そもそも金銭、昇進、解雇の外発的動機付けはやりがいや挑戦性、成長感などの内発的動機付けとは根本的に違う
今日の労働が定型的な労働から知識労働主体に大きく変化しつつある中では,外発的労働を手段とする伝統的な業績評価制度を継続する企業は創造性に劣り,変化を先導できない可能性が高くなる
なるほど、チームや部門をまたいだクロスファンクショナルなチームにも不適合、はそのとおり
社内競争を煽りコラボレーションの妨げになる
業績評価制度の維持に多大な時間とコストをかけ続けなければならないにもかかわらず,これまでの考察で明らかにしたように,モチベーション効果はむしろマイナスになり,ビジネス環境が要請する迅速性と創造性やチーム・コラボレーションの促進を阻害し,分厚い中間層の人材育成も放置されていることが,制度の無駄を強く意識させるようになった
現状
伝統的な制度を捨てて,人材とパフォーマンスのどんな新しい評価制度にすればよいのか,まだ十分に見通すところまで来ておらず,いち早く廃止した先進企業を見守っている段階
どんな制度も長く存続すれば,利害関係が成長し,制度の廃止によって不利益を被る人々が定着することになる。また,制度はそれに見合う思想,考え方によって支えられている。その考え方が強固であれば,人々はそれを捨てることに困難を伴う
経営者が統制されたプロセスに慣れ親しんでいるだけでなく
人事部は,マネジャー層と連携して,組織内の地位と権威を維持しようとするモメンタムを持つ
なので、評価者=マネジャーの評価者トレーニングが芯を食ったソリューションとは言い難い
1980年代に現行の形で成立し,アメリカ企業の一般的な人事評価制度として定着したパフォーマンス・レビューは,パフォーマンス向上に貢献せず,むしろ逆効果となるに至っている。さらに,新しい柔軟な仕事の進め方,チーム・コラボレーションを既存の制度は阻害している。こうした全体の状況をみるならば,パフォーマンス・レビューはすでに命運が尽きており,廃止される流れは今後いっそう大きくなっていくと予測される
一方で廃止されたあとの制度設計はこれからであるといった締め