📚 善と悪の生物学(上) 何がヒトを動かしているのか メモ
2024/04/03
2024/09/15
序章
人間の行動の生物学について考えるとき、個別のカテゴリー内で考えるのではなく、専門分野の垣根を超えた考え方をするべき。
第1章 行動
言葉の定義は、専門分野によって違う。状況に依存する。
それを理解した上で本書のテーマを表現すると、「人の最善の行動と最悪の行動の生物学」。
第2章 一秒前
なぜ、その行動は起きたのか?を考えるが、これは専門分野によって異なる。
時間軸によって考えると、一秒前に目を向けるなら神経生物学の領域。
(単純化しすぎ、というデメリットがあることを理解しつつ)脳の三つの層に分けて考える。
層1:脳の基部にある進化的に古い部位。身体的な反応を引き起こす。
層2:1より新しく進化した領域。哺乳類で拡大した。感情を層1に伝え、反応を開始させる。
層3:最も新しく進化した部位で、霊長類はここが多くある。認知、記憶保存、感覚処理、抽象化、哲学、瞑想。見たり読んだり聞いたことから層2に感情を想起させ、そこから層1を刺激して反応を開始する。
まずは、層2の話から。
大脳辺縁系が情動の中心的部位。
視床下部は層1と層2の連絡係。
層2から大量の入力を受け取り、不釣り合いな投射を層1に送る。
辺縁系から視床下部を通って層1へ、という動きは自動的、自律的に行われる。「自律神経系」と総称される。
交感神経系
4つのFーfear、fight、flight、fuck。恐れ、闘争、逃走、セックス。
副交感神経系
交感神経系とは反対に、穏やかになり、心拍数を下げる。
視床下部はホルモンの放出を調整する。がために、行動にかなり密接に関わってくる。
大脳新皮質(層3)を加える
前頭葉が層3と層2の繋ぎ役。
層3から層2に指令があるのと同時に、層2から層3への命令もあり、互いに影響し合っている。
扁桃体
辺縁系構造物。攻撃性や怒りの発火や認知を司る。
恐怖と不安を引き起こす刺激を知覚してそれを表出する際に扁桃体は活性化する。
ある刺激に対する恐怖を学習したあと、ある刺激のあとの恐怖が起こらなくなったら、恐怖は薄くなる。これは扁桃体が反応しなくなる、からではなく、前頭葉により「この刺激があっても怖くない」ということを学び、扁桃体の反応を抑制する。
怖いことを受動的に忘れるのではなく、もう怖くないことを能動的に学習する。
扁桃体への入力
扁桃体への感覚入力は素早いが、あまり正確でない。
扁桃体は痛みを受け取る。活性化させるのは、痛みそのものではなく予測できない痛み。
扁桃体は、嫌悪を受け取る。
前頭葉からの入力をたくさん受け取る。
扁桃体からの出力
極端な恐怖を覚えると、扁桃体は海馬を恐怖学習に引き込む。
前頭葉をすっ飛ばして運動行動に接続できるが、正確さは下がる。
扁桃体の出力は主に脳と体全体に警笛を鳴らすことにかかわっている。
前頭葉
ひとつの定義の元に集約できる。「前頭葉は、それが正しい行動であるとき、より難しいほうをやらせる」
前頭葉のなかの前頭前野は、意思決定者。
さまざまな情報を異なるラベルで整理して考えるのに、前頭前野は不可欠。
前頭葉にはエネルギーを必要とする。意志力や自制心は限りある資源。
認知的負荷を増やすと、向社会性は下がり、自制が効きにくくなる。
訓練により、複雑な課題も自動化され、認知的負荷は下がる。
社会性を持つほうが、前頭前野の特定の領域が大きい。社会的状況において自分の感情を抑えて別の行動をする、つまりより難しい方を行うときに、前頭葉を利用する。
前頭葉を見ると、認知と情動は切り分けられず、相互に作用している。
より難しい方を選ぶための意欲を、前頭葉はどこから得るのか。報酬系に目を向ける必要がある。
中脳辺縁系・中脳皮質ドーパミン系
社会的相互作用におけるドーパミン放出が興味深く、ドーパミン系により、嫉妬、妬み、恨みを理解することができる。
羨望の的の人が失墜するとドーパミン作動系が活性化する。
対人関係において勝つことができれば、ドーパミンは活性化する。
嫌なやつを罰することができると、ドーパミン系が活性化する。
ドーパミンによる報酬には、人は慣れる。
思いがけず嬉ししいことがあれば、ドーパミンは大量に放出されるが、同じことが繰り返されると、嬉しいことであってもドーパミンの放出は以前には満たない量になる。
驚きの絶対的大きさではなく、相対的大きさに放出量は関係する。
嬉しい驚きと嫌な驚きの両方に作用する。
報酬そのものに加え、報酬に対する期待を感じるとドーパミンが放出される。つまり、ドーパミンは知識と期待と自信に携わる。
もし食欲が満たされるとわかっていれば、快楽は満足することより食欲にあることになる。
予測不可能な報酬への期待は、ドーパミンの放出を最も増加させる。
ドーパミンは報酬を得るのに必要な目標に向かう行動を煽る。ドーパミンは報酬による幸福に関係しているのではなく、まぁまぁの確率で生まれる報酬を追求する幸福。
脳は行動が始まる場所ではなく、最終的な共通の経路に過ぎない。つまり、脳だけが行動のトリガーとなっているわけではない、ということ。これからの各章に出てくる要因の全てが収束して、行動を作り出す。
第3章 数秒から数分前
さまざまな感覚情報が脳に活動を促すことができ、多様さがある。この多様さは他の種で検討すると理解が深まる。よって、動物行動主義がどう関係するかに目を向ける。
行動主義は、オペラント条件づけによって、どんな種においても行動の頻度を増減させることができる、と考えた。が、行動をもたらす多様さを捉えられず、破綻。
一方で動物行動学は、実際の行動の多様性に目を向ける。
「ケージの中でラットの社会的行動を研究するのは、浴槽でイルカの泳ぎを研究するようなものだ」
他の種では、嗅覚が辺縁系に直接にアクセスするものもいれば、視覚がそうであるものもいる。
種においてさまざま。
サブリミナルされる刺激も種によって違う。
人間は、人の皮膚の色に驚くほど敏感。人種差別意識が強いと、扁桃体の活性化が強い。
自分とは違う人種に対してのほうが、扁桃体は何か悪いものと結びつけがち。
扁桃体が即座に反応し、その反応に後追いで修正をかけるのが前頭葉。
扁桃体は正確でないことが多い。
人は、人種に対してとても敏感である、ということ。異なる人種に対しては共感が薄く、不安が大きい。対して、同じ人種なら共感が高く、扁桃体の反応も強くない。
それらの情報は、人は「顔」から得る。
視覚が全てなのではなく、人の場合は視覚の情報が直接辺縁系に影響を与える割合が大きいだけで、嗅覚からのアクセスもある。
ネズミなどは40%に対し、人は3%。
外の世界の情報に影響を受けるのと同様、体の内部の情報にも行動は影響を受ける。
外界と身体内部の両方から脳に向かう感覚情報は、行動を素早く大きく無意識のうちに変える可能性がある。
言葉も、無意識のうちに考えや気持ちを変えうる。
向社会的な言葉を読めば協力的に、反対の言葉では逆が促される。
社会環境は無意識に私たちの行動を形成する。
脳は各種感覚様相の感度を変え、一部の刺激の影響を大きくすることができる。
イヌが警戒している時に耳を立てると、聴覚の影響が大きくなるように。
この章の最重要ポイントは、とくに重要な行為について決断する直前の短時間、自律的で理性的な意思決定者ではない。
第4章 数時間から数日前
行動が起こる数時間から数日前に目を向けるには、ホルモンの領域になる。
テストステロンが攻撃性を高めると思われている(テストステロンを下げるための去勢後、攻撃性は実際に下がり、テストステロンを補充すると攻撃性が上がる)が、実はその相関は弱いことが明らかになっている。
攻撃はテストステロンより社会的行動の問題。テストステロンの値の差では説明できない。
勝利はテストステロン値を上げる。そしてテストステロンは、人を自信過剰、自己中心的、自己陶酔的にさせる。テストステロンは前頭葉の影響を低下させる。
とはいえ、テストステロンの効果は状況次第。不安を強めることがあれば和らげることもある。解釈次第、とも言える。
扁桃体が社会的学習の領域に反応しているときに、そのボリュームを上げる。攻撃性を生み出すのではなく、すでにある攻撃性を強める。
テストステロンの上昇で、地位を維持するために必要な行動が促される。地位を維持するためなら、寛容にもなりうる。
オキシトシンは、寛容・寛大にさせ、向社会的行動を引き出す。かつ、社会的関心と能力も育む。
社会的関心と能力とは、誰かの情動に関する情報をある関心と能力。ただしそれは、条件付き。
性別により異なる。
寛容な人の場合のみ、オキシトシンが寛容さを高める。
相手が匿名で同じ部屋にいなければ、相手に寛容にならない。むしろ協力は減少する。
自分に近しい人に対しては向社会性を強めるが、脅威と感じた他者に対しては無意識のうちに卑劣になる。
オキシトシンが進化したのは、誰が我々か、を特定するのがうまくなるため、なのかもしれない。
choiyaki.icon結構やばいよね。差別意識を高めることにも一役買ってそうなホルモン。
「逃走・闘争反応」によるストレス反応の有益な効果が発揮されるのは、数秒〜数分。対して、持続的ストレスを受ける場合は、人は悪影響とつきあうことになり、行動への厄介な影響もある。
ストレスがまったくないと退屈で、深刻かつそれが長引くとまた有害。適度な、短い期間のストレスかが有益。
逆U字曲線を描く。
ストレスは扁桃体優位にさせ、スピード優先になる。
システム1が過剰に先行してしまう。
かつ、恐怖消去もしにくくなる。扁桃体ではなく前頭葉により消去は行われるので、扁桃体優位な状況では消去しにくい。
持続的ストレスは、前頭葉の機能を弱め、扁桃体の判断重視になる。
衝動的になり、リスク評価が低下する。
攻撃はストレスを軽減する。
ストレスは利己的になるようなバイアスをかける。
条件付きで。
いろんな感度を上げる。既存の傾向を強化する。
第5章 数日から数ヶ月前
数ヶ月という期間は、脳の構造に大きな変化が起きるのに十分。
数ヶ月前の出来事が、今、興奮性の変化したシナプスを作り出せる。どうやって?
シナプス連絡の「強化」が起こることにより。
「強化」とは、AがBを引き起こしやすくなること。結合が密になって、記憶すること。
グルタミン酸が大きな役割を担う。
グルタミン酸が供給されるごとに反応するのと、閾値を超えるまでは反応を示さないが超えた瞬間爆発的な興奮を起こすものが存在。
爆発が起こった状態が、学習が起こっているとき。「そうか!」が起こっているとき。
長期増強とは、爆発が長期的にシナプスの興奮性を高めるプロセス。
シナプス前の声が大きくなり、シナプス後の声への反応が敏感になることで起こる。
長期増強による受容体の変化は、受け継がれる。受け継がれるから、記憶を保つことができる。
長期増強は神経系全体で起こる。
前章で出てきた持続的ストレスは、長期増強ではなく長期抑圧を促進する。がゆえに認知力が落ちる。