auがネットで大炎上 ドコモ対抗格安プラン発表せず
「さよならau」「期待ハズレ」。12月9日、KDDIの携帯電話ブランドであるauがネットで大炎上した。
その日の午前、KDDIは「au新サービス発表会」を開催。前日に同社のSNS(交流サイト)では「新料金プラン発表」と告知していた。そこで、前週にNTTドコモが発表した月額2980円の「ahamo(アハモ)」への対抗プランが発表されるのではないかと期待が高まっていた。
しかしKDDIが実際に発表したのは、データ使い放題にAmazonプライムがついてくるプランでしかなかった。しかも、発表会のプレゼン資料では「月額3760円から」とアピールしていたが、実際は9350円のプランであり、「家族4人での複数回線割引」「固定回線とのセット割」「5Gへの切り替えに伴うキャンペーン」などを適用して、なんとか3760円になるというものだった。
格安プランのahamo対抗になっておらず、料金を3760円に抑えるための条件があまりに多い。こうした不誠実に見える姿勢がネットで大炎上した。
世間に衝撃を与えた低料金のahamoから1週間後にauが料金プランを発表するとなれば、誰もが「auも月額2980円のプランを発表するのではないか」と期待するだろう。実際、多くのメディア関係者も相当、前のめりになっていた。しかし、KDDI広報は「ahamo対抗プランではないので過度な期待はしないでほしい」と事前にくぎを刺していた。
発表会のプレゼンで「ahamo対抗プランは検討中」と少しでも触れておけば、ネットでここまで騒がれることはなかっただろう。
同社の東海林崇副社長がahamo対抗について次のように言及したのは、ネット中継終了後の質疑応答で記者から質問を受けたときだった。
「他社も様々な料金や取り組みを出してくると思うので、auなのか、UQモバイルなのか、(後述する)KDDIデジタルライフなのか、いろいろな形で工夫してユーザーに満足してもらおうと考えている。詳細はこれから詰める」
この言葉がネット中継されていた発表会の中で発せられていたら、ネットの反応はもう少しマイルドだったかもしれない。
そもそも、NTTドコモが何カ月もかけて準備してきたahamoに対し、1週間程度で対抗プランを出すというのは、あまりに時間がなさ過ぎる。
料金プランの設計は、キャリアにとって経営の根幹を左右する聖域だ。膨大なシミュレーションを行い、どれだけ値下げするといくら収益に影響するかを入念に計算する必要がある。さらに、請求システムの設計をやり直すなどの改修も不可欠だ。
さらにNTTドコモは「12月中に既存の料金プランにも手を入れる」としている。おそらく1~2週間のうちにNTTドコモの料金戦略の全貌が見えてくるはずだ。それも分からないうちに単にahamo対抗の格安プランを出すのは負け戦のようなものだ。NTTドコモの料金プランの全体像が見えたところで対抗策を打つのが普通だろう。
KDDIにしてみれば、タイミングが悪かったのは不運としかいいようがない。KDDIがメディアに対して「9日に発表会がある」と告知したのは12月1日。一方、NTTドコモが発表会の案内を出したのは2日で、翌3日に開催した発表会でahamoを発表した。
KDDIは今回発表したプランをかなり前から準備しており、NTTドコモよりも先に発表していれば炎上することはなかった。また、NTTドコモの発表内容を見て、自社の発表会を延期したり内容を変更したりする選択肢もあった。
しかし今回のKDDIの発表には、Amazonプライムを提供するアマゾンやスポーツ中継サービスのDAZN(ダゾーン)などのパートナーが関係していた。さらに新料金プランを12月11日に始めると販売代理店などに告知していた。もはや、発表をやめたくてもやめられない状態にあった。
KDDIが失態を演じる中、うまく立ち回っているのがソフトバンクだ。世間がahamoで盛り上がる中、ソフトバンクは静観を貫いている。
KDDI関係者は「ソフトバンクが9日から11日あたりに料金プランに関する発表会を開催するという情報をつかんでいた。それがなくなったようなので、うちはあえて9日に発表会をすることにした」と語っていた。
これがソフトバンクの陽動作戦だったかどうかは分からない。しかし、攻めに出たKDDIは結果的に空回りしてしまった。
オンライン限定プランを準備
KDDIはすっかりauユーザーから失望されてしまったが、当然ながらahamo対抗プランを検討している。
その際に主体になると見られているのが、別会社として立ち上げているKDDIデジタルライフだ。
同社は、オンライン型携帯電話事業で実績を持つシンガポールのサークルズライフのパートナーになっている。サークルズライフは、ユーザーがオンラインで契約を行い、必要なデータ量を選び、eSIMの発行を受けることでスマホを使えるようになるサービスを提供している。
NTTドコモのahamoは、基本的にドコモショップの店舗では扱わず、オンラインだけで契約やサポートを行う。店舗運営コストや人件費を削減することで低料金を実現している。
KDDIにはUQモバイルというブランドがあるが、既に多くの実店舗が存在するため、ahamo対抗のビジネスモデルを構築するのは難しい。
KDDIとしては、KDDIデジタルライフが来春に本格提供を始める新サービスをオンライン限定で提供し、ahamo対抗の格安プランにする可能性が極めて高い。
当然、ソフトバンクも対抗策を準備しているだろう。同社にはLINEモバイルというオンラインをメインにしたブランドが存在する。3キャリアによる料金競争はオンラインが主戦場になっていきそうだ。