NPS
顧客満足度とNPSの違い
これまで、顧客の声を聞く指標として、「顧客満足度」が多くの企業で利用されてきました。
よくアンケートでみかける顧客満足度とNPSはどのように異なるのでしょうか。
大きく違うのは、主に収益性と連動するか否か、という点です。
NPSは「すすめたいと思いますか?」という質問を通して、「他者にすすめる」という未来の行動を点数化するため、今後の収益性と連動すると考えられています。
実際に「NPS®と収益性」という記事ではNPSが収益性と連動するというデータを詳細にご紹介していますが、以前リリースした「自動車業界調査レポートPart.1」という、弊社と日経BPコンサルティング社が共同で調査を行い、自動車メーカー/ブランド12社を対象にした分析においても、NPSと国内販売台数の年平均成長率は非常に強い相関関係にあることが示されています。
また、健康食品通販大手のECサイトにおける調査を行った結果、NPSが高いサイトほど一年以上継続利用している顧客の割合が高い事がわかりました。
このように、NPSは異なる業種でも売上や成長性と深く関連していることが見て取れます。
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加えて、あるECサイトの調査で推奨度別に総利用金額(LTV)を分析したところ、推奨度が1上がるごとに総利用金額(LTV)は約24,000千円、年間の顧客単価は2,600円、ECの利用回数は7.6回増えることがわかりました。
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これに対して、顧客満足度の調査では「満足度」を点数化し評価しますが、これはあくまでも現時点での評価を聞いているだけにすぎません。
実際に、離反客のうち80%が直前の顧客満足度調査で「満足している」と答えていたとする調査結果もあります。
したがって、いくら満足度調査を慎重に行い満足度を向上させる施策を実施したとしても、売上につながらないケースが多くあります。
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また、NPSはもともと「収益性と連動するロイヤルティ計測のための指標を探す」という発想から研究が始まっています。
NPSを考案したベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルド氏は著書『ネット・プロモーター経営』²において、NPS®開発に取り組み始めたきっかけとして「ゼネラル・モーターズは2005年春、顧客満足度調査最大手であるJDパワー・アンド・アソシエイツから数々の賞を受け取ったのにもかかわらず、ビジネス面では市場シェアが低下し、社債格付けが投資不適格に引き下げられた」出来事を挙げています。
このように、顧客ロイヤルティと収益性の関係を解き明かすために試行錯誤を掲げた結果が、推奨意向を質問し、顧客を「推奨者」「中立者」「批判者」にセグメント分けする手法。
心の満足、頭の満足
なぜ、満足度は売上と連動しないのでしょうか。それは、満足度調査では心から本当に満足しているかどうかを把握できないからであると考えられます。
「心の満足」と「頭の満足」を分けて考え、それぞれの収益性との関係に着目して分析した興味深い研究があります。”Customer Satisfaction Doesn’t Count”3と題したその調査レポートでは、通常の満足度質問に「心の満足」と「頭の満足」を測るための質問を加え、大手スーパーマーケットチェーンの売り上げにおける顧客の満足度と月額支払額の関係性に関する調査結果を公表しました。
その結果、満足度の質問に満点の5点をつけた顧客のうち「心で満足」している顧客の支払額は月額210ドルだったのに対し、「頭で満足」している顧客の顧客の支払額は144ドルと月間60ドルの差があることがわかりました。
ここから、私達が日常的によく目にする5段階評価の満足度調査を行い数値改善の努力をしても、売上にはつながらない可能性が高いことが伺えます。
日本におけるNPS®調査
すでにNPS®を計測しながら業務改善を行っている方は実感されているかもしれませんが、日本におけるNPS®調査の特徴としてマイナスに振れやすいということが挙げられます。
この理由は日本人の文化的要因であるとベイン・アンド・カンパニーのパートナーでもあるロブ・マーキー氏も言及しているように4、マイナスに出やすい一番の原因は日本人がアンケートに回答する際の「中心化傾向」にあります。例えば、5点満点で評価を聞かれた際になんとなく真ん中の3点を選択してしまうといった経験をお持ちではないでしょうか。
実際にメルボルン大学のハージング教授の研究(2006年)5では日本人は諸外国と比べてアンケートの回答が中心(どちらとも言えない)によりやすいことが示されています。
NPS®は0~6点までをひとくくりに「批判者」と分類してしまうため批判的な評価をせずになんとなく4~6点位をつけてしまったとしてもNPS®のスコアを引き下げる要因になってしまうのです。
しかしながら、NPSがマイナスに出てしまう事自体は顧客体験を改善していく上では全く問題ありません。重要なのは定期的に調査を行い施策が正しい方向に進んでいるか、時系列のデータから確認することや、同業他社と比較し自分たちが相対的にどのような評価を受けているのか把握することです。まずは、絶対値を気にせず顧客の本音と向き合うことが何よりも重要です。
NPS向上につながる質問方法
ただ単にNPSを計測するだけでは具体的に改善すべき課題を明確にすること出来ません。
NPSの改善ポイントを特定するためには顧客体験を細分化して顧客体験がどの程度NPSの点数をつける上で影響したか質問する必要があります。
以下は、あるアパレルショップでNPSに影響していると考えられる顧客体験です。体験を整理するコツとしては来店前の認知段階から購入後まで、顧客とどのような接点があるかを具体的にイメージしながら考えるのがおすすめです。
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顧客体験を整理することが出来たら次は質問設計に落とし込みます。NPSにどの体験が影響を与えているか明確にするためには、各項目が0〜10点のおすすめ度をつけるにあたってどの程度のプラスもしくはマイナスに影響したかを聞いてみましょう。
具体的な調査票の例としては以下のようなものが考えられます。
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課題発見のためのNPS分析方法
回答を集めた後は、何が具体的に影響を与えているのかを分析します。NPSに何が影響しているかを分析するには可能であれば、NPS(推奨度)を目的変数、顧客体験を従属変数とした重回帰分析といった統計分析を活用した手法が望ましいと言われています。ただ、難しい場合はNPSに対して何が最もマイナスもしくはプラスにに影響しているか、各体験の平均点を比較するのも一つの手段です。
上記の例に続いてあるアパレルショップで、NPSに何が影響しているかを深く掘り下げて調査を行った事例では、顧客体験の中でも「店員の接客」が最も影響していることがわかりました。また、より詳細に分析を行ったところ「店員の接客」には「親身さ」がプラスに影響している一方で、「レジ対応」が強く評価を引き下げている事がわかりました。
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