フォルケホイスコーレ
グルントヴィの教育理念に基づいて、18歳以上の民衆のための教育機関であるフォルケホイスコーレの歴史がデンマークに生まれた。 最初のフォルケホイスコーレは1844年、ロディンに設立された。
フォルケホイスコーレはデンマークの成人教育機関としての歴史的な経緯を経て、現在デンマークで86校が開校している。
グルントヴィの考えを継承し、17歳以上であれば、国籍・年齢に関係なく一週間から一年間までの共同生活を通して、デンマーク語による対話を中心に様々な事が学べる教育機関として機能している。
さらに現在では、移民のための教育プログラムや国際交流プログラムの拠点にもなっている。
フォルケホイスコーレは成人教育を出発点としているが、その理念はその後、クリスティアン・コルら教育実践家によって義務教育段階においても継承されていった フォルケホイスコーレの設立と教育方針
グルントヴィの思想は国民運動として広がっていった。
デンマークでは1840年から1864年の間に15校の「農民ホイスコーレ」と呼ばれる学校が設立された。主に農民の啓蒙活動を中心とした、14~18歳対象の学校。
グルントヴィ自身は、学校としての農民ホイスコーレ設立運動には関わっていない。その大きな原動力となったのが、良心的な地方牧師や学校教育に携わっていた教育者であった。
1964年以降、グルントヴィ派のホイスコーレが増加し、1869年までの50年間に約50校が開設され、さらに1869年から1872年までに11校が設立されている。
設立者によってそれぞれの教育理念があり、教育内容も統一されていなかった。グルントヴィ派との対立もあったほか、ホイスコーレ設立運動には多くの障壁があったわけだが、その教育内容にはやはりグルントヴィの啓蒙思想の影響がみられる。
特に1851年にクリスティアン・コルによって設立されたリュスリンゲ・ホイスコーレは、以降のホイスコーレ運動にとって大きな意義をもつものとなった。
【クリスティアン・コルの教育方針】
・基礎として世界史を口頭で講義
・協会の歴史から抜粋、特にいろいろな宗派を明らかにする
・北欧神話とデンマーク史を主に口頭で語る。
・世界の地理。人や国について書かれたものを使用。
・週に三回、夜の催し物という形でデンマーク作家の作品を読む
・歌、特に長いバラード
この指針をもとに、基本的なホイスコーレの一日の流れが固定した。
https://scrapbox.io/files/62d7aa1e82f57f0022f367f7.jpg
「朝の歌」とあるが、世代を超えてともに声を合わせる歌を持つことの喜びと意義を、グルントヴィもコルも深く理解していた。
国民の共通理解、共同体の連帯意識を支える一つの手段でもあったわけである。それは人間の原始的、情動的、身体的な連帯感を生み出すものであり、共同体には欠かすことのできない要素でもある。
オングもまた、「音のいう物理状態においては、人間の内部から生じるものであり、人格として現れる。ゆえに、話される言葉は、人々を固く結ばれた集団にかたち作る」としている。
これについては、政治的な面で全体主義に利用されたという歴史もあるのだが、デンマークにおける「ともに歌う歴史」が、民主的な国家の中で今もなおデンマーク教育現場において実践されていることは注目に値する。
公立私立を問わず、多くの教育機関においてデンマークソング集の歌が今でも歌われ続けている。そして、コルの提案したフォルケホイスコーレの教育内容が当時のホイスコーレ教育内容の基本よなっていった。
フォルケホイスコーレの教育内容
民衆運動としてのホイスコーレ教育内容の中核となったのは、デンマーク文学とデンマーク史だった。特に、デンマーク語、デンマーク詩の朗読、デンマーク史だった。
グルントヴィが歴史教育を重視したことは、当時のフォルケホイスコーレの授業内容にも大きく反映されている。1876年からの1年間、グルントヴィ系フォルケホイスコーレ12校における毎週の歴史授業数は平均11.5時間であったが、非グルントヴィ系フォルケホイスコーレの平均となる4.8時間のおよそ3倍となるものであった。
https://scrapbox.io/files/62d809002cd7640023276b50.jpg
探す・見つける・探求する
フォルケホイスコーレは、デンマーク流民主主義の基盤を作る「国民学校」です。デンマーク国内に70前後あるフォルケホイスコーレは、17歳以上であれば誰でも入学することができます。大学に進む前に本当に興味のあることが何なのかを探したい人や、職種を変更し新しいことにチャレンジしたい人がフォルケホイスコーレに入学し、自分が学びたい教科を好きに選択して納得できるまで学びます。人生のどんな場面においても、自分を見つけ出すために人々が向かう場所がフォルケホイスコーレなのです。
試験なし・成績なし
入学試験はもちろんのこと、科目ごとの試験もなければ単位もなく、成績もありません。教科は、文学、歴史、心理学、環境、IT、コミュニケーション、教育、音楽、演劇、スポーツ、アウトドア、ダンス、絵画、写真、環境学、哲学、政治学、国際文化など多岐に渡り、学校によってフォーカスしている分野は様々です。しかし、「試験なし、成績なし」というルールは一貫しています。重要なのは、他人の評価ではなく本人が何を学び何に活かせるのか、という自己実現の心なのです。
会話、談話、対話
フォルケホイスコーレでは、ディスカッション主体の授業形式が古くから用いられており、生徒はバラバラな意見を統合させる民主主義的解決の方法を自然に学びます。朝礼やリビンググループと呼ばれる生徒同士の集まりから、授業からうまれる様々なプロジェクトにいたるまで、常に他者との対話をとても大切にします。何かを決める場合には、言いたいことがある人がすべて意見を言い終えるまでその場が打ち切られることはまずありません。その場にいるすべての人たちが話し合いに参加できる雰囲気づくりの上手さはデンマーク人の特徴とも言えます。
共に学び、共に暮らす
フォルケホイスコーレは、全寮制の学校です。生徒だけでなく、先生も同じ学校の中に暮らし、年齢や国籍が異なる仲間として同じ時間を過ごします。学校生活を通じて「自分が何者であるのか」を知り、社会は多様な他者との関係で成り立っていることを体感していきます。その先に、自分が生きる社会にどのように関わっていきたいか、社会の構成員の1人として何ができるのかを考えるようになっていくのです。フォルケホイスコーレでの学びが基盤となり、1人ひとりの持つ個性が大切に育てられ、多種多様な個性が惜しみなく生かされる社会が作られます。
リンク