澁澤龍彦
映画所感、文芸的な良さが少なく、キャストの顔と観音的な要素が多く、Oの心情の巧妙な変化や性に関する喜びが抜けて、喘ぎとそれを情景させる薄暗さと音楽。
フランスの前衛的な文学賞「ドゥー・マゴ賞」を受賞した本作品は、古くてしかも新しい、人間性の奥底に潜む非合理な衝動をえぐり出した、真に恐るべき恋愛小説の傑作である。女主人公Oは恋人ルネに導かれ、自由を放棄し、男たちに強いられた屈従と涙と拷問のさなかで訓練を積み、奴隷の境遇を受けいれ、ついには晴れやかな精神状態に達するという、それはある女の情熱的な愛の告白であり、フランス伝統文学を受けつぎながら、新しい文学を目指した真の名作と言って過言ではあるまい。 世界悪女物語 澁澤龍彦
十二人の物語の訳と文庫版あとがき
あらすじとその解説
あとがき
「悪女とはなにか。...美貌と権力によって悪虐のかぎりをつくした女性、あるいはまた、愛欲と罪悪によって身を滅ぼした女性と考えておけばいいだろう。」
「本文にも書いておいたが、世界悪女と物語を銘打った以上...ぜひ日本の悪女ををも登場させたいと私は考えた。しかし残念ながら、日本には適当な代表選手を見つけることができなかった。現在の私ならば、できるかもしれない。六0年代の私は、ひたすら目を西欧に向けていたのである。」千九百八十二年十月
所感
史実か憶測かは議論に値しない。澁澤龍彦の興味を探究し、彼の脳内を覗き見できるのが褒美だよ。