アラン・ダンデス
モチーフ素」自体が具体的な登場人物や出来事を指すものではなく、物語中に反復的に現れる象徴的行為・状況・関係を、構造的に抽出した類型として表される。ダンデスはこれを、言語学における形態素(morpheme)と音素(phoneme)の関係に比して説明し、個々のモチーフを「文脈的変異(allomotif)」、それらを統括する抽象的機能を「モチーフ素(motifeme)」と定義した。
具体例を挙げれば、「英雄の試練(hero’s test)」というモチーフ素には、「巨人との格闘」「知恵比べ」「魔法の課題の遂行」など多様なallomotifが含まれる。また、「贈与(gift-giving)」というモチーフ素は、「神が魔法の道具を授ける」「老婆が助力として薬を与える」「動物が恩返しとして力を貸す」といった変形をとりつつ、いずれも「援助の授与」という同一機能を担う。
4つのモチーフ素の連鎖の例①
禁止(Int)/違反(Viol)+結果(Conseq)/脱出の試み(AE)
つぐみが汚れた顔を洗うのを拒む。洗うように促されると、つぐみは「顔を洗ったら何かが起こる(Int)」と言いかえす。洗うように五回頼まれると五は高地チェリバス族の神秘数である。つぐみはしぶしぶ自分の顔を洗うことを承諾してしまう(Viol)。つぐみが顔を洗い始めると、大雨が降りだし、とちゅう水浴びをした何かもを洗い流してしまう(Conseq)。じゃっかうめが四回もぐって泥を運びだすが、それでも山をつくる(AE)。この話は説明的モチーフでおわっている。「つぐみが顔を洗った時、白い部分がちょうど目に見えた。だからつぐみの顔には白のようなものがあるのだ。」