アラン・ダンデス
モチーフ素
わかりやすい解説 Special Thanks イルカとウマの文学村
https://irukauma.site/iruka/story/loglineandplot/306/ 
ダンデスのモチーフ素(ダンデスのモチーフ素、英: Motifeme、独: Motivem)は、アメリカの民俗学者アラン・ダンデス(Alan Dundes, 1934–2005)が提唱した、民話(フォークテイル、Folktale)の構造的分析における基本単位を指す概念なり。その語源は「モチーフ(仏: motif)」に、言語学の「素(morpheme)」を組み合わせた造語であり、民話構造を構成する最小の意味的単位を意味する。成立の背景としては、ウラジーミル・プロップ(Vladimir Propp, 1895–1970)の『昔話の形態学(Morphology of the Folktale, 1928)』における機能(function)分析を継承しつつ、記号論(semiotics)や構造主義(structuralism)の影響下で民話の意味論的分析を深化させる意図に基づく。理論構造として、モチーフ素は物語の筋を構成する反復可能な抽象的単位であり、言語の形態素のように上位の構造(モチーフの連鎖、語りの全体構造)を構築する。ダンデスは、プロップの機能論を形式的な構文的水準に限定するのではなく、象徴的・文化的意味を担う単位として再解釈し、物語の表層的展開よりも背後にある文化的文法(cultural grammar)を明らかにしようとした。主要人物としては提唱者ダンデスのほか、プロップ、クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)ら構造主義的民俗学の学派に連なる研究者が関与し、言語学的構造主義と民俗学的象徴解釈の橋渡しを試みた。影響と意義において、モチーフ素概念は物語学(ナラトロジー、Narratology)、神話学(Mythology)、文化記号論(Cultural Semiotics)などの分野に理論的基盤を与え、民話研究を単なる物語類型の記述から構造的・意味論的分析へと転換させた。今日においても、モチーフ素は文化の語りの基層的パターンを抽出する分析枠組として、比較民俗学および文化人類学の理論的議論において重要な位置を占めている。
モチーフ素」自体が具体的な登場人物や出来事を指すものではなく、物語中に反復的に現れる象徴的行為・状況・関係を、構造的に抽出した類型として表される。ダンデスはこれを、言語学における形態素(morpheme)と音素(phoneme)の関係に比して説明し、個々のモチーフを「文脈的変異(allomotif)」、それらを統括する抽象的機能を「モチーフ素(motifeme)」と定義した。
具体例を挙げれば、「英雄の試練(hero’s test)」というモチーフ素には、「巨人との格闘」「知恵比べ」「魔法の課題の遂行」など多様なallomotifが含まれる。また、「贈与(gift-giving)」というモチーフ素は、「神が魔法の道具を授ける」「老婆が助力として薬を与える」「動物が恩返しとして力を貸す」といった変形をとりつつ、いずれも「援助の授与」という同一機能を担う。
4つのモチーフ素の連鎖の例①
禁止(Int)/違反(Viol)+結果(Conseq)/脱出の試み(AE)
つぐみが汚れた顔を洗うのを拒む。洗うように促されると、つぐみは「顔を洗ったら何かが起こる(Int)」と言いかえす。洗うように五回頼まれると五は高地チェリバス族の神秘数である。つぐみはしぶしぶ自分の顔を洗うことを承諾してしまう(Viol)。つぐみが顔を洗い始めると、大雨が降りだし、とちゅう水浴びをした何かもを洗い流してしまう(Conseq)。じゃっかうめが四回もぐって泥を運びだすが、それでも山をつくる(AE)。この話は説明的モチーフでおわっている。「つぐみが顔を洗った時、白い部分がちょうど目に見えた。だからつぐみの顔には白のようなものがあるのだ。」
出典:アラン・ダンデス著 池上嘉彦訳(1980)『民話の構造―アメリカ・インディアンの民話の形態論』大修館書店。