快感回路
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人間にとって、快感はまっとうに得られるものではない。天から貸し出されるのだ。非常な高利で by ジョン・ドライデン
プロローグ
回春・ドラッグ・ギャンブル。つまるところ堕落のもととは何かを著者は考える
遺伝子を次世代に残していくには食べ物・水・セックスが「報酬」的なものと感じられなければならない
人は快楽の影響力をコントロールしようとする
刑務所は特定の快楽を禁ずる法を侵した者たち、あるいは他人にその法を侵させることで利益を得た者たちで溢れている
快楽に関する観念や習慣には文化が深く影響している
本書では理論化ではなくもっと根本的な文化の差異を超えた生物学的な解明を試みる
日常から外れたと感じる経験(非合法な悪習・エクササイズ・瞑想・祈り・寄付行為)は快感回路を興奮させる
要するにギャンブルであろうが瞑想であろうがマスタベーションであろうが脳内の決まった領域(内側前脳快感回路)が活性化される(神経信号の発生)
麻薬は内側前脳快感回路を意図的に乗っ取るもの
¥ 法律や宗教や社会的道徳がもっとも厳密に取り締まるものは内側前脳快感回路
依存症は快感のダークサイド
背景に神経機能の変化(経験や学習による神経回路の変化)がある
つまり経験を通じて快感回路に変化が起こる現象は「記憶」「快感」「依存症」には相関関係があることを裏付けている
人間は本能から離れたまったく任意の目標の達成に向けて快感回路を変化させ、その快感によって自らを動機付けることができる
その目標が進化上、適応的な価値を持つか持たないかは問題ではない。
単なる観念でさえ快感回路を活性させることが可能
¥ 人間は快感に対して節操がない
快感研究の意味
脳研究の結果、人間の行動や認知現象を生物学的プロセスのレベルで洞察し、全く新しい、特には直感に反する知見を獲得することができる
薬物依存症者に対する一般的なイメージ -> 依存症者はよりハイになりたい
実際は依存症者は他の人より薬物を欲しがるけれども他の人ほど薬物が「好きではない」
研究で快感の生物的な基盤を理解することで、快楽を巡る市場やその法規制などの見直しにつながる
第1章 快楽ボタンを押し続けるネズミ
快感回路の発見
ラットの脳の快感回路は人間と非常によく似ているため実験動物として用いられることが多い
報酬感を支える特定の一つの領域というのはない
報酬回路は複数の構造が互いにつながりあって構成されている(腹側被蓋野・側坐核・内側前脳束・中隔・視床・視床下部など)
これらはすべて脳の基部、正中線に沿って分布する構造
定義
動因低減説: 学習や行動の発達は罰の回避のみで説明できるとする考え方
(つまり報酬や快感は必要なく鞭だけあればいいという考え方)
現在では動因低減説は否定され行動は苦痛に後押しされるだけではなく快感にも引っ張られるという考え方が支持されている
不道徳な実験
code:_
最悪の実験例は「同性愛者の男性に異性愛行動を起こさせる中隔刺激」という論文にある(実際に行われている)
定理:
中隔野の刺激は快感を引き起こす
仮定:
その刺激と異性愛的イメージを結びつければ「明確な同性愛者の男性に異性愛行動を起こさせることができる」
方法:
患者の脳の深部9箇所に電極をつなぐ(快感を引き起こすのは中隔に埋め込まれたものだけ)
患者に電気刺激の発生器の操作を任せる
自分の快感回路を刺激した後にAVを見せる
-> 最終的に売春婦と性交させることに成功
結果:
他の全てを犠牲にしてでも自分の快感回路を刺激し続ける = ラットと同じ反応
若干の科学的解説
ラットの快感回路の構造は人間に非常によく似ている
快感回路の中軸はVTA
VTAは前頭前皮質・背側線条体・扁桃体・海馬へもドーパミンを放出する軸索を伸ばしている
VTAニューロン自体は
前頭前皮質から興奮性の信号を受け取る
グルタミン酸
側坐核から抑制性の信号をそれぞれ受け取る
GAVA
側坐核はVTA以外にも前頭前皮質・扁桃体・海馬からもグルタミン酸を含む興奮性の軸索が届いている
前帯状皮質は情動の中枢
背側線条体はある種の習慣の学習形式に関係
海馬は記憶に関連
前頭前皮質は判断や計画を司る
VTAのニューロンは信号を送り出すだけではなく、他の脳領域からも電気化学的情報を受け取る
内側前脳束(前頭前皮質などから中隔と視床を通ってVTAに繋がる軸索の集まり)
内側前脳束の軸索はグルタミン酸(興奮性の神経伝達物質)をVTA内に放出する
受け取るとドーパミン放出へ
code:_
¥ 脳の回路が快感に対して持つ意味
ある経験がVTAのドーパミン・ニューロンを活性化する
↓
投射標的(側坐核・前頭前皮質・背側線条体・扁桃体)にドーパミン放出
この快感体験に先立つ感覚や行動が手がかりとして記憶され、ポジティブな感情に関連づけられる
薬物の働き
ラットに対して
ドーパミン・トランスポーターの働きを阻害する薬物(アンフェタミン・コカイン)を与える -> レバーを押す回数は増える
ドーパミン受容体を阻害する薬物を投与 -> レバーを押す回数は減る
向精神薬は部分的に快感回路を乗っ取る
ドーパミンとパーキンソン病
パーキンソン病患者のギャンブル依存症
動物の快感回路
原初的な快感回路は進化のごく早い段階で見られる
体調1ミリの線虫ですら基礎的な快感回路を保持し、匂いを手掛かりに餌であるバクテリアを見つけることができる(食事をとると快感が得られるという報酬メカニズム)
ドーパミン・ニューロンを働かないようにすると餌に見向きしなくなる
快感を構成する生化学のある部分は生命の進化を通じて何億年も変わらず維持されている
線虫みたいな原始的な生物でもヒトでも快感回路の中心はドーパミン・ニューロン
行動の発達において快感が中心的な役割を果たしている
何かの経験をしてそれを快いと思うとき
(a) その経験が気にいる(直接的な快感)
(b) 外界からの感覚的な手掛かり(光景・音・匂い)と内的な手掛かり(その時の考えや感覚)をその経験と結びつける
-> そのつながりからそれを繰り返すためにどうすべきかを予測できるようになる
(c) 快い経験を値踏みする
-> 将来、複数の快い経験の中から何を選ぶかその経験をするためにどの程度の努力を払う気になるか、どの程度のリスクを進んで負うかを決められるようになる
全ては快感回路に還元できるのか
麻薬や博打といった悪徳とされる行為と同じ快感がエクササイズや瞑想など美徳とされる行動からも得られる
美徳と悪徳は神経から見れば1つであって、どちらを向こうとも快感が私たちを導いていることに変わりない
Q. 全ての快感を内側前脳回路の活動とドーパミンの増加に還元できるか?
A. YESでもNoでもある。
YES: 快感を体験しているときはほぼ確実に内側前脳ドーパミン回路に関係する報酬の神経調整器が働いている
No: 快感回路が単独で活動しても色合いも深みもない無味乾燥な快感が生じるだけ
快感が力を持つのは快感回路と脳の他の部分との相互連絡によって、記憶や連想や感情や社会的意味や光景や音や匂いで飾り立てられているから
脳の回路レベルでのモデルは、快感を生じさせるのに必要な条件を教えてくれる
それだけでは不十分で、快感が持つ非日常的な感覚・感触には快感回路と関連する感覚や感情がつながりあった網の目の中から生じてくる
第2章 やめられない薬
文化による薬物の好み
脳に影響を及ぼす薬物を使用する文化は古今東西どこにでもある
向精神薬に対する姿勢や法規制は文化によって大きく異なる
その結果、自分たちの薬物使用は正当化し、よその薬物は呪われている・使用者は動物以下だという観念が生まれる
ローマ時代のアヘン
五賢帝の一人、マルクス・アウレリウス・アントニヌスはアヘン中毒
19世紀アイルランドのエーテル
カトリックの神父が禁酒の誓いをたてる
つられて町民も禁酒を誓う
アルコールではない飲み物としてエーテルを酒の代用とする
定義
エーテル: 揮発性の液体で、硫酸とアルコールを混ぜて作る。気化したエーテルを吸入すると多幸感が得られたり、知覚が麻痺したり、意識を失ったりする
国中でエーテル中毒者が続出
1891年、イギリス政府がエーテルを毒物に指定し、販売と所持を取り締まる
アイルランドでもエーテルが廃れていき、1920年代にようやく使用されないように
ペルーのアヤワスカ
定義
アヤワスカ: 植物由来。幻覚はチャクルーナの葉に含まれるジメチルトリプタミン(DMT)による。もう一方の原料につる植物があり、βカルボリン化合物類を含んでいる。その化合物がDMTの分解を抑える = 原料同士で相乗効果(?)がある
20世紀の処方薬パーティー
酩酊への本能的欲求
(本章での今までの事例から)第一に向精神薬は様々な社会的文脈で使われることがわかる
治療・宗教的な儀式の品・娯楽・使用者を社会集団への帰属させる
第二に文脈は変化しうるし重なり合うこともある
アヘンやクオルードは本来は医療品だったが娯楽に転用された
アワヤスカは治療薬と宗教的な祭品を兼ねる
第三に宗教的戒律や法律が薬物使用に思わぬ形で大きな影響を及ぼすことがある
アイルランドでのエーテル乱用はイギリス政府に押し付けられた重い酒税や禁酒運動に端を発する
これらの事例から学べることは、どんな文化であれ、どんな時代であれ、人間は自らの脳の機能を変容させる方法を必ず見つけ出し、そうした薬物の使用を規制しようとしてきたということ
向精神薬はなぜ使用されるのか
楽しむ・一瞬エネルギーをほとばしらせるため・不安を解消する・社会的に容認されない行動をとる・創造性を刺激する・儀礼を補う
向精神薬の分類
大雑把に分けると
興奮剤
いずれも覚醒度を高め、精神機能を強化する
例) コカイン・カート・アンフェタミン(覚せい剤)・カフェイン
鎮静剤
興奮剤と反対の作用。睡眠を導き、運動協調を阻害
例) アルコール・エーテル・バルビツール酸・ベンゾジアゼピン系安定薬(ハルシオンなど)、GHB
幻覚剤
視覚や聴覚などの感覚を歪める
例) LSD・メスカリン・PCP・ケタミン・アヤワスカ
麻酔剤
鎮静剤でもあるが、他の鎮静剤とは異なる独特の多幸感を伴う作用がある
例) アヘン・モルヒネ・ヘロイン・オキシチン
混合的な作用を持つ薬剤
これらの分類はそれほど明確ではない
用法・用量によって効果が違うため
例えば、コカインは通常幻覚剤には分類されないが、高用量で幻覚も伴う
重要なのは分類法ではなくそれが用いられる社会的状況
薬の化学作用は同じでも、その作用はその時の脳の影響を受け、薬の効果を左右するため
プラシーボ効果
これから大事なイベントが控えている場合と、厄介な仕事を終わらせた後などのコンテキスト
向精神薬と脳内の受容体
仮説: 人類が発見した向精神薬はすべて内側前脳快感回路を刺激するものである
興奮剤などドーパミン放出系のものでは仮説は言うまでもなく正しい
麻酔剤のモルヒネやそれに類する薬物は大きな多幸感はもたらすが、ドーパミン信号には直接影響しない
これらも脳内の対応する受容体を経由してVTAに影響を与える
エンドルフィンは天然のモルヒネ
Tips
タバコはアセチルコリン受容体にはまりこんでしまうので脳が本来シグナルを送るために出すアセチルコリンの働きを妨害する = 記憶力低下
快感のタイプと依存症
? 薬物は常に快感のために求められるのか
-> 大半の幻覚剤や鎮静剤は内側前脳快感回路を活性化しない
脳の機能をなんとか変えてみたいと言う文化の枠を大きく超えた欲求は、快感回路の活性化だけでは説明はつかない
向精神薬には快感回路を活性化するものとそうでないものがある
快感回路を大きく活性化するものほど依存性が高い
薬物を使うかどうかについては
一部の薬物は非常に安価なので経済的ハードルは低い
友人や家族の態度、あるいは信仰も影響する
依存症に関して
ヘロインを注射で摂取した場合でさえ必ずしも依存症になるとは限らない
依存症発生率
table:table
薬物 摂取方法 発生率
ヘロイン 注射 35%
コカイン 喫煙 or 注射 22%
大麻 - 8%
アルコール - 4%
タバコ - 80%
タバコの依存性が高い理由
違法ではない
健康上、生活上のマイナスが他の薬物よりは小さい
問題が顕在化するまで何年もかかる
ニコチン配給が迅速に機能し、信頼性が高い
迅速で弱い反応を1日になんども繰り返す
煙を一吸いすると15秒ほどでニコチンが快感回路に達する
code:_
喫煙やヘロイン注射のように薬物が脳にほとんど即時に届く場合の方がタバコの葉を噛んだりアヘンを食べたりした時のように同じ薬物が時間をかけて脳に届く場合よりも依存症になる可能性が高い
これはなぜか?
依存症も学習の一形態だと見做すことができる
薬物を使う時1つの行為とそれに続く快感との間に連合が生じる
犬の訓練で呼んだら来るように躾けるときにご褒美として美味しい食べ物を1口分用意する
学習による連合を形成したいならご褒美をすぐに与えなければ効果はない
タバコに関しての犬の訓練で例えられる
犬を1日1回読んだだけで5kgのステーキを与えるよりも犬を1日20回呼び、やって来るたびに肉を一切れずつ与える方がはるかに早く学習(連合形成)する
依存症の進行
依存症: 生活上の悪い影響が大きくなっているにも関わらず持続的・強迫的に薬物を使用すること
ヘロインでさえ1回摂取しただけで依存症になるわけではない
繰り返し摂取すること・立て続けに摂取するのがまずい
薬物耐性ができてしまうため、連続摂取の直後から同じだけの多幸感を得るためには容量を増やす必要が出てくる
耐性はどんどん高まり、ハイになるために必要な用量も比例して増える -> 依存症進行
依存症が進むと薬物への渇望感が高まる
薬物に関連する刺激に接すると渇望感が引き出される(クラック・コカイン依存症者はパイプを見ると欲望にかられる)
薬物から何年も離れても依存症が再発する可能性はある
再発の原因は記憶の想起
再発時の快感はごく少量の摂取でも初体験時のそれを上回ってしまう(「感作」と呼ばれる現象)
慣習的に薬物を使用してきた依存症者では脳が長期的な変化を起こしている
ニューロンの構造変化まで起こってしまう
依存症を分子レベル・細胞レベルで理解し、患者を依存から解放して自由にさせる治療法を開発するならまず脳の細胞と分子を永続的に変化させうる物質に目を向ける必要がある
長期増強(LTP)の発見
実験でウサギに条件付け刺激(パルス20回/秒 * 300回)を数回繰り返してから再びテストパルスを与えると反応が大きく異なる
-> シナプスの伝達強度が1,2分ではなく何時間も続いていた = 長期増強(LTP)の発見
発見当初は海馬など記憶に際して特別な役割を果たす機関のシナプス特有の現象だと思われていた
実際はほぼ全てのシナプスで発生することがわかった
脳幹みたいな原始的な部分でさえも
当然快感回路でも
長期増強と依存症の形成
この章のまとめ
依存性の薬物は内側前脳快感回路、特にVTA(腹側被蓋野)のドーパミン・ニューロンを活性化する
薬物が生み出す多幸感の核はこれ
感覚経験は脳の回路に記憶を書き込むことができる
その記憶痕跡は少なくとも部分的には長期増強と長期抑圧によりシナプスで作られる
依存症には進行段階があり、最初の多幸感は次第に耐性と依存性と激しい渇望へ進んでいく
これらは薬物の摂取をやめてから何年も残ることがある
渇望感が残ることが再発につながることがある
再発のきっかけはストレスであることが多い
依存症になると内側前脳快感回路とその標的の機能に永続的な変化が生じる
依存性薬物がもたらす長期増強は脳全体のシナプスで生じるわけではない
神経伝達物質としてグルタミン酸を使うシナプス全てで生じるわけでもない
例えば海馬のグルタミン酸シナプスはコカインやモルヒネを投与しても永続的変化を起こさない
薬物により興奮性のシナプスが長期増強されることで感覚的な手がかりを知覚したり、ある感情を抱いたりしたときにVTAニューロンが活性化しやすくなり、標的領域でのドーパミン放出が促される
合理的な仮説: 薬物により引き起こされる快感とそれに伴う感覚的な手がかりや感情状態との連合が学習されるためにはVTAが薬物で長期増強されている必要がある
依存症の進行につながる神経化学的変化
薬物によりVTAで長期増強が起きるというだけでは依存症が完全に説明つけることができない
第一アルコールやニコチンなどそれほど危険性のない薬物でさえ1回の摂取で長期増強が生じる
ところがアルコールやニコチンを一回摂取しただけで依存症にはならない
習慣的な薬物の摂取で起こる変化
神経伝達物質ダイノルフィンのレベル上昇
ダイノルフィン: エンドルフィンの一種
側坐核でダイノルフィンレベルが上昇するとこの組織での電気的活動が低下する
他にも側坐核の活動を抑えるメカニズムは、海馬・前頭前皮質・扁桃体から側坐核へと情報を届けるグルタミン酸シナプスの長期抑制がある
依存症の初期の特徴である耐性と依存性の元となっている可能性は高い
この段階ではコカインを追加しない限り快感回路は慢性的に抑制され、鬱や倦怠感・焦燥感でほかの活動を楽しめなくなる
薬物を断つ期間を経た側坐核
棘(グルタミン酸やドーパミンを使う軸索が他所から伸びてきたもの)の増加と長期増強という二種類の永続的変化を受ける
依存症の遺伝的要因
一定の条件が揃えば誰でも薬物依存症になり得る
依存症リスクの要因の40〜60%は遺伝的なもの(推定)
遺伝が全てではない
依存症者の責任
第3章 もっと食べたい
肥満度を脳に伝えるホルモン
体重が一定しているという体験は食事制限しているわけじゃないならとりわけ珍しいものではない
多くの哺乳類は食べ過ぎたり飢えたりしたあとに自由に食べられる環境に戻ると、すぐに体重が元のレベルに戻る
哺乳類の体は、食べた量ではなく食べたものの中に含まれる熱量に基づいて摂食をコントロールしている
視床下部が性欲・食欲・攻撃・飲水など無意識的な欲求や反射をコントロールしている
人間が視床下部の腹内側部に損傷を受けると食べる量が増えて肥満になる
定義
レプチン: 脂肪細胞からのみ分泌されるタンパク質ホルモン
code:_
レプチンの作用
1. 脂肪細胞からはその量に比例するレプチンが分泌される
2. 血液に入って体内を循環し、脳内にも入る
3. 視床下部のニューロン上に発言しているレプチン受容体が検出
4. これらのニューロンが活性化すると食欲が抑制され、熱量消費が増大する
体重が減るとこの仕組みが逆に働く
レプチン受容体の機能が先天的に損なわれているならレプチンを人為的に投与しても効果はない
人間でもマウスでも(遺伝性の?)レプチン欠損の場合不妊になる
= 次世代に依存しない
満腹感を脳に伝える仕組み
食べ始めたいという欲求の信号
摂食行動の開始は生化学的には極端な飢餓状態であることが条件
食べるものが十分にある通常の状況では食事を始めようという動機はどちらかというと社会文化、環境要因に由来する
食事中の接触状態を脳はどのようにして知るのか
脂肪の量は食事中には増えないので脂肪は関係ない
胃腸からの満腹シグナルによって摂食を終了する
食欲の回路は極めて複雑
おそらく食欲制御システムは生体にとって極めて重要であるため冗長性を備え、信号の多様化で安定化をはかっている
身体の仕組みはダイエットに抵抗する
摂食行動と快感回路
コカインやアンフェタミンなどドーパミンを溢れさせる薬物を恒常的にラットに与えると摂食量が減る
反対にドーパミンを抑制する薬は食欲と熱量摂取を増やす(= 体重が増える)
肥満の遺伝要因
遺伝学的には体重の軽重は80%遺伝的に決まっている
肥満とドーパミンの関係
外食産業の戦略
脂肪と糖は同時に取ると極端に依存性が高くなり、それぞれ個別に摂取するよりも快感回路にはるかに大きな影響を与える
どんな食べ物にも共通する理想的な塩分濃度は存在しない
ポテトチップスやクラッカーには肉やスープよりも多くの塩分が求めらる
味の対比が出る組み合わせも食べ過ぎを誘発しやすい
例) チョコレート + フルーツ、スパイシーな唐揚げ + 味の違うソース
噛んだり飲んだりするのが楽な食品の方が好まれる
ファミレスチェーンで出てくる肉は機械的に柔らかくされている
客は皿に乗ったものを最後まで食べようとする習性がある
サイズを大きくする
安全な痩せ薬の開発に向けて
レプチンで減量できる肥満患者はほとんどいない
肥満の人々の大半は体脂肪が多く、もともと体内のレプチンレベルは高いので、その状態で投与しても効果はない
肥満患者の大半はレプチン欠損ではなく「レプチン抵抗性」ができている
ストレスが引き起こす肥満
ストレスと依存症
ストレスで引き起こされる強迫行動は過食だけではない
依存症の再発の契機にもなる
ストレスを与えると、なんとVTAに長期増強が起こる
この長期増強は薬物によるものと見分けがつかない
あらかじめコルチコステロン受容体のブロッカーを与えておくと起こさない
薬物でもストレスでも長期増強を起こすには脳から身体へ、身体から脳へと双方向で働くストレスホルモンによる信号のループが必要
薬物依存と過食の共通性
どちらも遺伝的要素が大きい
薬物の長期摂取でシナプスの構造や機能が変化するが、脂肪と糖と塩分が多い美味しい食べ物を長期に渡って食べ続けるとどうなるか?
その場合も快感回路の配線は変わり、欲求を増幅する
第4章 性的な脳
context: 猫が人間のセックスを傍観している
猫はおぞましいと感じる理由
受胎しない時期に交尾している
1つの排卵周期の間に交尾の相手を1人に固定している
なぜオスが子育てをするのか?
子供が5歳にもなって自立ができないのは意味不明
人間は性的に特殊な動物
人間の脳はマウスやサルよりも大きな新皮質をもつ
認知的なコントロールで無意識の衝動を大きく抑えることができる
それでも食べ物や向精神薬に対する反応は根本のところでは他の哺乳類と同じ
繁殖のシステムに関しては食欲とは違って他の哺乳類の主流からは離れている
人間以外の哺乳類は、(一部の例外をのぞき)発情期以外の時期にオスとメスが性的に接触することは普通はない
父親が誰なのか明確にわかる
どの社会集団共通でも共通する特徴(北京でもシカゴでもパプアニューギニアでも同じ)
ヒトのメスは外見上排卵期がわからないが他の哺乳類のメスはジェスチャーや鳴き声、匂い、身体の膨らみなどで受胎可能であることを周知する
ヒトのメスは本能的には排卵期は感知できないが訓練によって感知できるようになる
結果的にセックスが娯楽化
人間以外の哺乳類ではオスは交尾後、永続的な絆を結ばない(要するにやったら終わりで子育てになんの役割も負わない)
哺乳類の90%以上は乱婚の形態をとる
人間以外の哺乳類で人間と同じような特徴を持つものもいる
ボノボやイルカは排卵周期とは関係のない娯楽的なセックスをする
テナガザルやハタネズミ、コウテイペンギンは単婚性でオスが子育ての手助けをする
人間が動物の中で最も長く最も非力な幼少時代を過ごす
オラウータンやコククジラとはわけが違うので人間のシングルマザーは非常に不利な立場に置かれる
人間の脳の大きさは成人で1200cm^3
この体積は産道を通れない
新生児は400cm^3ほどだがそれでもきつい
人類以外に出産によって母親が死亡という現象は起こらない
巨大で成熟の遅い脳を持つ子供の世話をする必要性から単婚や子育てへの父親の寄与といった特殊な特徴を説明できる
動物の多様な性行動
同性愛行動は500種以上の動物で報告されている
予想ではもっと多くの種類で行われている
オスの方が観察例が多い
大抵の場合は、バイセクシャル
多くの種ではメスの場合は発情期のみ異性間、それ以外の時期は同性間
ボノボなど一部の種では快楽を得るという目的の他に社会的絆を強めて攻撃性を抑える目的もある
生涯にわたって純粋な同性愛行動を続ける動物はごくわずか
多くの動物(特にオス)は性的にご都合主義
相手の種も生死も関係なく性的な接触を試みようとする
人類の性を独特なものにしているのは、実は変態的あるいは禁断的な行為ではない
むしろ最も因習的で社会的に是認されている交尾行動が人間を他の動物と比べて奇妙なものにしている
恋愛する脳
どの社会集団(文化)でも恋愛の特徴は普遍的なもの
恋に落ちるときに重要な役割を果たすもの = フィードバックループ
恋人の中に素晴らしいところを見つけるだけではなく、恋人の瞳の中に同じ感情を読み取る
つまり、恋をしていると自分も好きになる
恋の最盛期には気分の変動が増幅される
高ぶった感情はさらに昂ぶる・うまくいかないと落ち込みは一層激しくなる
恋愛初期ではコカイン的な快感が得られる
恋愛と共に現れる強い多幸感は、VTAとその標的(例えば尾状核の強い活動)に対応する
恋人を評価する基本的能力に歪みが生じる
判断の中枢である前頭前皮質と社会的認知に関わる側頭極と前頂側頭接合部の非活性化の結果
強迫性障害でも前頭前皮質の一部が非活性化するが、実際強迫性障害と恋愛は似た面がある
恋愛初期の状態(思考と自己イメージの歪み・性的強迫観念の発生)の持続期間は通常9ヶ月〜2年
その後、穏やかな愛情関係へ移行
パートナーに関する気持ちは10年後も20年後も変わらないと主張する人たちもいる
実際に、実験で裏付けも取れる
脳における恋愛と性的興奮の違い
疑問:
恋愛で活性化する脳のシステムは性的に興奮したときに活性化する部分と同じか?
(恋愛初期の脳の活性化は単なる肉欲をぼかして恋愛風に見せているだけではないか?)
-> 経験上はそうではない。愛情がなくても性的に興奮することはできる。その逆も然り
実際は・・
検証:
性的内容の写真やビデオを見せながら脳をスキャンする(男女それぞれ14人が対象。事前にそういったものに興奮しないと回答した者は除外)
結果:
男女ともにVTAと側坐核、背側線条体など快感回路の中心部が激しく活性化した
= 恋愛中の恋人の写真を見る人も、卑猥画像を見る人も同じく快感回路の大きな活性化を示した。しかし、性的画像の場合は恋人の顔とは異なり、判断中枢や社会的認知中枢の活動低下は生じず、逆に皮質が広がった
= 恋愛と性的興奮は一部共通する快感はあるけれど、全く別物
男女間で興奮するのは脳の同じ領域だが、それぞれ特徴的な反応も見られる
男性は情動中枢である視床下部と扁桃体の活性化が大きい
同性愛者と異性愛者の脳
写真やビデオなどの性的刺激を受けた時に自己報告される性的興奮と内側前脳快感回路の活性化との間には相関関係がある
検証:
同性愛者と異性愛者それぞれ12人対象
男性同士・女性同士の同性画像を見せて脳スキャン
table:結果
対象 見せた画像 結果 自己申告との整合性 備考
ゲイ 男x男 興奮 一致している 男x女 でも興奮する者が一部いる
ストレート(男) 女x女 興奮 一致している 男x女 でも男性がセックスしていることに嫌悪感を感じる者がいる
男性の性的興奮と勃起の自己申告は一致
興奮度合い(ゲイ・男性のストレート):
ヌードでのエクササイズ < マスターベーション < 相手のあるセックス
全米調査によると米国人男性の1%がバイセクシャル
バイなら上表のいずれでも性器反応が見れれるはず
仮定が正しくても、性的映像・男x男と女x女とで興奮の度合いが同程度とは限らない
平均して男性の刺激映像に対する興奮は異性愛の男性よりも強く、女性の性的映像に対する興奮は同性愛の男性より強いと予想される
結果は男x男は性器反応あり、女x女は反応なし(ただし反応の自己申告はどちらもあり)
どういうことなのかはっきりわかっていない
女性の脳と身体反応のズレ
女性の性器反応は男性ほど単純ではない
膣液*: 膣の内壁の血管に溜まってる血液の血漿が浸み出したものがベースとなっている
女性の場合はフォトプレチスモグラフというタンポンサイズの測定器を膣に挿入して反応を測定
主観的興奮程度の自己報告は男性と同じ(ヌードでのエクササイズ < マスターベーション < 相手のあるセックス)
ただし反応が性器と一致しない
異性愛の女性は女性同士のマスターベーション映像にも男性同士のマスターベーションにも女性同士のセックス映像にも男性同士のセックス映像にも性器が強く反応した
同性愛者の女性でも偏りはあったもののほぼ同様
異性愛者・同性愛者問わずボノボの交尾の映像でも反応(男性にはみられない反応)
女性は男性よりも幅広い刺激に対して興奮を覚える
自己報告と実際の反応も異なる
主観的反応と脳のスキャンデータは女性でも相関するが、膣の測定値は対応しない
女性が性的映像を視聴している間に考えることが男性と大きく違い、その違いが脳スキャンの結果と間接的に膣の反応とに影響を及ぼしているのかもしれない
実験参加のハードルが高く、サンプル自体が少ない?
女性の膣はもともと自動的、反射的に様々な性的刺激に反応する
この現象は進化論的に説明がつく
性的接触が急激、あるいは同意のないものであったときに傷害や感染の危険性を減らすための適用という考え方がある
オーガズムの時の脳
オーガズム: 血圧と心拍が上昇し、不随意の筋収縮が起こり、強烈な快感が生じること
オーガズムは脳で起こるものであって股間で起こるものではない
性器以外で達する人もいる
一切の身体的接触なしで達することができる人もごく僅かながらいる
脊髄が完全に損傷してしまった人でも達する
てんかんの発作がオーガズムを引き起こすこともある
オーガズムの時間(およそ)
男性は15秒
女性は24秒
短時間の間に繰り返すことも可能
オーガズム中の脳をスキャンするのは技術的にかなり難しい
活性化する場所
快感回路のドーパミン作動性のニューロン(VTA)
運動と運動学習を司る小脳深部の核
運動誤差の計算(オーガズム = 究極の運動誤差)
低下する場所
判断や社会的推論の中枢である左腹内側皮質と眼窩前頭皮質の活動
オーガズムの間は論理的評価や推論は保留される
オーガズム中の脳の活動に男女差は見れれない
唯一の差異はPAGと呼ばれる脳幹の古い領域
男性のみ活性化
結果、エンドルフィンが放出される
快感のないオーガズム
「ヘロインよりは弱いけど食べ物よりは強い刺激」という定義は単純化しすぎ
実際は感覚的要素と感情的・報酬的要素が別々に含まれている多面的な体験
神経科の診療所で電極で師匠を刺激すると生理的にオーガズムと呼ばれる特徴(心拍増加・筋収縮)を全て引き起こすことができるが、快感を感じることはできない
てんかんの発作でも快感のないオーガズムが発生することがある
薬物のオーガズム
ヘロインやコカインなどの薬物はVTAの標的領域のドーパミンレベルを一定時間上げ続ける
対してオーガズムはドーパミンレベルをごく短時間だけ高める
ドーパミン信号を増幅する薬物はオーガズムを長引かせ、強化する
逆にドーパミン受容体をブロックしたりドーパミン自体の放出を阻害するような薬物はオーガズムを抑制する
同様の影響は性欲や性的刺激に対する性器の反応にも及ぶ
セックス依存症
ドーパミン快感回路が関係する以上はセックスにも依存症はある
現実に存在し、別種の依存症と同じく苦しみは大きい
依存症の定義が難しい(例は記載してあるので適宜参照)
セックスに余韻をもたらすオキシトシン
行為後はオーガズムの後の温かい余韻がある
この至福の状態は性的な絆の形成のために極めて重要
男性でも女性でもこの余韻には視床下部の支配を受ける脳下垂体から分泌されるオキシトシンというホルモンの媒介がある
オキシトシンの放出系が社会的絆全般に関係している
単婚型と乱婚型のハタネズミ
プレーリーハタネズミやマツネズミは単婚型
サンガクハタネズミは乱婚型
バソプレシンというホルモンの受容体のうちV1aというタイプの脳内分布パターンが単婚型のハタネズミと乱婚型のハタネズミとで異なる
どちらのハタネズミでも受容体の分子構造はほとんど同じであり、ただ分布パターンが違うだけ
ハタネズミから人間へ
浮気・不倫をする人、しない人とではバソプレシンとオキシトシンの信号に差があるのかもしれない
その仮説を支持しそうな研究も一部ではじめている
バソプレシンのV1a受容体の遺伝子多型の分析から、この受容体の「344対立遺伝子」を持つ男性とその妻は、夫婦関係に満足せず、過去1年間に結婚生活の危機を経験している率が高かった
若年成人のうち、血中オキシトシンレベルが高い人は両親との結びつきが強く、うつ病になる率も低いとされる
自閉症の人は同じ年齢層の対照群に比べて血中オキシトシンレベルが低い
第5章 ギャンブル依存症
ギャンブル依存のリスク要因
病的なギャンブルは依存する
女性より男性にはるかに多い
男性の方は35〜55%が遺伝要因で説明がつく
女性ではそれほどはっきりしたことは言えない
ギャンブル依存症の人と近い関係にある人ほどギャンブルに病的にのめり込むリスクが高くなる
D2ドーパミン受容体に関係するTaqIA A1 対立遺伝子を持つ人は、VTA標的領域でのドーパミン信号伝達が弱く、食べ物やアルコールなどのいくつかの物質依存症で苦しむ可能性が高い(第3章参照)
買い物依存症やギャンブル依存症のリスクも高い
ニコチン依存とアルコール依存と病的ギャンブルは共存することが多い
ドーパミン作動性の快感回路の障害という原因が共通している
合法・違法問わずギャンブルに容易に接する機会が多いほど依存症が増える
合法ギャンブルがやりやすいほど依存は増える
オンラインギャンブルで機会が増える
ギャンブル依存症者の多くはビジネスの世界でも特に大きな成功を収める精力的で革新的な人物
リスクを負い、全力を尽くし、物事にこだわる性格に起因
自己管理ができるという自負から他人に助けを求めない
ヘロイン常用者の依存症進展と道筋は同じ
耐性 -> 離脱症状 -> 渇望 -> 再発
不確実性の快感
初期成功説: 最初に勝ちを経験することが重要とする説(以下)
初めてカジノに行った人が何度かブラックジャックに賭けたとき
最初の5回で続けて負けたら
失望して帰ってしまう
二度とやろうとは思わない
最初の1,2回買った場合
ギャンブル行動が正の強化を受ける
快感の目標値としてより高い刺激を求めていく
初期成功説は間違っているか、不完全
実際ギャンブル好きの多くは初期成功体験を持っていない
宝くじを買わずにいられないという人の大半は一生一等を当てることはない
脳はもともとある種の不確実性に快感を見出すようにできている
行動を引き起こす刺激は、それ自体本能的あるいは人工的に快をもたらすもの(セックスや食べ物や薬物)である必要はなく、どんな音でも匂いでも色や形でも記憶でも快感と結びつけられれば、それ自体が快い刺激となりうる
一旦成立した連合学習の内容が現実と合わなくなり、新しい経験で書き換える必要があるという場面はよくある
= 予測誤差の計算
予測誤差: 起こると予測されることと実際に起きたこととのズレ(定式化すると以下)
ドーパミン・ニューロンの反応(報酬の予測誤差を信号化したもの) = 実際の報酬 - 予測された報酬
猿の実験から
VTA標的領域の快感回路は徐々に活性化するのは
スロットマシンやルーレットが回るのを見ている時間
ブラックジャックのカードがめくられるのを待っている時間
むしろ見返りの不確実性そのものが快感を導く
進んでリスクをとろうとする神経系は進化上も適応的だったとするシナリオが提案されている
このような神経系を持つ動物は重要な出来事に直面した時により確実な予測因子が見つかるまで判断を保留する能力を持つ
人類の祖先では狩猟をするオスの方が採集をするメスよりもリスクを取ることに適していた可能性がある
脳が報酬の価値を調整する
猿はシロップの報酬が与えられるかどうかわからないときにドーパミンの快感が維持された
しかし、人間には計画や判断を導く前頭葉皮質があり、この仕組みが不確実性に大きく影響していると思われる
シロップは自然な報酬
お金は抽象的な存在
それでも報酬たり得る
人間は「こうなっていたら」という非現実の可能性に影響される
惜しい負け(ニアミス)に関係する非合理的な考え方もある
負けは負けでも惜しい負けとして記憶される
ギャンブルを続けさせる要因となることが証明されている
実際スロットマシンを最大限に続けさせるニアミスの最適頻度は約30%
サイコロや宝くじなどの純粋な確率ゲームでは当たりの確率は賭けをする人自身が当たり外れの過程に直接関わるか否かに関係しない
根本的にはランダムな事象であっても賭ける人自身が個人的な関わりを持つ方が、賭け金も継続率もアップする
ギャンブル依存症者も快感に鈍感
ギャンブル依存症者ではドーパミン系が鈍化しているという仮説を支持する研究結果が出ている
ゲームが引き出す快感
ビデオゲームという全く自然とかけ離れていて本来的な報酬など一切ない行動が、快感回路をある程度活性化させる
目的達成や個人的関与に関係するごく一般的な快感を引き出すのかもしれない
解釈は難しいが男性の方が快感回路の活性化レベルは高い
ゲームの特性によるのかも?(実験では陣地獲得みたいなゲームをしたが、テトリスみたいなパターン認識と反射のゲームなら性別による差はないのでは?)
人間はどんなものでも報酬にできるのか
第6章 悪徳ばかりが快感ではない
ランナーズハイ
好きで自分からする限り、エクササイズは長期的な精神機能の向上に繋がる
老化に伴う認知機能の低下を遅らせるためにできる最善策
劇的な抗鬱効果もある
脳に多くの変化をもたらす
脳の毛細血管を伸ばす・分岐させる
一部の神経の樹状突起を幾何学的に複雑にする
BDNFという大切なタンパク質のレベルを高める
短期的(1〜2h)な効果
急性の不安の解消
痛みの閾値が上がる
体内を巡るベータエンドルフィンは血流と脳を隔てる脳関門を全く通過できない
血液中のベータエンドルフィンがランナーズハイをもたらしているとしたら脳関門を通過するメッセンジャーとなる他の化学物質のレベルがベータエンドルフィンにより高まるはず
脳内で合成され、脳関門を通過しなくても多幸感を生み出す別のタイプのエンドルフィンもある(エンケファリン)
エンドルフィンとエンケファリンは合わせて内因性オピオイド
長時間のランニングは脳内、特に前頭前皮質と前帯状皮質と島のオピオイドの増加と関連することがわかった
激しい運動は短時間の多幸感をもたらす
身体的な痛みと感情的な痛み
快も痛みも人間の心の動きの指針となり、美徳へも悪徳へも導いてくれる
しかし痛みと快は一本の棒の両端ではない
愛の反対が憎しみではなく無関心であるのと同様に、快の反対は痛みではなく倦怠、つまり感覚と経験への興味の欠如である
痛みの感覚的・識別的経路は視床の外側部、つまり正中から離れた部位を走り、触覚や筋の感覚に関係する皮質(一次体性感覚野)に通じている
痛みの情動感覚に関わる経路は視床内側部を通り、島と前帯状皮質という2つの情動中枢に達している
視床外側部の経路にのみ損傷を受けた人は痛覚刺激に対して不快感を報告するが、刺激の具体的な性質を表現したり痛む場所を特定したりできない
反対に内側だけに損傷を受けると痛覚失象症と呼ばれる状態に陥る(痛覚刺激の質や場所はわかるが感情的な痛みを伴わない)
心の痛み・苦痛に満ちた社会は単なる比喩ではない
グループから除外される、ゲームで仲間に裏切られるなどすると視床の内側部が活性化する(外側は活性化しない)
つまり心の痛みは身体的な痛みと共通する部分を持つ
痛みと快感回路
VTAニューロンからのドーパミン放出は、痛覚刺激によっても引き起こされる
VTAには2種類の回路が存在している
これまで論じてきた古典的な快感回路
他方はサリエンス回路。快感刺激でも痛覚刺激でも活性化し、情動反応と密接に結びついている
※ サリエンスは顕現性・目立つという意味
「痛みも何らかの快なのか?」の答えははっきりしない
短期間の痛みは必ず終わるものであり、その時の痛みからの救済という体験はそれ自体、快である
長期的・慢性的な痛みでは話は違ってくる
ストレスホルモンの働きで脳の快感回路に長期的な変化が現れる可能性は高い
その状態に痛みを加えると内側前脳に「スーパーサリエント」反応が生じる
一部の人々でのSM趣味やチリペッパーを山盛りにして味わうなどの嗜好へ(確証はないが魅力的な仮説)
瞑想状態の脳
瞑想はスピリチュアルな実践と結びつくことが多い
シャニーダ・ナタラージャ著「至福の脳」での定義
(1) 明確に定義されていて伝授が可能な特定の技法による(シャワーを浴びながらぼんやりしている状態は瞑想ではない)
(2) 筋肉が徐々に弛緩していく
(3) 論理的処理が低下する
(4) 自分自身で誘導する(したがって薬物や催眠術を利用するものは含まない)
実際に上記に当てはまる瞑想技法はきわめて多い
禅の瞑想は「考えないことについて考える」という目的を持つ
心の注意は働かせる
そのために決まった座り方で、目は開いている
心を感覚世界から遮断して夢想的な状態に入ることは勧められない
仏教の慈悲の瞑想
自己中心的な傾向を消し去り、最終的には生きとし生けるもの全てに対する慈悲心を感じることを目指す
神秘体験
忘我的な心霊体験や神秘体験
神秘体験の回想中は前帯状皮質と眼窩前頭皮質、前頂皮質の一部が活性化するが快感回路では差分は見られない
熟練の俳優は過去の感情的体験を思い出すだけでその感情に関連する脳の部位の活性化を引き出せる
しかし、幸福感を伴う体験に関しては記憶の想起でオーガズムや恋に落ちるときの状態の再現はできない
慈悲の快感
強制課金よりも自発的寄付の方が活性化率が高い
与えること自体が快感だとしたら「純粋な愛他主義」というものは実は存在しないのではないか?
生来の高潔さから快感を得ているだけ
社会的評価を受ける快感
社会的評価を受けることでも快感を得られる
社会的に最もポジティブな効果 = 金銭的報酬獲得と同じ活性化パターン
隣人との比較が快感回路に影響する
自己評価は絶対的な尺度ではなく周囲との比較
情報そのものが快感を導く
私たちは情報を後ではなく今すぐ知りたい
未来についての情報はそれ自体が快感を生み「出す」
観念は薬物依存症と似たところがある
快感を変容させる人間の能力
観念をして快感回路を働かせる = スーパーパワー
感覚的な経験や心の中の状態というのは脳の中ではニューロンの活動の特定のパターンとして表れる
この活動パターンがニューロンの機能、特に電気的機能を変化させることがある
第7章 快感の未来
※予測に関する内容が大半なので割愛
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