ディープ・プラクティス
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定義
スキル: 体格に依存しない反復可能な行為
? 人間のスキルに共通する動作原理は何か
スキルは神経学的なメカニズムによる
小さなインパルス(神経回路を流れる電気信号)を伝える一連の神経繊維から成り立つ
? ミエリンの主な役割は何か
銅線を覆うゴムの絶縁体と同じように神経繊維を覆い、インパルスの放出を防いで信号をより強く、速くすること
※ ミエリンは感知できない
? 才能のソースコードの3大構成要素は何か
ディープ・プラクティス・点火・一流の指導
? ディープ・プラクティスとは端的に言うとどう言うことか
情報を受動的に受け取るのではなく自ら信号を発するようにより深く練習すること
※ 記憶はテープレコーダーのようなものではなく生体構造(都度作られる)
? スイートスポットとは何か
最も有効な結果を残せる点
失敗をスキルに変えることのできるてこの力点とも言うべきものである
現在の能力よりも少し上の目標を設定し、苦しいと感じる練習を重ねることで発見できる
従来の考え: 才能は砥石とナイスの関係に似ていて、生まれつき才能という頑丈な刃がなければ役に立たない
新しい考え: 練習が刃そのものを鋳造する手段となりうる
全ての行動は神経繊維を伝わる電気信号(インパルス)の結果
基本的に人間の脳はシナプスで接続された神経という千億もの電線の束である
? スキルを自動化し、潜在意識にしまいこむことは自動性と呼ばれるプロセスだが、これと進化の関わりについて解説せよ
潜在意識で処理できる情報が多いほど生存の確率が高まるため、自動性が発達するように進化した
猛獣との遭遇を未然に防ぐための危険察知などに有利に働く
天才固有の細胞型というものは存在しない
? 猿が人間と同じタイプのニューロンと神経伝達物質を持っているにもかかわらず、人間のように言葉を話せないのはなぜか
人間のミエリンの方が20%多いから
ネアンデルタール人がクロマニョン人に駆逐されたのもミエリン量の差である
? 馬は生まれた直後に歩けるのに人間はなぜ1年もかかるのか
馬は先天的にあらかじめ筋肉と回路が接続され、ミエリンでの神経繊維の舗装も済んでいていつでも機能できる状態であるため
人間の赤ん坊の筋肉はミエリン化するのに1年ほどかかり、訓練をしなければ回路は最適化されない
遺伝子は宇宙のトランプではない
極めて精巧な機械(即ち人間)を組み立てるための進化によって証明された取扱説明書である
設計や組み立てには非常に手間がかかるが基本的には単純
遺伝子がまつ毛はこうしろ、足の爪はああしろと細胞に指示をする
ただし、行動に関しては独自の設計課題に直面する
世界はあらゆる種類の危険が存在しているため機転や才覚が重要
それに合わせて行動(スキル)は素早く変化しなければならない
本能の回路を形成する指示は非常に単純
X → Y
腐った匂いを嗅ぐ → 嫌悪
虎を見る → 恐怖
? 上記を鑑みてスキルが遺伝子ない理由を説明せよ
高度なスキルはミリ秒単位のタイミングで機能する無数のニューロンの繋がりによって構成されている
こういったことをあらかじめ遺伝子に組み込むことはコストパフォーマンスが悪い
単に回路が複雑でリソースが必要なので他の設計特性が割を食ってしまう
運を天に任せなければならないという不確実性がある
1850年にソフトウェアの天才プログラマーを生み出しても役に立たず、天才鍛冶工は現在には不要
つまり高度なスキルのためにあらかじめ無数の配線を設計することは遺伝子にとっては馬鹿馬鹿しい上に高くつく賭けである
結果、ヌクレオチドにピアノを演奏したりゴルフのスウィングを技巧的に行うといったスキルを先天的に行えるような設計が書き込まれることはない
? スキルの設計戦略として人間の脳がとっているのはどんな方式か
特定のスキルの配線を組み込むのではなく、遺伝子が無数の小さなブロードバンド・イントーラーを作成、それを脳の回路全体に流通させる
インストーラーの働きは単に神経繊維をミエリンで覆うだけ
インストーラーを作動させる条件は、回路が多く緊急に発火すること
? 優秀なチェスプレイヤーの多くは写真のような正確な記憶を持っているわけではない。にも関わらず、普通のプレイヤーの4〜5倍もの駒の配置を記憶できるのはなぜか
優秀なプレイヤーは個々の駒ではなく全体のパターンを認識しているため
実際のゲームのパターンではなく駒を全くでたらめに配置すると優位がなくなる(通常のプレイヤーと変わらなくなる)
? 上記のテクニックの呼称と概要を答えよ
チャンキングと呼ばれるテクニックである
通常のプレイヤーは各駒をバラバラのアルファベットとして見ていたのに対し、優秀なプレイヤーはそれらの文字をいわばチェス の単語、文章、文節にまとめていた
自然言語で言うと以下は同じ文字が使われているが、ネイティブの話者が前者を理解しやすいのと同じ理屈
「私たちは 火曜の朝に エベレストに 登った」
「たっ登に トスレベエ に朝の曜火 はちた私」
ネイティブの話者は文字の形を学び、上から下へと呼んで文節という意味を持つかたまりに分割し、さらにそれを文章という大きなまとまりにグルーピングし、自由に扱い、移動させ、理解し、記憶することができる
前者はネイティブの人間であれば「火曜の朝」「エベレスト」「登った」の3部に瞬時に大別できるが、後者はそういったチャンキングができないから理解しにくい
人間の脳回路は人の真似をするようにあらかじめ配線されている
自分を傑出した人物と同じ状況に置き、彼らのこなしたことをそのままやればスキルは大きく向上する
真似は意識的にする必要はなく、多くの場合無意識に行われる
? 1日に可能なディーププラクティスの量には世界共通の限界があると考えられているが、それはどの程度か
アンダース・エリクソンの研究によればピアニストやチェスプレイヤー、小説家、アスリートなどその分野での第一人者が練習に費やす時間は1日に3〜5時間程度
著者が訪れた才能のホットスポットでもほとんどが1日の練習時間は3時間以下
? 1954年にロジャー・バニスターが人類史上初めて1マイルを4分以下で走ったが、その後1マイル4分を切るランナーが続出したのはなぜか
それを「自分にもできる」という信号として受信し、踏み石にしたから
「点火」と呼ばれるプロセスである
? レッスン開始時の各個人の意識が、レッスンの内容や練習時間よりも重要なのはなぜか
演奏予定期間の長さが上達速度と正の相関関係にあるから
それが長期(長く続けていくつもり)である場合、上達速度も比例して上がる
その上意識で練習時間が増えれば相乗効果が見られる
? スクルージの法則について説明せよ
刷り込みによって意識が変わって、問題に取り組む姿勢が変わるようになることを説明する法則である
e.g.
学生に雑誌の記事を見せる
そのうちにネイサン・ジャクソンという学生の談話を掲載する
大学入学時は特に就きたい職業などはなかったが、数学に興味を持ち始め、現在は数学科で着々とキャリアを築いているという内容である
そこに記載されているジャクソンのプロフィールを、それぞれの学生の誕生日と同じ日に設定しておく
その後、絶対に解けない数学の問題に学生がどう取り組むかを観察すると、誕生日が一致するグループは問題に積極的に取り組み、解答にかけた時間は65%も長くなった
その上、この学生たちは自身の意識が変わったことに気付いていなかった
※ 上記のような伝達の仕方であるから効果が出たのであって、直接同じ情報を伝えていたらそれほど効果はなかったと考えられるため、「刷り込み」という表現をしている
? 点火の例示を何点か示せ
百科事典で説明にページの半分が割かれているレベルの著名人をリストアップする(カエサルやナポレオン、イギリスの首相経験者15名やジョンFケネディなど)
その家系図を見ると早くに親を亡くした人物であるという共通点がある
この喪失が即ち点火であると考えられる
歴代の陸上男子100m世界記録保持者を10人ほどリストアップする
その出生順位を見てみると第一子(長男)は0、出生順位の真ん中より上は1人しかいない
体の大きな兄や姉から何度となく送られる「お前は遅れを取っている」という信号が、点火と考えられる
予算が潤沢で設備が充実している音楽教室と、それよりは劣る環境であり、かつ抽選で当選したものしかは入れないできないが音楽教室であれば後者の方がプログラム的には成功する
後者のプログラムでの当選という結果が「特別なグループのメンバーに選ばれた」という合図になっていると考えられ、これが点火に相当する
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