AIが著作物を勝手に学習することに対し、権利者がNOと言える範囲|弁理士田中智雄
AIが膨大なデータを学習して賢くなるプロセスは、技術革新の象徴であると同時に、クリエイターにとっては自分の「作品」という財産が勝手に使われるという、極めて複雑な問題を孕んでいる。
1. 権利者側の主張:憲法29条(財産権)
「私の作品は、私の努力の結晶であり、私の財産だ」
財産権の核心: 憲法29条は、個人が自らの知的な産出物をコントロールし、そこから経済的な利益を得る権利を保障。
AI学習への懸念: AIが自分の絵や文章を無断で学習し、似たような成果物を生成できるようになれば、元の作品の市場価値が下がり、クリエイターの「財産」が実質的に侵害される。
「乗り乗り」の問題: 他人の財産(データ)をタダで利用して、AI企業が巨額の利益を得ることは、29条が守ろうとしている「公正な財産権のあり方」に反する。
2. 利用・開発者側の主張:憲法21条(表現の自由・知る権利)
「新しい技術による情報流通は、社会全体の知る権利を豊かにする」
表現の自由・知る権利: 憲法21条は、情報を収集し、それを元に新しい表現を生み出す自由を保障。AIの学習は、いわば「情報の超高速なインプット」であり、それ自体が知的な活動の一環。
イノベーションの促進: もし学習に一点一点許可が必要になれば、情報の流通は滞り、社会全体の「知る権利」や「新しい表現ツールを享受する権利」が阻害される。
公共の福祉: 新しい技術が社会を便利にし、文化を発展させることは、憲法が目指す「公共の福祉」に合致するという考え方。
3. 具体的な例:イラストレーター vs 画像生成AI
あるプロのイラストレーターが10年かけて磨き上げた「独特のタッチ」があるとする。
AIの行動: AIはそのイラストレーターの過去作1万点を数分で学習し、そっくりの絵を無料で生成できるようになる。
イラストレーターの視点(29条): 「私の絵の個性を盗んで、私の仕事を奪うのは、財産権の侵害だ。せめて学習にNOと言わせてほしい。」
AIユーザー・開発者の視点(21条): 「AIは個々の絵をコピーしているのではなく、特徴を学んでいるだけ。誰でも自由に新しい表現を楽しめるツールを制限するのは、文化の発展を妨げる表現の自由への制約だ。」
4. 日本の「落とし所」:著作権法30条の4
現在の日本の法律は、世界的に見ても「AI学習にかなり寛容」な作りになっている。
原則(AIに有利): 「情報解析」のためであれば、著作権者の許可なく作品をAIに学習させてもよい(著作権法30条の4)。
例外(権利者に有利): ただし、「著作権者の利益を不当に害する場合」はダメだとされている。
「不当に害する場合」の解釈。
例えば、「特定の作家の絵を生成するためだけに、その作家の絵だけを集中的に学習させる」といった行為が、財産権の侵害(不当な利益侵害)にあたるかどうか。
クリエイター  努力の報酬・排他的コントロール  29条(財産権)   学習拒否権(Opt-out)の確立
AI開発者・社会 技術革新・情報アクセスの自由   21条(表現の自由) 学習の自由の確保・公正な利用
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