AIが他者の著作権や特許権を侵害する出力を生成した場合の責任論|弁理士田中智雄
AIを「道具」として使った人間は間接正犯になるのか?
AIに反対動機の形成は認められないため、開発者や利用者の意思支配をどう評価するか。
侵害を予見しながら対策を講じなかったプロンプト入力者やプラットフォーマーの「不作為による侵害」の可能性
1. AIを「道具」とした間接正犯論
間接正犯は、他人を道具として利用する場合に成立。AIは人間ではないため、理論的には道具に過ぎない。
意思支配の評価:プロンプトが「命令」になる時
AIには「これが犯罪(侵害)だ」と気づいて思いとどまる反対動機の形成が不可能。そのため、利用者がAIの出力をどの程度コントロールしていたか(意思支配)が鍵。
ケース:意図的な「キャラ絵」の生成
状況: 利用者が、特定の人気キャラクター(著作物)に酷似した画像を出すために、そのキャラ特有の特徴(髪型、服装、アイテム)を詳細に指定し、既存の画像を読み込ませる。
評価: AIは単に計算機として従っただけ。利用者が侵害結果を確定的に認識し、AIを操って実行させたと言えるため、著作権法違反の正犯としての責任を問われる可能性。
2. 開発者・プラットフォーマーの「不作為による侵害」
「何もしなかったこと」が罪になる不真正不作為犯の理論は、侵害を放置したプラットフォーム側に適用されるのか?
保障人地位の発生と「作為義務」
プラットフォーマーが処罰されるためには、「侵害を止めるべき法的義務」があるかが重要。
ケース:侵害が予見可能な「LoRA」配布サイト
状況: AIモデルの追加学習データ(LoRA)を配布するサイト運営者が、特定の漫画家の絵柄や特許技術を完全に再現するモデルが大量にアップロードされ、侵害が横行していることを知っている。
評価: 侵害の場を提供し、利益を得ている以上、一定の管理義務(フィルタリング導入等)が生じる可能性。
作為の容易性: 技術的にハッシュ値でのブロックやキーワード制限が可能であるにもかかわらず、放置した場合。
不作為による幇助: 「何もしないこと」が、侵害者を物理的・精神的に助けているとみなされ、著作権法違反の幇助犯に問われる余地がある。
3. 特許権侵害への適用:より高度な意思支配
特許の場合、プログラムのコードや回路図、化学式などの出力が問題。
利用者 競合他社の特許公報を入力し、「これを回避しつつ同じ効果を出す設計図を作れ」と命じた 特許法違反の間接正犯(侵害を目的とした道具としての利用)。
開発者 学習データに明らかに他社の非公開技術や特許情報が含まれていることを知りながら、無制限に出力させた 不作為による侵害(または背任)の可能性。
4. 過失と故意の境界線
刑法は故意が原則必要。AIの場合、「たまたま似てしまった(過失)」のか、「AIの特性を理解した上で、あえて侵害させた(未必の故意)」のかの立証が困難
AIを使ったから責任を逃れられるわけではない。特に、AIの挙動をある程度予測できる開発者や高度な利用者ほど、侵害の予見可能性が高いとみなされ、不作為の責任を問われやすくなる。
#刑法