越境ECの売上金差し押さえ|弁理士田中智雄
Amazonや楽天などのプラットフォームで知財権侵害品を販売している海外業者が利用している日本のプラットフォームが、海外業者に対して支払うべき「売上金(債権)」をターゲットにした仮差押え。相手が匿名でも、店舗URLやアカウント情報から「第三債務者(プラットフォーム)」を特定し、送金を凍結する。
1. シナリオ:偽ブランド品を売る海外業者C社
【状況】
中国に拠点を置くC社が、日本の大手ECサイト(例:Amazon.co.jp)で、商標権を侵害する安価な模倣品を大量に販売。
中国の会社を相手に訴訟を起こしても、書類の送達だけで半年以上かかり、勝訴しても中国で執行するのは至難の業。
日本国内でC社が手に取るはずの「売上金」を、支払われる前に凍結(仮差押え)。
2. 「売上金差し押さえ」のメカニズム
ECサイトの運営会社を第三債務者として巻き込む。
債権の特定:
C社(債務者)は、Amazon(第三債務者)に対して「売上から手数料を引いた残金を支払え」という売上金払戻請求権を持っている。
仮差押命令の申立て:
権利者(債権者)が裁判所に申し立て、「AmazonはC社にお金を払うな」という命令を出してもらう。
送達と凍結:
裁判所からAmazonに命令書が届いた瞬間、AmazonはC社への送金をストップ。
3. 手続きのステップと実務
1. 調査    セラープロフィールの特定    運営主体の特定(特定商取引法に基づく表記など)。
2. 保全申立て 証拠を揃え、仮差押命令を地裁へ 商標侵害の明白性と「保全の必要性」を疎明。
3. 執行(凍結)プラットフォームへ命令送達   「抜き打ち」で口座(売上金)をロック。
4. 本案訴訟  損害賠償請求訴訟を提起     凍結したお金を「人質」に有利な和解へ。
4. なぜこの手法が「最強」なのか
国内で完結する:
相手が海外にいても、第三債務者(Amazonジャパンなど)が日本法人であれば、日本の裁判所の命令が100%効力を発揮。
即効性のあるダメージ:
海外業者にとって、キャッシュフローが止まることは死活問題。多くの場合、差し押さえられた直後に「話し合いたい(和解したい)」と連絡が来る。
確実な回収:
判決を得た後、仮差押えを「本差し押さえ」に移行すれば、プラットフォームから直接、賠償金を回収。
5. 注意点:プラットフォームの多層化
決済代行会社(ペイメントサービス)が間に入っているケース。
第三債務者の見極め:
Amazon本体に差し押さえをかけるべきか、それとも決済を司るグループ会社にかけるべきか。
海外送達の壁:
命令自体は国内のプラットフォームに届ければ有効だが、債務者本人(海外)への「事後的な通知」も必要。時間がかかるため、その間の「担保金の維持」などの資金計画が重要。
まとめ
「越境ECの差し押さえは、国境を越えて追いかけるのではなく、相手が必ず通る『関所(プラットフォームの支払い)』で待ち伏せする戦略である。デジタルな売上金を法的な鎖で縛ることで、物理的な距離を無効化できる。」
#民事保全法