動産執行の現場と「模倣品対策」のリアル|弁理士田中智雄
前東京税関知的財産調査官の模倣品対策の実務考察
倉庫に眠る大量の「デッドコピー(侵害品)」を一掃したいとき、動産執行の「目的物を特定しなくてよい」というルールは、債権者(権利者)にとって最強の武器になる。
通常、不動産なら「地番」、債権なら「銀行名と口座番号」が必要だが、動産は「場所」さえ決めれば、中身は現場で決める「出たとこ勝負」が許されている。
1. 現場での特定:執行官と「権利者の目」の連携
動産執行の申立てでは「〇〇市〇〇町 債務者所有の倉庫内にある動産一切」といった抽象的な指定で足りる。しかし、現場には侵害品だけでなく、無関係な備品や他人の荷物も混在している。
執行官の役割: 公権力を持って立ち入り、動産に「赤紙(封印)」を貼る。ただし、執行官は知財の専門家ではないため、どれが「侵害品」でどれが「正規品」かの区別はつかない。
実務の勘所: 弁理士が「立会人」として同行。現場で「この型番が意匠権を侵害しているものです」と一点ずつ指摘し、執行官に特定させる。
証拠固めとしての側面: 執行官が作成する「差押物目録」は、公文書として「その日、その場所に、これだけの侵害品が存在した」という強力な証拠になる。
2. ビジネス現場における「差し押さえ禁止動産」の攻防
動産執行には「生活や仕事に欠かせないものは差し押さえられない」というルール(民事執行法131条)がある。これがビジネス現場では非常に厄介な論点になる。
侵害品(在庫)の差し押さえ可 売り物(商品)であり、生活・業務の「道具」ではないため。
PC・サーバの差し押さえは原則不可 「技術者、職人、労務者等の業務に欠くことができない器具」とみなされることが多い。
製造金型の差し押さえは微妙 その金型自体が侵害品を生む「元凶」であっても、業務に不可欠な道具として争われる可能性がある。
侵害品を差し押さえるだけでなく、その「製造設備」を止めたい場合は、通常の動産執行(金銭債権のため)ではなく、意匠法や商標権に基づく「侵害行為を組成した物の廃棄請求権」を債務名義として執行する必要がある。
3. 知財の視点:廃棄請求権の「実効性」をどう担保するか
意匠法や商標法には、侵害品の「廃棄」を求める権利があるが、これを強制執行するのは実は難易度が高い。
「代替執行(だいたいしっこう)」の活用:
「被告は侵害品を廃棄せよ」という判決が出ても、被告が無視する場合、原告が裁判所に申し立てて「執行官(または第三者)に廃棄させる」許可を得る(民訴法171条)。
在庫の「蒸発」への対策:
廃棄の判決を待っている間に在庫が転売されては意味がない。そのため、本訴の前に「占有移転禁止の仮処分」を行い、現場の在庫を物理的にロックしておくことが、最終的な廃棄の実効性を高める鍵となる。
4. まとめ:プロの戦術
「動産執行の真の価値は、回収できる金額そのものよりも、現場に踏み込んで『侵害の現場』をフリーズさせ、相手の供給ラインを物理的に遮断する心理的・実務的インパクトにある。」
日々在庫が変動するウェブ販売の拠点などでは、この「特定不要」のルールを活かした抜き打ちの執行こそが、最も効果的な模倣品対策となる。
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