企業が発明を承継する際、発明者に支払う「相当の利益」をどこまで低く設定できるのか|弁理士田中智雄
憲法29条1項は「財産権は、これを侵してはならない」と定めている。発明という知的な産出物も財産。
原則: 発明をした個人(従業者)に、その特許を受ける権利が原始的に帰属。
制限: しかし、企業が設備や資金を提供して行われた「職務発明」については、特許法35条により、企業がその権利を承継できる仕組み。
企業が個人の発明を「取り上げる」ことは、29条の財産権侵害にならないのか? 答え: 29条2項の「公共の福祉に適合するように法律で定める」に基づき、産業の発達という公益のために制限が許容。ただし、その代償として「相当の利益(対価)」を支払うことが、憲法上の財産権保障の「最後の砦」。 2. 憲法25条(生存権)・27条(労働権)との関係:対価の「質」
生存権(25条)は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障。27条は「労働条件の基準は法律で定める」。 トピック: もし「発明の対価は一律1万円」といった社内規定があった場合。
憲法視点: その発明によって企業が数百億円の利益を上げたのに、発明者への還元が「お小遣い程度」であれば、それは労働に対する正当な評価を欠き、発明者の人間らしい生活や意欲(個人の尊厳)を損なう。
生存権的アプローチ: 単に「飢えさせない」だけでなく、その貢献に見合った「文化的・経済的な豊かさ」を享受する権利の基盤として、正当な対価が機能。
3. 具体例:青色LED裁判(中村裁判)
状況: 中村修二氏が画期的な発明をしたが、会社から支払われた報奨金はわずか数万円。
争点: 会社側は「社内規定に従った」と主張。中村氏は「発明の価値に見合っていない」と反論。
結論: 一審では「200億円」という対価、最終的に約8.4億円で和解。
憲法・法律の動き: 特許法35条が改正。「あらかじめ社内規定で決めておけばOK(ただし、手続きが不合理であってはならない)」という、企業の予測可能性(経済活動の自由)と発明者の権利の新しいバランスが模索。