ドメイン名やSNSアカウントの「その他の財産権」執行|弁理士田中智雄
不動産でも動産でもない、デジタルアセットの執行。
シナリオ: 侵害サイトの運営者が賠償金を支払わないが、価値のある「ドメイン名」や、フォロワーの多い「SNSアカウント」を保有している。
論点:
ドメイン名の登録移転請求権を「その他の財産権」として差し押さえ、競売(または特別換価)にかける手続き。
レジストラ(第三債務者)に対する送達と、管理権の奪取。
1. 執行の「ターゲット」をどう特定するか
ドメインやSNSアカウントには、不動産登記のような公的な名簿がない。そのため、以下の「契約上の権利」を差し押さえる。
ドメイン名: 債務者がレジストラ(お名前.comやGoogle Domains等)に対して持っている「ドメイン名登録維持請求権」
SNSアカウント: 債務者がプラットフォーム(XやMeta等)に対して持っている「アカウント利用契約上の地位」
2. 具体的なシナリオ:商標権侵害サイトの奪取
例えば、クライアントが「商標権を侵害している偽ブランド販売サイト」を見つけ、損害賠償判決(債務名義)を得たとする。
差押命令の申立て:
裁判所に対し、レジストラ(第三債務者)へ「ドメインの管理権を債務者に移したり、解約させたりするな」という命令を出してもらう。
譲渡命令(転付命令に近いもの)の活用:
ドメインはお金ではないので、そのままでは回収できない。そこで、裁判所に「譲渡命令」を出してもらい、ドメインの登録者名義を強制的にクライアント(債権者)へ書き換えさせる。
サイトの制圧:
ドメインの管理権を手に入れれば、DNS設定を変更してサイトを閉鎖したり、「このサイトは差し押さえられました」という告知ページに差し替えたりすることが可能になる。
3. 実務上の「3つの壁」
場所の壁:レジストラが海外法人の場合、日本の裁判所の命令が届かない(執行力が及ばない)。国内レジストラを使っているか、WHOIS情報を事前に精査する必要がある。
規約の壁:SNSの利用規約で「アカウントの譲渡禁止」が明記されている。裁判所の命令は規約に優先するが、プラットフォーム側が技術的に対応してくれないリスクがある。
価値の壁:そのアカウントに「換価価値」があることをどう証明するか。フォロワー数や広告収益の実績などを資料化し、裁判所に「財産」として認めさせる必要がある。
4. 弁理士視点での「攻め」の戦略
この執行手続きは、単なる金銭回収以上の「攻撃手段」になる。
ドメインの「人質」化:
SEO評価が積み上がったドメインを差し押さえられることは、Web事業者にとって死活問題。賠償金を払わない相手に対し、「ドメインを奪う」というプレッシャーは、銀行口座の差し押さえ以上に効く。
SNSのID奪還:
なりすましアカウントを「削除」させるだけでなく、そのID自体を「正当な権利者」が乗っ取る(強制移転)ことで、フォロワーとの繋がりをそのまま維持する、といった高度な解決策。
まとめ
「デジタルアセットの執行は、実体のない『ID』や『URL』を、法的に『目に見える財産』へと翻訳して捕まえる作業である。」
#民事執行法