風力を始めとする再エネ事業と環境問題
現在、脱炭素政策を背景に風力発電事業が推し進められている。
近年多発している大災害からも分かる通り、地球温暖化は深刻さを増している。温室効果ガスを排出しないエネルギー源が求められている。
また脱炭素だけでなく、エネルギー安全保障の観点からも、他国に頼らないエネルギー源としての再生エネの需要も高まっている
ところが、近年その再生エネの一つである、風力発電の事業計画が相次いで頓挫している。
課題
相次いで風力発電事業が頓挫・難航している背景には、主に広義の環境問題への懸念と、地域住民との信頼関係の欠如の2つの要因がある。
広義の環境問題への懸念
これには自然環境への影響の懸念だけでなく、景観破壊や信仰対象への冒涜、感覚公害など、自然と文化の両面からの懸念がある。
景観破壊への懸念による反発があったのが、蔵王連峰での川崎ウィンドファーム事業、山形県羽黒山での山形県鶴岡市風力発電事業である。双方とも事業区域の山域が信仰の山であり、信仰対象への冒涜だという反発があった(1) 。
自然環境への懸念による反発があったのが、福島県の会津大沼風力発電事業と宮崎県石巻市の女川石巻風力発電事業である
会津大沼風力発電事業の事業区域には、鳥獣保護区や国指定天然記念物の駒止湿原など、多くの貴重な自然環境が含まれていた。
女川石巻風力発電事業は事業区域の大部分が風力発電導入に係る県全域ゾーニングマップにおける保護優先区域であったうえ、イヌワシの生息が確認され、事業が白紙に戻った。
地域住民との信頼関係の欠如
環境問題のうち、感覚公害は2つ目に挙げる「地域住民との信頼関係の欠如」につながる。
感覚公害は客観的に定量化することが難しく、住民の主観的な気持ちで判断される。 たとえデシベル値が小さかったとしても、住民がうるさいと感じたら騒音になる。そのため、事業に負の感情を抱いてしまったら、どうあがいても感覚公害を防げなくなる。 普段は気にしない景観でも、「ろくに説明もしないで風車を建てられた」という印象がつくと、不快なものになってしまう。
事業の利害関係者の選定ミスによるすれ違いもある。2020年7月、青森県・北海道北部の海域が洋上風力発電の有望区域に指定された。このとき利害関係者として、賛同派の根魚主体の漁協のみを加え、反対派の回遊魚主体の漁協を利害関係者に指定しなかった。 反対派には何の説明もなく事業が進められ、岩盤調査を進めていることが反対派に発覚したことで、反対派は反発を強めた。翌年2021年8月、反対派の漁協も利害関係者に加えられたが、その後1年以上経過しているのに評議会が開かれる気配は一向にない。
政府や関係機関の対策
政府は、セントラル方式を2025年度から実施を目指している。これは開発初期調査などを国が担う方法で、欧米などで導入・運用されている。事業者の開発調査コストの削減のほか、地域住民との利害調節などの効果がある。
結び
地球温暖化をはじめとした環境問題をこれ以上悪化させないためにも、日本国内の再生エネルギー事業を加速させる必要は言うまでもない。
一方で、脱炭素政策を傘に事業を加速させようとするあまり、地域住民との意思疎通がおろそかになり、逆に環境破壊を引き起こしてはいないだろうか。
地域住民は米共和党派のように脱炭素政策そのものに反対しているわけではない。事業の説明がなされなかったり、地元の自然環境や文化を軽視することに反発を覚えているのだ。
地域住民の理解醸成と合意形成を丁寧に進めることと、事業区域を単に経済性や実施の容易さで決めるのではなく、その土地の自然環境と文化的環境を十二分に理解することが求められている。
参考にしたニュース
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(1)筆者は、そもそもなぜ山岳信仰の地や国立自然公園に風力発電所を建設しようという発想ができたのか疑問である。
計画者の中で、自然環境や現地文化への配慮について指摘する人間が一人もいなかったのだろうか?
各事業者の資料を詳しく調べればわかるかもしれないが、ここでは割愛する。