転炉系製鋼スラグと粘性土を混合した地盤材料の固結挙動に及ぼす化学的性質と拘束圧条件の影響
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第5章 製鋼スラグ混合粘性土の固化に関する知見の整理
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本学術論文「転炉系製鋼スラグと粘性土を混合した地盤材料の固結挙動に及ぼす化学的性質と拘束圧条件の影響」について、以下にまとめます。
1. どんなもの?
本論文は、転炉系製鋼スラグ (converter steel slag)を粘性土と混合した製鋼スラグ混合粘性土 (steel slag mixed cohesive soil)を、安定的に固化しせん断強度を発現する固化地盤材料 (solidified ground material)として利用するための研究です。主な目的は、材料の化学的性質 (chemical properties)(粘性土の非晶質シリカ含有率 (non-crystalline silica content)と製鋼スラグの遊離石灰量 (free lime content))と、混合土の固化過程における**拘束圧 (confining pressure)の影響を明らかにすることです。これにより、材料の性質や拘束圧条件から、製鋼スラグ混合粘性土の固化によるせん断強度の経時変化 (time-dependent change)**を評価可能にすることを目指しています。
2. 先行研究を比べてどこがすごい?
先行研究の**カルシア改質土 (calcia-modified soil)に関する研究は、その固化の不確実性やせん断強度の経時変化 (time-dependent change)**に影響を与える因子が不明確という課題がありました。また、実際の浚渫土を用いた研究が多く、有機物などの固化阻害因子の影響が複合的に評価されていました。本研究の独自性と優位性は以下の点にあります。
**有機物をほとんど含まない粘性土 (cohesive soil with almost no organic matter)**を選定し、純粋に非晶質シリカ含有率の影響を分析的に検討しました。
養生期間を**336日 (48週)**まで設定し、これまでの研究より長期的なせん断強度発現傾向を分析しました。
**拘束圧 (confining pressure)**の作用や段階的な変化が製鋼スラグ混合粘性土の固化に与える影響を初めて検討しました。
**セメント改良土 (cement-improved soil)**の既往研究と比較することで、製鋼スラグ混合粘性土特有の挙動を明確にしました。
3. 技術や手法の肝はどこ?
本研究で用いられた主要な技術や手法は以下の通りです。
試料 (Samples): **転炉系製鋼スラグ (converter steel slag)**と、カオリン粘土、メタカオリン、木節粘土、川崎粘土、北九州浚渫土を含む様々な種類の粘性土を使用しました。間隙水には人工海水を使用しました。
材料の化学的性質の評価:
粘性土の**非晶質シリカ含有率 (non-crystalline silica content)を、無機および生物由来に分けて選択溶解試験 (selective dissolution tests)**で定量しました。
製鋼スラグの**遊離石灰量 (free lime content)をグリセリン-アルコール法 (glycerin-alcohol method)**で定量しました。
せん断特性の測定:
**一軸圧縮試験 (unconfined compression test)では、正確な変位計測のために局所変位計 (Local Deformation Transducer (LDT))**を設置しました。
**圧密非排水三軸圧縮試験 (consolidated undrained triaxial compression test)では、試験機への影響を考慮し海水分離機 (seawater separator)**を使用しました。
拘束圧条件下の養生: 供試体作製直後から一定の上載圧を作用させる**定圧載荷 (constant pressure loading)と、段階的に上載圧を変化させる段階載荷 (step loading)**の二つの条件で養生を行いました。
4. どうやって有効だと検証した?
本研究の有効性は、以下の方法と結果によって検証されました。
せん断強度の増加:**製鋼スラグ混合粘性土 (steel slag mixed cohesive soil)の一軸圧縮強さ (unconfined compression strength)と最大軸差応力 (maximum deviator stress)**が、養生期間が長くなるにつれて増加することを確認しました。また、**内部摩擦角 (internal friction angle)や粘着力 (cohesion)**の増加も評価されました。
化学的性質の影響の特定:粘性土の**非晶質シリカ含有率 (non-crystalline silica content)が高いほど、せん断強度が早期に発現するせん断強度発現傾向 (shear strength development tendency)**が見られることを明らかにしました。
拘束圧の促進効果:混合直後から**拘束圧 (confining pressure)**を作用させることで、**せん断強度 (shear strength)の増加が促進されることを示しました。この主な要因は、圧密による乾燥密度の増加 (increase in dry density)と含水比の低下 (decrease in water content)**であることを解明しました。
セメント改良土との比較:**セメント改良土 (cement-improved soil)**と比較して、製鋼スラグ混合粘性土は拘束圧を作用させた場合の強度増加効果がより顕著であることを示しました。
せん断挙動の概念化:**応力ひずみ曲線 (stress-strain curves)と応力経路 (stress paths)**の分析から、固化の進行に伴い、せん断強度の発現が摩擦から粘着力へと変化する概念を提示しました。
5. 議論はある?
本研究において、いくつかの議論点や未解明な側面が挙げられています。
非晶質シリカ含有率と長期強度:養生期間が短い場合、非晶質シリカ含有率が高いほど強度が大きい傾向が見られましたが、336日のような長期養生では、必ずしもこの関係が成立しない場合があることが示されました。
製鋼スラグの遊離石灰量の影響:従来のカルシア改質土 (calcia-modified soil)に関する研究では遊離石灰量が多いほど強度が増加するとされてきましたが、本研究で用いた約3.5%以上の遊離石灰量を有する製鋼スラグでは、せん断強度への影響は小さいという結果が得られました。
変形特性の解明:**初期変形係数 (initial deformation modulus)と一軸圧縮強さ (unconfined compression strength)**の関係が粘性土の種類によって異なることが示されましたが、その具体的な理由は現在のところ不明です。
有機物含有粘性土への適用性:本研究では**有機物をほとんど含まない粘性土 (cohesive soil with almost no organic matter)**を使用しているため、有機物を含む実際の浚渫土に本研究の知見を直接適用する際には、有機物が固化を阻害する影響を考慮する必要があります。
製鋼スラグ混合比率:研究は主に体積混合率30%以上で行われており、より低い混合率での挙動は今後の課題とされています。
6. 次に読むべき論文は?
本研究で示された**今後の課題 (future challenges)**を踏まえると、以下のような論文が次に読むべきものとして考えられます。
製鋼スラグの混合量の影響について検討するため、低混合率での研究を補完する論文。
**有機物を含む粘性土 (cohesive soil containing organic matter)**を用いた研究として、Toda et al. (2020) のような論文が挙げられます。これにより、有機物が製鋼スラグ混合粘性土の固化に与える影響について深く理解できます。
**カルシア改質土 (calcia-modified soil)の強度予測モデルの発展として、小門武ら (2020) の研究を読み、本研究で得られた長期せん断強度発現傾向 (shear strength development tendency)**や拘束圧の影響の知見をモデルに組み込む可能性を探るべきです。
**鉄鋼スラグ水和固化体 (steel slag hydrate solidified material)**に関する基礎研究として、松永久宏ら (2003) のような論文も、固化メカニズムの理解を深めるのに役立ちます。
用語集
転炉系製鋼スラグ (Converter Steel Slag): 粗鋼生産の際に生成される産業副産物で、カルシア改質土の改質材として利用される。
粘性土 (Cohesive Soil): 掘削工事から生じる泥状の掘削物や泥水である泥土のうち、産業廃棄物として扱われるもの、または一般の粘土を指す。カルシア改質土や製鋼スラグ混合粘性土の主要な構成要素。
製鋼スラグ混合粘性土 (Steel Slag Mixed Cohesive Soil): 転炉系製鋼スラグと粘性土を混合した地盤材料。固化によるせん断強度増加や底質浄化効果が期待される。
固化地盤材料 (Solidified Ground Material): 軟弱な地盤材料に固化材を混合することで、その強度を増加させ、安定化させた材料。
化学的性質 (Chemical Properties): 材料の化学組成を指す。本研究では特に粘性土の非晶質シリカ量や製鋼スラグの遊離石灰量に着目。
非晶質シリカ含有率 (Non-crystalline Silica Content): 粘性土中に含まれる非晶質(非結晶性)の二酸化ケイ素の割合。固化メカニズムにおいてカルシウムと反応し水和物を生成する。
遊離石灰量 (Free Lime Content): 製鋼スラグ中に未反応のまま残留する酸化カルシウム (CaO) の量。水和反応に関与するとされる。
拘束圧 (Confining Pressure): 土に作用する周囲からの圧力。地盤の深度や載荷条件によって変化し、材料の圧密やせん断強度に影響を与える。
経時変化 (Time-dependent Change): 時間の経過とともに物理的・化学的性質が変化する様子。本研究では特にせん断強度の増加傾向について用いられる。
カルシア改質土 (Calcia-modified Soil): 軟弱な浚渫土に成分管理・粒度調整された転炉系製鋼スラグ(カルシア改質材)を混合することで、強度増加や底質浄化などの効果を得た材料。
カルシウムシリケート系水和物 (Calcium Silicate Hydrate (C-S-H)): 浚渫土からのシリカと製鋼スラグからのカルシウムが間隙水中に溶出し、生成される水和物。カルシア改質土の固化メカニズムの主因とされる。
有機物をほとんど含まない粘性土 (Cohesive soil with almost no organic matter): 本研究で腐植物の影響を排除し、他の因子の影響を分析的に検討するために用いられた粘性土。
セメント改良土 (Cement-improved Soil): セメント系固化材を用いて安定処理された土。拘束圧がせん断強度に与える影響に関する先行研究で比較対象とされる。
一軸圧縮試験 (Unconfined Compression Test): 拘束圧を加えずに行う土の圧縮試験。土の一軸圧縮強さ (qu) を測定する。
圧密非排水三軸圧縮試験 (Consolidated Undrained Triaxial Compression Test): 飽和させた土供試体に対して等方圧密を行った後、排水を行わない状態で軸差応力を載荷する試験。土のせん断特性(せん断抵抗角、粘着力)を評価する。
選択溶解試験 (Selective Dissolution Test): 特定の化学成分を選択的に溶解させて定量する試験。本研究では粘性土中の無機および生物由来の非晶質シリカの定量に用いられた。
局所変位計 (Local Deformation Transducer (LDT)): 供試体の局部的な変位を直接計測するセンサー。特に剛性の高い材料や、小さなひずみ域での正確な変形係数測定に有効。
海水分離機 (Seawater Separator): 三軸圧縮試験において、人工海水のような腐食性のある間隙水を、試験装置の金属部分から隔てるための装置。
定圧載荷 (Constant Pressure Loading): 供試体の作製後、一定の圧力を加えながら養生する条件。
段階載荷 (Step Loading): 養生期間中に圧力を段階的に増加させる載荷条件。
せん断強度発現傾向 (Shear Strength Development Tendency): 時間の経過に伴うせん断強度の増加の速さやパターン。
乾燥密度の増加 (Increase in Dry Density): 圧密や固化によって土の間隙が減少し、乾燥状態での単位体積あたりの質量が増加すること。
含水比の低下 (Decrease in Water Content): 圧密や排水によって土に含まれる水分量が減少すること。
応力ひずみ曲線 (Stress-Strain Curve): 応力とひずみの関係を示すグラフ。材料の強度特性や変形特性を表現する。
応力経路 (Stress Path): 三軸圧縮試験において、せん断中の平均有効主応力 (p') と軸差応力 (q) の関係を図示したもの。材料のせん断挙動を視覚的に捉える。
初期変形係数 (Initial Deformation Modulus): 応力ひずみ曲線の初期段階における剛性を示す指標。
内部摩擦角 (Internal Friction Angle): 土のせん断抵抗を表す指標の一つで、粒子間の摩擦抵抗に由来する。
粘着力 (Cohesion): 土のせん断抵抗を表す指標の一つで、粒子間の結合力や粒子表面の吸着力などに由来する。
今後の課題 (Future Challenges): 研究で未解決の点や、さらなる発展のために取り組むべきテーマ。
#2025-08-14 16:03:56