2012 亀岡
非負値行列因子分解
亀岡 弘和
計測と制御 第51巻 第9号 2012 9月号
解説:特集 計測・センシングのアルゴリズム
実世界には,パワースペクトル,画素値,頻度,個数な ど,非負値で表わされるデータが多い.
主成分分析や独立 成分分析などの多変量解析では,所与のデータを複数の加 法的な成分に分解することを目的とするが,これと同様に 上述のような非負値のデータから構成成分を抽出すること が役立つ場面が多い.
たとえば,複数の音源の音響信号が混在する多重音のパワースペクトルから個々の音源のパワー スペクトルをうまく取り出すことができれば,雑音除去や 音源分離などに役立てることができるし,顔画像データを 目や鼻などの顔のパーツに該当する画像データにうまく分 解することができれば,顔認証や顔画像合成などに役立て ることができる.
また,文書データ (文書に出現する各単語の個数のデータ) から「時事」や「スポーツ」や「経済」と いった潜在的なトピックに該当するような単語ヒストグラムの構成成分をうまく取り出すことができれば,各文書に対し自動インデキシングを行うことが可能となり,文書検 索に大いに役立てることができる.
以上のように,非負値のデータを加法的な構成成分に分解することを目的とした多変量解析手法を非負値行列因子分解 (Non-negative Matrix Factorization; NMF) 1) といい,さまざまな分野で近年注 目を集めている.
本稿では,NMF の定式化,基本的な性質,アルゴリズムの導出方法,さまざまな視点からの解釈, おもに音響信号処理の問題に焦点を当てた改良・拡張のアイディアについて解説する