運動時の頭部冷却の効果について
運動時の頭部冷却の効果について
吉塚一典 1),松本直子 2),田川武弘 2)
1) 佐世保工業高等専門学校,2) 株式会社アシックス スポーツ工学研究所
本研究では,長距離走の暑熱対策として開発した新帽子の効果を検証することを目的に,4種類の帽子( 新帽子,ツバ通気帽子,メッシュ帽子,ノーマル帽子) の比較実験を行った.屋外走行時の帽子内環境を模擬するテストでは,帽子内温度の上昇が最も顕著であったメッシュ帽子の31.3℃に対し,新帽子は28.4℃と最も上昇が抑えられた.炎天下での屋外長距離走テスト(10000m 走,被験者8 名) においても,他3 帽子では被験者の鼓膜温が走行後に有意に上昇したのに対し,新帽子では有意な上昇がみられず,RPE も有意に低かった.また実走テスト時の被験者の主観的評価を見ても,新帽子は他に比べて熱のこもり感が少なく,頭部の涼しさに優れていた.さらに2019 年9 月のMGC レースにおいて新帽子を着用した選手達からも,通気性があり頭が涼しい,ムレが軽減されるという評価を得た.これらのことから,新帽子がランニング時の暑熱対策として有効であることが示唆された
頭部への送風の重要性について Germain et al.(1987)は,気温 24℃の環境下で顔面に 3.75m/sの送風を行うことで鼓膜温が 0.7℃低下したこと, Cabanac et al.(1979)は,頭部をフードで覆って風を遮ると鼓膜温が上昇し,ごく軽い運動しかできなくなることを報告している.
Hamada ら(2006)は,実験室内の自転車運動時に顔面に送風を行うことで快適性が増大すること,Kissen ら(1971)は,高体温時に送風その他の方法で頭部を冷やすと,同じ体幹部温であって も温熱的な心地よさが増大して最大仕事量が増えるなど,頭部への送風の有効性を報告している.