荒俣宏サンの「南方熊楠」ブックガイド
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荒俣宏サンの「南方熊楠」ブックガイド
2017/5/9
日曜日の新聞書評、朝日新聞、荒俣宏サンの「南方熊楠」ブックガイドだった。南方熊楠、生誕150周年らしい。先週の毎日新聞でも特集だった。アラマタサン、話題の「南方熊楠 複眼の学問構想」を外して(書影なし、言及あり)、水木しげるの「猫楠 南方熊楠の生涯」、中沢新一の「南方マンダラ」、ネイチャー誌編の「南方熊楠英文論考」を上げていた。そして最後に岩波文庫の「十二支考」と留学時代の日記「南方熊楠 珍事評論」をオススメ。
アラマタサンの著書、楽園考古学くらいしか読んだことないけど、博学のくせにオープンマインドで(どれくらいオープンかといったらヘイエルダール再評価!!!とか言って専門家の人を辟易させるくらい)ちょっと一目置かざるをえない。 レガシーな男なので話題の新著には手を出さない主義だけど、南方熊楠はすでにあの世の方なので、オーケー(基本的に、死んでいる人の本を読みます)。
近著の松居竜五『南方熊楠 複眼の学問構想』(慶応義塾大学出版会・4860円)あたりが、現状では「熊楠学」の到達点といえる。
松居竜五『南方熊楠 複眼の学問構想』
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さて、熊楠について最初に語りだしたのは、「桁外れの人」という人間的魅力に感銘を受けた人たちだ。なかでも、本人自身が型破りな人物であった仏文学者・平野威馬雄の『大博物学者 南方熊楠の生涯』(リブロポート・絶版)が、日本に途方もない「知の妖怪」が実在したことを知らせた。 平野威馬雄『大博物学者 南方熊楠の生涯』
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1998年(平成10年)5月消滅
近年では、妖怪漫画家の水木しげるも限りない共感をもって、熊楠に愛された猫の目から見た「ご主人」の生活ぶりを『猫楠 南方熊楠の生涯』で描いた。裸で顕微鏡を覗(のぞ)いたり、「あらぬところ」を真面目に観察する脱線ぶりまで、よくぞ描いたと言いたくなる。
水木しげる『猫楠 南方熊楠の生涯』
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本格的な書簡類の読み込みを通じて「南方曼陀羅(まんだら)」や「やりあて」といった熊楠思想のキーワードを発掘したのは、社会学者・鶴見和子の『南方熊楠 地球志向の比較学』(講談社学術文庫・1188円)だった。科学と非科学が「大乗仏教」のモデルを借りて統合されるという、宇宙的な発想を衝撃的に語っている。
鶴見和子『南方熊楠 地球志向の比較学』
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ここでいよいよ熊楠の作品を直接読んでみる段となるわけだが、このキーワード「大乗仏教」を手掛かりに熊楠の著述を再編集してみせたのが、人類学者・中沢新一の『南方マンダラ』だ。解題では熊楠思想の「超現代性」が説かれる。
中沢新一『南方マンダラ』
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続いて一挙に全集(平凡社)へ行く手もあるが、現在品切れ。お薦めは『南方熊楠英文論考』「ネイチャー」誌編だ。実は論旨が最も分かりやすいのが、初期の英語論文なのだ。日本で知られていた拇印(ぼいん)の知識、中国古代に論じられた動物の保護色ほか、東洋の叡智(えいち)をもって西洋の権威と斬り結ぶ爽快感が楽しめる。
南方熊楠全集(平凡社)
「ネイチャー」誌編 『南方熊楠英文論考』
近代西欧諸科学に東洋の学を拮抗させた若き熊楠の挑戦
イギリスの科学雑誌『ネイチャー』に掲載された、南方熊楠の思想の原点とも言うべき英文論考及び関連文章63篇を全訳。
二十五歳から三十三歳まで英国に滞在し、学問三昧の生活を続けた熊楠の八年間の研究の足跡、ならびに欧米の学会に残した影響及び反響をはじめて詳細に伝える。
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「ノーツ アンド クエリーズ」誌篇『南方熊楠英文論考』
熊楠三大英文論考「燕石考」「神跡考」「鷲石考」から未発表のものまで全330篇を新たに訳出!
ロンドン時代に 二十代で『ネイチャー』誌にデビューした南方熊楠は、イギリスを去る一年前から、もうひとつの研究雑誌『ノーツアンドクエリーズ』にも寄稿をはじめた。日本帰国後も、活発に英文で論考を送り続け、それは六十五歳となる一九三三年まで、三〇年以上にわたった。『ノーツアンドクエリーズ』こそは、熊楠の生涯にわたる研究発表の主たる舞台であり続けたのである。
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これを読んだ上で、留学を終えた熊楠が日本語で雑誌に書きだした自由奔放な『十二支考』(岩波文庫・上1145円、下1037円)にすすむのがいい。
南方熊楠『十二支考』 岩波文庫
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十二支の動物はいずれも人間と深い関わりを持ち,人類の歴史とともに成長して,説話となって私たちの生活と結びついている.これらの動物について,古今東西の典籍を渉猟し尽くした著者(1867―1941)が,年の始めに蘊蓄を傾けた結果が本書である.奔放な語り口で自在に繰り広げられる知の饗宴.
上巻には虎,兎,竜,蛇,馬の各篇を収めた.
■内容紹介
難解と言われる南方熊楠の世界は,学問領域としては自然科学のうちの生物学と,人文科学のうちで民俗学が代表格にあり,両者の巧みな融合から独特な魅力がもたらされている.さまざまな主題がそこに展開するうちで,本書はもっとも民俗学的な話題にあふれており,南方が読破してきた古今東西にわたる文献類のうちで,人間と動物・植物との交流を表現する記事を,文字通り縦横無尽に駆使しながら,人獣交渉の民俗誌を世界大的な広がりのなかで浮彫させている.
『十二支考』というように十二種の動物,もっとも牛は書かれていない.書誌的には,1914年1月から十年間にわたり,雑詩「太陽」に連載された.1914年が寅年なので,第一回目は虎となっている.十二支は中国から伝来した知識であるが,それは日本人の日常生活に深く浸透しており,本書でも十二支にちなむ動物たちが言あげされる.そうした世間の需要に応えるように,南方もかなり読者にサービスして,該博な知識をたっぷり紹介しており,興味あふれる内容なのである.
(「解説」より)
犬と猫はなぜ仲が悪いのか.人や他の動物の寿命はどのように決まったか.猪と蝮の関係は? ……それからそれへと興味つきない話の数々.一見,好事趣味の暇つぶしのようだが,古い文化の探求と歴史解釈への有用な道具であり,細分化された学問にはない全人性と健康が感じられる.
下巻には羊,猴,鶏,犬,猪,鼠の各篇を収録.
十二支考 01 虎に関する史話と伝説民俗(新字新仮名、作品ID:526)
十二支考 02 兎に関する民俗と伝説(新字新仮名、作品ID:527)
十二支考 03 田原藤太竜宮入りの話(新字新仮名、作品ID:1916)
十二支考 04 蛇に関する民俗と伝説(新字新仮名、作品ID:2536)
十二支考 05 馬に関する民俗と伝説(新字新仮名、作品ID:2537)
十二支考 06 羊に関する民俗と伝説(新字新仮名、作品ID:2538)
十二支考 07 猴に関する伝説(新字新仮名、作品ID:2539)
十二支考 08 鶏に関する伝説(新字新仮名、作品ID:2540)
十二支考 09 犬に関する伝説(新字新仮名、作品ID:2541)
十二支考 10 猪に関する民俗と伝説(新字新仮名、作品ID:2542)
十二支考 11 鼠に関する民俗と信念(新字新仮名、作品ID:4790)
あとはどこまで行けるか。むろん、熊楠の著述は無限にある。知られざる留学時代の大冒険を語った日記『南方熊楠 珍事評論』(平凡社・品切れ)など、青春期の妄想告白の先駆と呼ぶべき珍品である。
南方熊楠『南方熊楠 珍事評論』 平凡社
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実は「十二支考」、すでに積んでたりする