競技間トランスファーと種目間トランスファー
競技間トランスファーと種目間トランスファー
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日本代表選手の競技間・種目間トランスファー
近年,種目転向が競技者の育成に与える好影響が注目されてきているため,種目転向もTID事業の一つにすべきではないかという声も出ています.
Jason(2004)は,「種目転向または種目トランスファーとは,既にある特定の競技を専門的に行っている競技者に対して,その能力や身体的特性を他の種目で生かす機会を提供しようとするものである」と定義しています.また,種目トランスファーには競技間トランスファーと種目間トランスファーがあり,前者は異なる競技種類の間に生じるトランスファーであり,後者は競技の中にある異なる種目の間に起こります.渡邊ほか(2013)は,日本の一流競技者の競技歴に関する量的・質的なエビデンスを収集・分析することを目的として,1960年以降の50歳未満の陸上競技日本代表104(男子67名,女子37名)にアンケートを実施しました.その結果は表1に示したようになります.表1から,競技間トランスファーについては,小学校から中学校までで約9割,中学校から高校までで約3割,種目間トランスファーについては,中学校から高校までで約半数,高校から大学または実業団までで約3割であることが分かりました.種目間トランスファーには,中学校期になく高校期から導入される種目への移行や,歩または走種目における距離変更なども含まれていますが,いずれにせよトランスファーを経験している日本代表は少なくないことが分かりました.
以上のことから,競技間または種目間トランスファー(種目転向)はスポーツ選手の発展途中に普遍的に存在していることが分かりました.また,種目転向により,変更後の競技パフォーマンスが変更前のパフォーマンスより高くなったという事例も多数挙げられています(渡邊,2014).
これらのことに基づいて,衣笠ほか(2018)は,種目最適型(種目転向)を加え,TID事業の大きな特徴として,改めて「種目特化型」,「種目適性型」,「種目最適型(種目転向)」の3つのTIDタイプに分類しました.これらの中では,種目特化型と種目適性型は松井(2015)と同様な定義があげられましたが,種目最適型は,特定の競技種目のアスリートが,自身の特性を活かすことのできる別の競技種目に変わるTIDタイプであると新しく定義されています.
TID事業において種目転向の重要性が重視されるようになったことは勿論TID事業の大きな進歩ですが,実際,今後解決すべき課題はまだまだ残っています.