移動手段の低価格化とインターネットだ
移動手段の低価格化とインターネットだ
こういった議論は「知識労働者は互いに近くにいると、アイデアや知識の循環が近接促進されるため、イノベーションが加速される」との論拠に基づいている
これは古くからある議論だ。1890年、経済学者のアルフレッド・マーシャルは「交易の秘訣には、謎など存在しない。秘訣は空気中に蔓延しており、子供らは無意識のうちに秘訣の多くを学んでいる」と書いている。20世紀最後の数十年期、経済学者達は様々な優れた手法でもって、企業の独立研究が近隣企業にいか影響を与えるかを測定し、強い実証的支持をかき集めた。このエビデンスに基づいて、「知識が近隣に波及することの重要性」は当然視されてきた。
新しいエビデンスや情報拡散の新しいテクノロジーを照らし合わせれば、以上の考えは見直す時期に来ている。遠距離移動やオンラインコミュニケーションの増加は、アイデアを地理的に幅広く循環することを促進しており、ローカルな知識の重要性が薄れつつあることを示す研究が着実に蓄積されている。
学問的な成果も参照してみよう。論文が、他の数学者にどれだけ引用されているのかを調べてみたところ、ここでも物理的に離れた研究で引用される傾向が強くなっていることが判明している。別の研究では、経済学者がトップ大学に出入りした際のキャリアを追跡している。最新のアイデアについて学ぶには、他の研究者の物理的近くにいることが重要であるなら、経済学者はトップ大学に移ったときに生産性(専門誌の論文における論文の質の変動観点から測定している)が上昇し、遠隔地に赴任すれば低下が実証されるはずである。これは実際に起こるはずであり、事実、1970年代にはまさに起こっている。しかしながら、この効果は、時代を経るごとに縮小しており、1990年代に消滅してしまっていることが、この研究は明らかにしている。
なぜこんなことが起こっているのか? 証拠は非常にハッキリしている――移動手段の低価格化とインターネットだ。様々な研究によると、拠点間の移動が容易になる(新しい鉄道路・航空路・幹線道路)と、遠隔の拠点間での共同作業が増加する。別の様々な研究では、インターネットにアクセスすることで、現地でしか入手できない知識の依存が低下することが実証されている。